1967年松竹。
『水で書かれた物語』の岡田茉莉子があまりにも美しかったので、同じ頃の作品をまた借りてきた。
やはり、美しい。
横顔の美しさが際立っている。筋の通った鼻梁の先の形のいい鼻の穴が日本人離れしている。父親譲りの美貌と言うが、岡田時彦は外国人の血が混じっていたのではないだろうか。チューリップのつぼみのような肉感的な唇も魅力的である。若尾文子とも藤純子とも違う艶やかな花が、ここに咲いている。その魅力をあますところなく引き出す吉田の演出の腕も冴えている。
目の眩むような明るい日差しの中を、白い日傘を傾けながら着物姿の岡田が遠くから陽炎に包まれて歩いてくるとき、観る者はそれまで見るのを無意識に拒み、なおざりにしていた何かが遂にやって来たのを感じる。世にも美しい使者の姿して。それは待ち望んでいたような、忌避していたような、人の心を落ち着かなくさせる何かである。
驚くのは、岡田の美しさだけではない。実に達者な演技者である。こんなに難しいテーマの、こんなに難しい役柄を完璧な理解と度胸をもって演じている。信頼するパートナーである吉田喜重監督の指示に従って言われたとおり演技しているだけなのか、それともプロデューサーとしての手腕も確かな岡田自身の知性の高さのあらわれなのか。いずれにせよ、二人の水も漏らさぬ呼吸の合い方は、演出と演技との最高水準の和合と言っていいだろう。
それにしても、男である吉田監督がなぜこんなふうに女というものを撮れるのか、それが不思議である。女を撮る名匠といえば溝口健二がいるが、吉田監督は溝口でさえ追究できなかった女のたもとに乗り込んでいる。すなわち、女の「性」に。なんでこんなことが可能なのだろう?
吉田監督は非常に二枚目であるが、若い頃から相当もてたがゆえに女を知り尽くした結果だろうか。
この作品から連想するのは、D.H.ロレンス『チャタレイ夫人』である。美しく上品な女主人公が、障害を持つ夫との性生活に満足できず、森番メラーズとの性愛に燃える。
岡田演じる主人公織子もまた、愛のないエリートの夫との夜の営みに満足できず、自分を激しく求めるゆきずりの労務者(高橋悦史)との情交に身をさらす。
チャタレイ夫人は、ロレンスの分身であったという。織子は吉田監督の分身なのだろうか。吉田と岡田茉莉子と織子は三位一体なのだろうか。
自らのイメージを大切にしたい銀幕の女優にとって、性欲にもだえる人妻の役などなかなかやれるものではない。恋愛というオブラートがあればこそ、格好がつくのである。それでさえ吉永小百合や原田知世にはできなかった。
岡田茉莉子は、美しいだけのお人形さんでいるようなタマではなかった。美貌の後ろに隠れたこの人の野望だか表現欲だかアプレな気質だかが、面白いと思う。単に、日本のヌーベルヴァーグの旗手と言われた吉田に追従しただけとは思えない。また、そんな従順なだけの女性を、吉田が生涯のパートナーにしなかったであろうことも確かだ。
吉田と岡田。二人の関係性こそが最大の謎にして魅力かもしれない。
評価: B+
A+ ・・・・・ めったにない傑作。映画好きで良かった。
「東京物語」「2001年宇宙の旅」
A- ・・・・・ 傑作。劇場で見たい。映画好きなら絶対見ておくべき。
「風と共に去りぬ」「未来世紀ブラジル」「シャイニング」
「未知との遭遇」「父、帰る」「ベニスに死す」
「フィールド・オブ・ドリームス」「ザ・セル」
「スティング」「フライング・ハイ」
「嵐を呼ぶ モーレツ!オトナ帝国の逆襲」「フィアレス」
ヒッチコックの作品たち
B+ ・・・・・ 良かった~。面白かった~。人に勧めたい。
「アザーズ」「ポルターガイスト」「コンタクト」
「ギャラクシークエスト」「白いカラス」
「アメリカン・ビューティー」「オープン・ユア・アイズ」
B- ・・・・・ 純粋に楽しめる。悪くは無い。
「グラディエーター」「ハムナプトラ」「マトリックス」
「アウトブレイク」「アイデンティティ」「CUBU」
「ボーイズ・ドント・クライ」
チャップリンの作品たち
C+ ・・・・・ 退屈しのぎにちょうどよい。(間違って再度借りなきゃ良いが・・・)
「アルマゲドン」「ニューシネマパラダイス」
「アナコンダ」
C- ・・・・・ もうちょっとなんとかすれば良いのになあ。不満が残る。
「お葬式」「プラトーン」
D+ ・・・・・ 駄作。ゴミ。見なきゃ良かった。
「レオン」「パッション」「マディソン郡の橋」「サイン」
D- ・・・・・ 見たのは一生の不覚。金返せ~!!