1962年松竹。
原作は藤原審爾の同名小説。舞台のモデルとなったのは、岡山県津山の山間にある奥津温泉。風光明媚の静かな温泉地である。約30キロ離れたところに、横溝正史『八つ墓村』の冒頭シーンでなぞられた日本犯罪史上もっとも凄惨と言われる津山30人連続殺人(1938年)の現場がある。
時代は戦後。
主人公の周作(長門裕之)は結核病みのうだつのあがらない文士くずれで、女に心中を持ちかける太宰治のような優柔不断な男。死にかけたこの学生を助けたことから、生気溌剌たる旅館の娘・新子(岡田茉莉子)は、結ばれることない恋に煩悶し、あたら青春を無駄にし、山里に朽ちていく。10代から30代まで、一人の女の半生を適確に演じた岡田の巧さ、美しさに目を奪われる。
憂鬱な文学青年である周作は、若き新子に心中をもちかける。新子は問いかける。
「私のこと好き?」
「ああ」
「それなら一緒に死んであげる」
二人の心中は失敗する。
17年後、結婚せずに一人で守ってきた温泉旅館を手放し、若さと希望を失った新子は、妻帯して東京の出版社に勤める周作に心中を持ちかける。周作は言下に断る。
「なにを馬鹿なこと言ってるんだ。」
結果、新子は自分の腕を切り、一人で流れに身を晒す。
これは、時を経て様相を変えていく男と女の関係を描いた「大人の」映画であるが、最後に浮かび上がるのは、男のずるさ、身勝手さである。その意味では、この作品以降の『水に書かれた物語』や『情念』などに続く吉田×岡田フェミニズムの密やかな出発点となっているのかもしれない。愛に身を捧げて老いた女が自由になる道は「死」しかない、そんな時代の不自由が、着物姿の岡田のきつく締めた帯に託されているようだ。
マイナス点は音楽。
林光という名だたる作曲家を起用したことが裏目に出てしまった。この音楽はうるさすぎる。自己主張しすぎて、物語の背景たることを忘れている。挿入の仕方もよくない。音楽がないほうがいいのに・・・と思うシーンが多々ある。
あるいは、重厚悲壮な音楽を仰々しく挿入しないことには、岡田茉莉子という女優の発散する「生」のバイタリティが強すぎて、役柄の上でさえ自死を選ぶことの不自然さを覆い隠せないという深慮からだろうか。
確かに、岡田は人を殺す役は似合っても、自殺する役は似合わない女優である。
評価: B-
A+ ・・・・・ めったにない傑作。映画好きで良かった。
「東京物語」「2001年宇宙の旅」
A- ・・・・・ 傑作。劇場で見たい。映画好きなら絶対見ておくべき。
「風と共に去りぬ」「未来世紀ブラジル」「シャイニング」
「未知との遭遇」「父、帰る」「ベニスに死す」
「フィールド・オブ・ドリームス」「ザ・セル」
「スティング」「フライング・ハイ」
「嵐を呼ぶ モーレツ!オトナ帝国の逆襲」「フィアレス」
ヒッチコックの作品たち
B+ ・・・・・ 良かった~。面白かった~。人に勧めたい。
「アザーズ」「ポルターガイスト」「コンタクト」
「ギャラクシークエスト」「白いカラス」
「アメリカン・ビューティー」「オープン・ユア・アイズ」
B- ・・・・・ 純粋に楽しめる。悪くは無い。
「グラディエーター」「ハムナプトラ」「マトリックス」
「アウトブレイク」「アイデンティティ」「CUBU」
「ボーイズ・ドント・クライ」
チャップリンの作品たち
C+ ・・・・・ 退屈しのぎにちょうどよい。(間違って再度借りなきゃ良いが・・・)
「アルマゲドン」「ニューシネマパラダイス」
「アナコンダ」
C- ・・・・・ もうちょっとなんとかすれば良いのになあ。不満が残る。
「お葬式」「プラトーン」
D+ ・・・・・ 駄作。ゴミ。見なきゃ良かった。
「レオン」「パッション」「マディソン郡の橋」「サイン」
D- ・・・・・ 見たのは一生の不覚。金返せ~!!