2007年アメリカ。

 原題はHE WAS A QUIET MAN.
 犯罪が起こった時に犯人を知る隣人たちがテレビカメラに向かってよく言うセリフである。日本語にするなら、「大人しそうな人でしたよ」ってところか。
 この「大人しそうな」男の内面を描いた映画である。

 カメラも良く、テンポも良く、諧謔精神に富み、退屈することなく観られる。
 しかるに、後味が悪い。
 最近よくある「夢落ち」もの。つまり、話の流れのある一点(映画の一場面)で時間は止まっていて、それ以降画面に流れるストーリーは主人公の夢や妄想や白昼夢であった、それが結末に至って暴露される、という構成。
 物語につきあう側からすると、「夢落ち」はある意味反則だと思うので、よほど巧い使われ方をしないと、落胆するか頭に来てしまう。「ここまで観る者を引っ張っておいて、その決着はないだろう」と感じてしまうからだ。
 今まで観た映画の中で「夢落ち」が巧く機能していると思ったのは、『未来世紀ブラジル』(1985年)、『オープン・ユア・アイズ』(1997年)、『パッセンジャー』(2008年)、『ステイ』(2005年)なんかである。いずれも「夢落ち」というトリックが、単なるトリックのためのトリックになっておらず、物語のテーマや主人公の置かれている心理状況と強く絡み合った現象として位置されているので、結末が分かった時に、謎が解けたカタルシスと同時に物語のテーマや主人公の心理がより一層観る者に伝わる仕組みとなっている。
 この『その男は、静かな隣人』は、そう言う意味で、「夢落ち」が失敗しているように思う。それまで延々と語られ、観る者がつきあわされてきた「ほのぼの恋愛サクセスストーリー」が、実は主人公ボブ(クリスチャン・スレイター)が死ぬ前の一瞬の間に頭の中で描いた「夢」だったということを知った時に、あまりいい気持ちがしないのだ。
 なぜなら、観る者は最初のうちこそ、鈍重でオタッキーで野暮ったい窓際会社員ボブに反感を持つとは言わないまでも好意を抱かないけれども、ボブが身体障害者となったヴァネッサ(エリシャ・カスバート)とつきあい始めるあたりから、ボブの不器用さと純情ぶりに共感を持ち始めるからである。つまり、ボブに感情移入し、応援している自分に気づくようになる。これは、クリスチャン・スレイターの演技が素晴らしいからである。そしてたぶん、観る者はこの不器用なボブの後ろに、麻薬や痴漢や拳銃不法所持などの不始末を重ね続ける不器用な役者クリスチャン・スレイターの姿を重ね合わせる。応援したくなるのが人情ではないか。
 そこに来て「すべては夢でした」はあんまりだと思うのである。

 作り手の狙いとしては、競争社会の落ちこぼれが抱えたストレスと精神の病みが一縷の望みのごとく紡ぎ出す妄想と、その絶望的な末路を描くことで、現代社会の不条理を伝えたかったのだろう。
 が、現代社会の不条理というもはや陳腐なテーマを伝えるのに「夢落ち」が許容できるかという点は於くとしても、クリスチャン・スレイターはミスキャストであろう。

 


評価: C+


A+ ・・・・・ めったにない傑作。映画好きで良かった。 
        「東京物語」「2001年宇宙の旅」   

A- ・・・・・ 傑作。劇場で見たい。映画好きなら絶対見ておくべき。
        「風と共に去りぬ」「未来世紀ブラジル」「シャイニング」
        「未知との遭遇」「父、帰る」「ベニスに死す」
        「フィールド・オブ・ドリームス」「ザ・セル」
        「スティング」「フライング・ハイ」
        「嵐を呼ぶ モーレツ!オトナ帝国の逆襲」「フィアレス」
        ヒッチコックの作品たち

B+ ・・・・・ 良かった~。面白かった~。人に勧めたい。
        「アザーズ」「ポルターガイスト」「コンタクト」
        「ギャラクシークエスト」「白いカラス」
        「アメリカン・ビューティー」「オープン・ユア・アイズ」

B- ・・・・・ 純粋に楽しめる。悪くは無い。
        「グラディエーター」「ハムナプトラ」「マトリックス」 
        「アウトブレイク」「アイデンティティ」「CUBU」
        「ボーイズ・ドント・クライ」
        チャップリンの作品たち   

C+ ・・・・・ 退屈しのぎにちょうどよい。(間違って再度借りなきゃ良いが・・・)
        「アルマゲドン」「ニューシネマパラダイス」
        「アナコンダ」 

C- ・・・・・ もうちょっとなんとかすれば良いのになあ。不満が残る。
        「お葬式」「プラトーン」

D+ ・・・・・ 駄作。ゴミ。見なきゃ良かった。
        「レオン」「パッション」「マディソン郡の橋」「サイン」

D- ・・・・・ 見たのは一生の不覚。金返せ~!!