2010年フランス。

 理由もなく意味もなく行く手に立ちふさがるあらゆるものを破壊していく殺人鬼の話なのだが、その正体が車のゴムタイヤ(rubber)であるというところがミソである。

 夕日に照らされながら道なき道を行くゴムタイヤの孤独な心情を描き、携帯電話で話す女子大生をドアの隙間から覗き込むゴムタイヤの抑圧された変態的セクシュアリティを描き、ドライブインのカーテンの背後でシャワーを浴びるゴムタイヤのナルシシズムと人を小馬鹿にした尊大さを描く。伝統的な撮影手法と使い尽くされた演出と過去の様々な映画の名シーンの記憶によって、ゴムタイヤにすら我々は感情や意志を勝手に読んでしまう、読んでしまわざるを得ない。映画の持つ文法は、そのまま映画の「不自由さ」でもあると、観る者は気づかされることになる。
 ご丁寧にもデビュー監督は、そのうえゴムタイヤの「物語」を劇中劇として設定する。ゴムタイヤの一連の行動を遠くから双眼鏡で鑑賞する観客たちを用意し、「物語」そのものを批評させるのである。
 作品そのものが一種の映画批評、物語批評になっているのであるが、この込み入った構造を是ととるか非ととるかで、評価は分かれてこよう。

 フランス人であり、成功したミュージシャンであり、脚本・撮影・音楽・編集・監督を自らこなすデビュー監督は、作家性(芸術志向)が強いのだろう。
 娯楽を提供するよりも、既成の映像表現に対するアンチテーゼを表現したかったのだと思われる。
 この作品を観ていて想起したのは、劇作家ピランデッロの『作者を探す6人の登場人物』であった。虚構の「物語」の登場人物達のふるまいが、現実の人生に作用して、いつの間にか現実を変容させ、虚構と現実の皮膜が破れて立場が入れ替わる。と同時に我々の認識する現実の「慥からしさ」が根底から崩されていく。
 メタフィクションの形式を利用してフィクション(虚構)の欺瞞性を暴き出すといったところか。

 残念ながら、今回はそれが成功しているとは言い難い。
 わざわざ劇中劇にしたことの効果は上がらなかった。実験作にして失敗作というべきだろう。
 しかし、である。
 すべてを破壊していくタイヤの行く先がハリウッドであることを知る時に、デビュー監督の野心の大きさが感得されよう。
 ゴダールの再来と言われる日も近いかもしれない。

 意味のある失敗作だ。

 

評価: C-

A+ ・・・・・ めったにない傑作。映画好きで良かった。 
        「東京物語」「2001年宇宙の旅」   

A- ・・・・・ 傑作。劇場で見たい。映画好きなら絶対見ておくべき。
        「風と共に去りぬ」「未来世紀ブラジル」「シャイニング」
        「未知との遭遇」「父、帰る」「ベニスに死す」
        「フィールド・オブ・ドリームス」「ザ・セル」
        「スティング」「フライング・ハイ」
        「嵐を呼ぶ モーレツ!オトナ帝国の逆襲」「フィアレス」
        ヒッチコックの作品たち

B+ ・・・・・ 良かった~。面白かった~。人に勧めたい。
        「アザーズ」「ポルターガイスト」「コンタクト」
        「ギャラクシークエスト」「白いカラス」
        「アメリカン・ビューティー」「オープン・ユア・アイズ」

B- ・・・・・ 純粋に楽しめる。悪くは無い。
        「グラディエーター」「ハムナプトラ」「マトリックス」 
        「アウトブレイク」「アイデンティティ」「CUBU」
        「ボーイズ・ドント・クライ」
        チャップリンの作品たち   

C+ ・・・・・ 退屈しのぎにちょうどよい。(間違って再度借りなきゃ良いが・・・)
        「アルマゲドン」「ニューシネマパラダイス」
        「アナコンダ」 

C- ・・・・・ もうちょっとなんとかすれば良いのになあ。不満が残る。
        「お葬式」「プラトーン」

D+ ・・・・・ 駄作。ゴミ。見なきゃ良かった。
        「レオン」「パッション」「マディソン郡の橋」「サイン」

D- ・・・・・ 見たのは一生の不覚。金返せ~!!