2011年東映作品。

 「デンデラ」とは「蓮台(れんだい)」のなまったもので、墓地または死者を葬送するところの意である。
 『遠野物語』の舞台となった岩手県遠野市には、この名前のついた丘があり、その昔、60歳を超えた老人はここに遺棄されたと言われている。いわゆる「姥捨て伝説」である。

 60歳で捨てられるとは今の感覚からすれば、あまりに若すぎる。この作品では、70歳になった老女(浅丘ルリ子)が息子によって雪山に置き去りにされるシーンから始まる。
 まず、浅丘ルリ子が捨てられる老婆の役をやるということにビックリする。
 確かに実年齢でも撮影当時71歳(1940生まれ)である。どんな役でもそれなりにこなせる感性と演技力とを備えている女優だから、役不足というわけでは全然無い。
 ただ、自らを美しく見せることへのこだわりとプライドの高さゆえに、こんな老け役にして汚れ役を引き受けたことにビックリしたのである。
 タイトルは忘れたが、しばらく前にやったテレビドラマの中で、往年の人気女優の役を演じる浅丘が、ライバル女優と張り合って役者根性を示すために鏡の前でメークを拭い去るというシーンがあった。浅丘は本当にメークを拭き取り、すっぴんをテレビカメラ(視聴者)にさらしたのである。そのとき、「この人、変わったな」と思ったものである。石坂浩二との離婚が変化のきっかけになったのであろうか。(どうでもいいことだが・・・)

 実際のところ、昔話の70歳にしては浅丘は若すぎるし、美しすぎるし、バタ臭すぎる(瞳にブルーコンタクト入ってないか?)。『楢山節考』の主演女優達(田中絹代、飯田蝶子、坂本スミ子)に比べると、「リアリティにかなり欠ける」と思うのであるが、それでもノーメークで顔の皺も隠さず、方言にも果敢にチャレンジしている。同じ日活映画のヒロインだった吉永小百合を、これで完全に追い抜いたな、と思う。

 出だしで感じたこのリアリティの欠如は、しかし、話が進んでくると気にならなくなってくる。それは、これまでに村の男達に捨てられた老婆達は、なんとか生き残って女だけの共同体(「デンデラ」と名づけている)を村人の来ない山向こうに築き、自給自足の暮らしを30年も続けていて、そこでは、新参者の浅丘ルリ子はたかが70歳の小娘に過ぎないのである。
 相対性のもたらす不思議というやつで、山のふもとの村の感覚では「70歳にしては若すぎる」浅丘の不自然な老婆姿も、最高齢100歳(草笛光子)のデンデラの中では「まだ70歳だから若く見えて当たり前」に映るのである。映画の終盤に向かうにつれ、浅丘はどんどん若くなっていくように見えるのであるが、100分近く老婆達の姿に付き合わされた視線には、もはやそんなこと気にならないのである。

 これはマジな話で、自分は老人ホームに勤めるようになって、これまで列車の中で見かけていた老人達が相対的に「若く」見えるようになった。
 老人ホームの住人の平均年齢は90歳以上なので、80歳で「やっと一人前」、70歳はまだ「青二才」、60歳なんか「ションベン臭い小娘」って感じである。40代の自分なんか彼等から見たら、「ケツの青い赤ん坊、人間未満」なのかもしれない。
 いやはや・・・。
 
 デンデラに住んでいる老婆達を、豪華女優陣が演じているのも見所である。
 共同体の創設者にしてリーダーの草笛光子の貫禄、それと張り合う片眼の倍賞美津子のいつもながら味のあるカッコイイ演技。若々しさと美貌とで売っていた点では、浅丘に勝るとも劣らない山本陽子も重要な役どころで出ているのだが、なんと自分は終わりのクレジットを見るまで「山本陽子」が出ていたことに気づかなかった。それくらい、普通の老婆になりきっているのである。

 『世界で一番美しい夜』でもそうだが、キャスティングの妙と役者の活かし方がすこぶる上手いのが、天願監督の第一の才能であろう。これは父親譲りの吸引力ゆえなのかもしれない。役者冥利に尽きる芝居をさせてくれるのである。

 あえて、偉大な父の代表作(カンヌグランプリ『楢山節考』)と同じテーマにチャンレジし、女だけの村という空間を撮ることでフェミニズム的視線も説教臭くなく取り入れ(逆に男だけの老人共同体を想像してほしい。しまいには権力闘争の揚げ句に全滅することだろう)、理想郷と見えたデンデラにも熊や雪崩といった自然の脅威は情け容赦なく襲い来る、人が生きることはどうにもこうにも「苦しみ」である、という仏教的視点を匂わせ、それでも「生きたい」という人間(生命)の性(さが)、あるいは業?を描く。
 志の高さと、現代の状況に対する鋭敏な視点と、深い洞察と、安易な結論の提示を拒否するテーマとの好ましい距離感の保持において、自分の中ではすでに今村昌平を超えた。

 本当に見事な才能である。
 代表作を撮る日も近いであろう。



評価:B+

A+ ・・・・・ めったにない傑作。映画好きで良かった。 
        「東京物語」「2001年宇宙の旅」   

A- ・・・・・ 傑作。劇場で見たい。映画好きなら絶対見ておくべき。
        「風と共に去りぬ」「未来世紀ブラジル」「シャイニング」
        「未知との遭遇」「父、帰る」「ベニスに死す」
        「フィールド・オブ・ドリームス」「ザ・セル」
        「スティング」「フライング・ハイ」
        「嵐を呼ぶ モーレツ!オトナ帝国の逆襲」「フィアレス」
        ヒッチコックの作品たち

B+ ・・・・・ 良かった~。面白かった~。人に勧めたい。
        「アザーズ」「ポルターガイスト」「コンタクト」
        「ギャラクシークエスト」「白いカラス」
        「アメリカン・ビューティー」「オープン・ユア・アイズ」

B- ・・・・・ 純粋に楽しめる。悪くは無い。
        「グラディエーター」「ハムナプトラ」「マトリックス」 
        「アウトブレイク」「アイデンティティ」「CUBU」
        「ボーイズ・ドント・クライ」
        チャップリンの作品たち   

C+ ・・・・・ 退屈しのぎにちょうどよい。(間違って再度借りなきゃ良いが・・・)
        「アルマゲドン」「ニューシネマパラダイス」
        「アナコンダ」 

C- ・・・・・ もうちょっとなんとかすれば良いのになあ。不満が残る。
        「お葬式」「プラトーン」

D+ ・・・・・ 駄作。ゴミ。見なきゃ良かった。
        「レオン」「パッション」「マディソン郡の橋」「サイン」

D- ・・・・・ 見たのは一生の不覚。金返せ~!!