8月5日(日)晴れ
●タイムスケジュール
10:08 飯能駅着
10:20 名栗車庫行きバス乗車(国際興行バス)
11:00 さわらびの湯バス停下車
歩行開始
有間ダム~名栗湖~白谷沢
12:40 岩茸石
13:20 山頂到着
昼食
14:30 下山開始
岩茸山~湯基入(とうぎり)林道
16:15 名栗温泉大松閣
歩行終了、温泉入浴
17:35 名栗川バス停より乗車
18:15 飯能駅着
●所要時間 5時間15分(歩行時間3時間45分+休憩時間1時間30分)
棒ノ嶺(棒ノ折とも言う)は2度目である。
白谷沢の渓流の美しさと気持ちよさ、山頂からの抜群の展望、そして下山した後の温泉、と山登りの魅力が揃っていて、これまでに登った山の中でも1、2をあらそう「登ってよかった山」「また登ってみたい山」である。
都心からも近くて、登山道も整備されている。歩く時間も長すぎず短すぎず、手頃な達成感を味あわせてくれる山である。
この季節、山登りは一種しごきである。水分補給につとめないと、脱水症状や熱射病になる恐れがある。汗びっしょりになった洋服が肌に吸い付くのをものともせず、ひたすら重い足を前に前にと運ぶとき、自分の前世は苦行僧だったのではないかと思うほどである。
クーラーの効いた部屋でゴロゴロしていれば楽なのに・・・。
山登りとは因果な趣味である。
とは言え、棒ノ嶺は別格。
白谷沢の渓谷は、夏こそ行きたいポイントなのである。
鬱蒼とした森の中、黒々した大小の岩を洗いながら軽快な音を立てて走る白い流れは、クーラーの作り出す人工的な冷気とは桁違いの爽やかなパワーあふれる気を周囲に発している。 部屋にじっとしていたのでは決して味わえない、受けることのできない、新鮮な良質のエネルギーを充填できる。だから、山登りは止められない。
沢登りの楽しさ、気持ちよさを十分に満喫したいのなら、できるだけ朝早く出かけるのがおすすめである。
今日はしかし、遅い「出」となった。
登山口に向かう途中の名栗湖畔で、すでに下山した人々と挨拶を交わす。
登山口には「白谷の泉」という名の湧き水が吹き出している。しっかり水分補給をして、山道に踏み込む。
楽しく気持ちよい渓流登りが終わると、岩茸石という巨岩が山道をふさいでいる場所に出る。風が心地よい。
尾根の片側に針葉樹林、片側に広葉樹林という、植生の画然たる境目をみながら高度を稼いでいく。最後の木の階段が長くてしんどい。
権次入峠(ごんじりとうげ)で右に折れて、埼玉と東京の境になっている尾根をひと登り。
いきなり洋々たる関東平野が眼下に広がるのに衝撃を受ける。
白く光る西武球場のドームはもちろん、はるか彼方の新宿副都心の高層ビル群に到るまでの密集した人の暮らしぶりが、一望に納まっている。
まったく、ゴミゴミした中でクヨクヨつまらんことを考えている日々の暮らしの愚かさよ。
草の上にシートを敷いて昼食。
おにぎり2個、サンマの缶詰、枝豆、ゆで卵。ペットボトルに入れて冷凍した麦茶がほどよく溶けて、実にうまい!
東屋やベンチのある広い山頂には、30名ほどの人やグループがいた。
仰向けになって、しばらく休む。
雲がどんどん形を変えていく。
夏の空だ。
下りは、名栗川橋バス停に出る湯基入林道のコースを取る。同じ様な林道がひたすら続くので、面白くないし、標識が無いので不安になってくる。なんだか歩くほどに、山の奥のほうに入り込んでいるような気がする。
(この道でいいのだろうか?)
こういうとき、判断が難しい。
あと10分歩けば、標識が出てくるかもしれない。麓の景色が見えてくるかもしれない。
と思う反面、(このまま進み続けるより、早めに標識のあるところまで引き返したほうがいいのかもしれない)とも思う。標識を見落とした可能性もある。
こういうときに限って、なぜか車も人もまったくすれ違わない。
不安はパニックの親である。パニックになったら、事態は悪化するばかりだ。
(とりあえず、あの先に見える橋まで行って、どうするか考えよう)
橋に着いたら、やっと道標があった。見落としても不思議でない、草むらに半ば隠れた、小さな道標が。
(やれ、助かった!)
林道の終点は、由緒ある温泉旅館「大松閣」。
鎌倉時代に発見された古湯で、若山牧水も泊まったという。
1500円払って、最上階にある展望風呂に入る。
空いていて、ゆったりできる。
ラジウム鉱泉の冷浴もある。
風呂上りに、フロント横の売店で買った缶ビールと加藤牧場のアイスクリームを食べる。
このアイスクリームが風味さわやか、舌触り絶妙で、すこぶる美味であった。
さわらびの湯も良いが、森の中の古い温泉旅館の落着いた雰囲気も心和む。
夏の夕刻の名栗の里は、素晴らしい一日を祝福するかのような、やさしい、平和な光に包まれていた。