1972年アメリカ映画。

 なんだか英語教材のようなタイトルであるが、サイレント・ランニングとは「潜水艦が攻撃を避けるためにソナーで所在をつかまれないよう、音を立てないで行動すること」を言うらしい。
 映画に出てくるのは潜水艦でなく宇宙船であるが、このタイトルが果たしてストーリーにふさわしいのかどうか疑わしい。
 ぶっちゃけてB級である。

 『2001年宇宙の旅』、『未知との遭遇』、『スタートレック』、『ブレードランナー』という錚々たるSF傑作群の特撮を手がけたトランブル監督だけに、特撮技術は見事なものである。(ただし船体内のセットはちゃちさが目立つ。)
 宇宙空間にあたかもエデンの園の如く浮かぶ花と緑と泉の楽園というアイデアも秀逸である。この童話的な感覚と色彩はどこかで経験したと思ったが、調べてみたら、この監督の父親ドン・トランブルは『オズの魔法使い』(ヴィクター・フレミング監督、1939)の特撮スタッフだったと言う。とすると、主役フリーマン・ローウェル(=ブルース・ダーン)は、故郷に帰れなくなったドロシーか・・・。なるほど、ジョーン・バエズの挿入歌Rejoice In The Sunは、名曲Over The Rainbowを歌うジュディ・ガーランドの夢見るような、どことなく切ない歌声に重なる。この映画は、ダグラス・トランブルが父親へ捧げるトリュビュートなのかもしれない。
 宇宙船での生活において、なくてはならない人間のパートナーとして「ドローン」と呼ばれるランドセル型ロボットが出てくるが、その不格好なさまとぎくしゃくした動きがかえって愛らしく、微笑ましい。『スターウォーズ』のR2D2の先駆けであろう。
 ロボットをのぞけば、登場人物たった4人で、うち3人を残る一人が殺してしまうので、途中からブルース・ダーンの一人芝居となる。とりたててハンサムでも魅力的でもないが、存在感のある役者である。自身が創造した花園でベージュのローブをまとって、鷹だか鳶だか鷲だかを腕に留める立ち姿は、モーゼかノアを連想させる。

 魅力的な要素がたくさん詰まった作品であるが、脚本が今ひとつ面白くない。地上では消滅した緑と生態系を、仲間の命を奪ってまでも守り抜きたいというフリーマンという人物を、性格異常者として描きたいのか、人間性の最後の光として宇宙空間に放ちたいのか、描き方があいまいである。
 うがった見方をすれば、There is no place like home.(我が家にまさるところなし)がキーワードであった『オズの魔法使い』の30年代から、ベトナム戦争を経て、帰りたい心の拠り所としてのhomeを見失った70年代への変遷が隠れたテーマなのかも知れない。


評価: C+

A+ ・・・・・ めったにない傑作。映画好きで良かった。 
        「東京物語」「2001年宇宙の旅」   

A- ・・・・・ 傑作。劇場で見たい。映画好きなら絶対見ておくべき。
        「風と共に去りぬ」「未来世紀ブラジル」「シャイニング」
        「未知との遭遇」「父、帰る」「ベニスに死す」
        「フィールド・オブ・ドリームス」「ザ・セル」
        「スティング」「フライング・ハイ」
        「嵐を呼ぶ モーレツ!オトナ帝国の逆襲」「フィアレス」
        ヒッチコックの作品たち

B+ ・・・・・ 良かった~。面白かった~。人に勧めたい。
        「アザーズ」「ポルターガイスト」「コンタクト」
        「ギャラクシークエスト」「白いカラス」
        「アメリカン・ビューティー」「オープン・ユア・アイズ」

B- ・・・・・ 純粋に楽しめる。悪くは無い。
        「グラディエーター」「ハムナプトラ」「マトリックス」 
        「アウトブレイク」「アイデンティティ」「CUBU」
        「ボーイズ・ドント・クライ」
        チャップリンの作品たち   

C+ ・・・・・ 退屈しのぎにちょうどよい。(間違って再度借りなきゃ良いが・・・)
        「アルマゲドン」「ニューシネマパラダイス」
        「アナコンダ」 

C- ・・・・・ もうちょっとなんとかすれば良いのになあ。不満が残る。
        「お葬式」「プラトーン」

D+ ・・・・・ 駄作。ゴミ。見なきゃ良かった。
        「レオン」「パッション」「マディソン郡の橋」「サイン」

D- ・・・・・ 見たのは一生の不覚。金返せ~!!