八重山 001●歩いた日  3月21日(木)

●天気    晴

●タイムスケジュール
 9:10 中央本線・上野原駅
      歩行開始
 9:25 牛倉神社
 9:50 根本山頂上(322m)
10:15 秋葉山頂上(391m)
八重山パンフ10:40 八重山ハイキングコース入口
11:30 展望台
12:00 八重山頂上(530.7m)
      昼食
12:50 下山開始
13:10 能岳(向風山)頂上(542.7m)
13:30 虎丸山頂上(468m)
14:00 虎丸山登山口(西シ原)
14:50 中央本線・上野原駅
      歩行終了
15:00 秋山温泉送迎バス乗車
15:20 秋山温泉

●所要時間 5時間40分(歩行4時間10分+休憩1時間30分)

 手元にある数冊のガイドブックには載っていない。秋山二十六夜山に登った折、上野原駅改札脇の情報コーナーでパンフレットを見つけ、「次はここにしよう」と取っておいた。上野原駅から歩いて登れて、コースも整備されていて、低山ながら展望も良さそうで、自然も満喫できそうで、早めに下りて秋山温泉にデビューするのも良い。
 家を出る朝方は冷たい風に気後れしそうであったが、上野原駅で下車した時にはポカポカ陽気に変わっていた。

 上野原駅の北側に広がる上野原宿は名前の通り高台にある。台地の崖っぷちを中央本線が走っていて、駅のホームからは南側の盆地を見渡すことができる。盆地の中央に湖のように光っているのは、獲物を呑んだ蛇のごとく胴体を膨らませた桂川。なんとも変わった地形である。
 パンフレットで紹介されている通り、まず駅から階段を上がって上野原宿に向かう。
八重山 003 15分も歩くと最初の目的地である牛倉神社に到着。上野原の鎮守で、祭神の筆頭に挙げられているのは保食神(うけもちのかみ)である。この女神は、アマテラスの弟であるツキヨミによって殺されてしまうのだが、その屍体の頭からは牛馬、額からは粟、眉からは蚕、目からは稗、腹からは稲、陰部からは麦・大豆・小豆が生まれたと言う。つまり、食べ物の神様である。しっかり拝んでおこう。
 拝殿からは銀か鉛のようなイメージの強い気が感じられた。
八重山 004 境内には「撫牛」と呼ばれる腹這いになった牛の像がある。説明板にこうある。
「この神牛を常に撫でれば穢れや災いを祓い除き、吉事を招くと言われています。また痛む処のある人は、自分の患部を撫で、その手で神牛の同じ個所を撫でさすれば、たちまち病気が平癒するとも言われております。」
 さっそく腰を撫でる。介護の仕事ももうすぐ丸一年になる。今後も続くかどうかはひとえに腰の具合にかかっているのだ。

 神社のすぐ近くの路地から根本山に向かう。
 パンフレットで紹介しているコースは、上野原の町を取り囲むように連なっている五つの山(根本山・秋葉山・八重山・能岳・虎丸山)を踏破する縦走コースである。
 と言っても、どれも300~500mの低山なので疲労感は少ない。眼下の町との距離を確認しながら、町の彼方に壁のように聳えている青い山脈(その親分はひとり白く輝く富士山)を眺めながら、気持ちのいい森林浴が楽しめる。
 根本山の木の間から、試合をしている日大明誠高校の球児達が見えた。


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 秋葉山の頂上には社が立っている。火防(ひよけ)・火伏せの神として信仰されている秋葉大権現(あきはだいごんげん)を祀ったものだろう。ここからの眺望は素晴らしい。富士山が真正面に望める。落ち着いた雰囲気のある山頂で、思索にふけるのにぴったりだ。
 墓場の中を通り抜けていったん町の道路に下りる。
 路肩の桜の向こうに見える扇山が優美だ。
 上野原中学校の正面に八重山ハイキングコースの入口がある。ここからが本番。


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八重山


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 八重山は、昭和の初めに上野原で生まれ育った水越八重さんにちなんで命名された。というのも、この山一帯(東京ドーム7個分)はもともと八重さんの家のものだったのである。それを子供たちの学習と上野原のためにということで寄贈されたそうである。
 偉かおなごばい。


 森の中は実に気持ちいい。歩きやすく整備はされているが、高尾山のように観光地化されていないので、素朴な静かさに満たされている。可愛らしい沢もある。いまはまだ芽吹く前だが、新緑の頃はどんなに爽やかなことだろう。
 ところどころに立てられた子供の自然学習のための掲示板を読みながら、ゆるやかな山道を登っていく。星型の屋根をした木造の展望台が見えてきた。

 展望台からは実に素晴らしい景色が楽しめる。
 360度に近い大パノラマ。
 こんな低山でこれだけの山々を視界におさめることができるとは奇跡のよう。八重山が絶妙な位置に存しているためだろう。
 この位置からだと、矢平山と倉岳山の間に富士山が顔を覗かせる。
 倉岳から時計回りに、高畑山、三ツ峠、本社ガ丸、扇山、不老山、3時の位置に権現山が大きい。三頭山や笹尾根を遠くに望み、6時の位置に生藤山、頂上に売店が小さく見えるのは陣馬山、城山・高尾山は9時の位置(真東)に遠くかすみ、石老山を回ると、丹沢、蛭ヶ岳、檜洞丸、大室山といった丹沢軍団が居並んで、道志山塊をたどって矢平山に達する。近くから遠くまで実によく見えるので、地図を片手に山の位置関係を調べるのに飽きることがない。
 高尾からほんの少し(3駅)足を伸ばすだけで、高尾山に勝るとも劣らない豊かな自然と、高尾山をはるかにしのぐ眺望と静けさが味わえる。しかも、高尾山の景観を台無しにしている圏央道はここにはない。はっきり言って、ここは穴場である。「ああ、いい山だなあ~」と心の底から思える。

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 展望台の先客は地元の老夫婦。話し好きで、いろいろなことをレクチャーしてくれた。
「あそこに見えるのが談合坂。よく交通情報で出てくるでしょ。その向こうの山腹にあるのは新しい住宅地だけど、アパートの半分は空き家になっている。帝京科学大学上野原キャンパスの学生を当て込んで作ったんだけど、アルバイトがないから若い人は居着かない。あれが権現山。昔はあの頂上でよく博打をやっていた。高いところにあるから警察が登ってきてもすぐに分かるからね。これはタラの木だね。芽をうまくむしればまた生えてくるのに枝ごと折って持って行ってしまう人がいるから困るんだよね。・・・・・・」
 地元民ならではのローカルな情報に惹きつけられる。
 展望台から階段を一登りで八重山頂上。
 東屋やベンチが並ぶ気持ちのいいスペースである。ここで昼食。


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 今日の最高点である能岳(542.7m)からは、北側の生藤山が間に何も挟まずに真正面に見える。ということは生藤山からも八重山は見えていたはずである。先日登ったときの写真を確認する。一番手前の低い山がそうかな?


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生藤山&三国山 011



 コースをちょっと戻って虎丸山に向かう。山頂までの登りが意外ときつい。虎模様のロープ゚を頼りに息を切らしながら登る。
 頂上にはこれまた社があった。何も説明が書いてないので祭神も由来も分からないが、手を合わせる。きつい登りのあとで鼓動がバクバクしている。息も荒い。それが鎮まるまで手を合わせ続ける。

 ここからパンフレットのコースをはずれて、西シ原方面に下る山道をとる。
 ハイキングコースでないだけあって、これまでの道にくらべて道幅も狭く、整備も行き届いていない。が、それがまた雰囲気があって良い。
 人が通らないところには思わぬ宝が眠っているものである。
 しばらく下ると、不意に緑あふれる谷間が現れた。植生が急に変わったのか、本来のこの山の様相なのか。森の精でも出てきそうな清浄な空間であった。おそらく、ここが今日一番のパワースポットだろう。


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 山から下りた西シ原の集落にあった二十三夜碑。ここでも月待ち信仰があったのだ。
 権現山での博打の由来は、おそらく月を待つ間の遊興なのかもしれない。村人達はそうやって実際に「ツキ」を待っていたのだ。

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八重山 041 上野原駅北口から100メートルあたりの停留所から秋山温泉行きの無料送迎バスが出ている。15時のバスに乗って秋山温泉に行く。
 大人800円、年中無休。
 温泉スパ(プール)あり。露天あり。源泉掛け流しあり。
 泉質はアルカリ性低張性温泉。天然の炭酸ガスを含み、源泉温度は約37度とぬるめである。身体に負担なく、いつまでも入っていられる。
 周囲を山に囲まれた、実にくつろげる温泉であった。 
 帰りのバスは、若々しいばあちゃん達で満員であった。
 (あんたらくらいの歳じゃ、もう驚かないよ、私は。)



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