閉鎖病棟 1994年刊行。

  精神病院の閉鎖病棟を舞台に描く患者たちの人間ドラマである。
 精神科医である著者の知悉している題材だけに、患者たちのリアリティある来歴と症状と言動に満ちている。
 特筆すべきは、物語が医者や看護師や患者の家族ら外部の視点で描かれるのでなく、患者たちの視点を持って語られる点である。周囲の無理解と偏見の中で、患者たちが彼らなりに筋の通った理屈と自然な感情の動きを持って日々を送り、患者同士の友情を育んでいる様子があたたかいまなざしで描かれている。
 感涙と安堵に落着する結末に、やはり帚木が異端愛の持ち主であることが証明される。