1961年大映。
 昭和キネマ横丁の一作。

 光源氏が須磨に流されるまでを描いたものである。
 華やかな都を離れての須磨・明石の蟄居生活は、光源氏の人生最大の挫折であり苦難の時であった。もっとも、こともあろうに天皇に嫁ぐべき姫を寝取ってしまい、しかもその姫は源氏の政敵の大臣の娘だったのが都落ちの直接の原因なのだから、助平源氏の自業自得なのである。
 政権が変わり、明石から戻った源氏は藤原道長もかくやと言うほどのこの世の春を迎えることになる。望月のときである。
 この映画は、光源氏の青春時代の女性遍歴を描いたものであり、テーマは「恋の苦しみ」と言えよう。

 美貌の人、諸芸の天才、男も女も虜にする魔力オーラーの持ち主。
 光源氏が、次から次へと狙った女性をものにし浮名を流していくさまは、まさに平安のプレイボーイ。彼はただ腕を広げて待っているだけでよかった。女性のほうからどんどん彼の香しい袂の中に飛び込んでくるのである。
 同じ男として「うらやましい、今畜生、エロ事師め」とやっかむところであろうが、この映画を見るとちょっと考えを改める。
 青年時代の光源氏の恋愛は必ずしも幸せなものではないのである。
 彼が一番愛した女性は、父帝の后(藤壺)であった。禁断の関係である。はじめから結ばれることは叶わない。断ち切れぬ思いに苦しみ続け、堪え切れずに夜這いして強引に契りを結んでしまう。欲望の叶えられた喜びもつかの間、あとは罪悪感といや増した恋しさとで二人は煉獄の火に焼かれることになる。
 彼の正妻である左大臣の娘(葵上)は、美しく上品で非の付けどころがない。しかし、プライド高くいつも取り澄ましていて源氏の必要とする安らぎを与えてくれない。
 源氏の派手な女遊びは、本当に欲するものが得られない苦しみがもたらした自堕落であり代償行為であることを、この映画は教えてくれる。(もちろん、若者の好奇心や征服欲や抑えきれない性欲もあろうが。)
 そして、彼が本当に欲していたものは、藤壺と瓜二つの桐壺、源氏を生んですぐ亡くなった実の母親だったのである。
 幼少の頃得られなかった母の愛を必死に取り戻そうとするマゾコン青年――それが光源氏だった。
 というのがこの映画の解釈である。

 であるから、さわやかで気品ある美貌の持ち主でありながらどこか憂愁の翳りを宿す雷蔵のプロフィールは、この源氏像にピッタリである。雷蔵も幼くして実母と別れていることが、この重なりをより濃いものにする。
 雷蔵源氏は決して心からの笑顔を見せない。
 恋はいつだって喜びより苦しみに軍配が上がる。
 
 源氏の憧れの人である桐壺=藤壺を演じるのは、高島忠夫の妻にして高嶋政宏、政伸の母である寿美花代。映画出演はとても少ないので貴重な映像といえるが、実に美しく麗しい。マゾコン源氏が求めるものを全身で体現する演技も見事である。
 
 葵上に若尾文子、朧月夜に中村玉緒、末摘花に水谷良重(現八重子)と役者をそろえているのも見物である。


 
評価:B-

A+ ・・・・・ めったにない傑作。映画好きで良かった。 
        「東京物語」「2001年宇宙の旅」   

A- ・・・・・ 傑作。劇場で見たい。映画好きなら絶対見ておくべき。
        「風と共に去りぬ」「未来世紀ブラジル」「シャイニング」
        「未知との遭遇」「父、帰る」「ベニスに死す」
        「フィールド・オブ・ドリームス」「ザ・セル」
        「スティング」「フライング・ハイ」
        「嵐を呼ぶ モーレツ!オトナ帝国の逆襲」「フィアレス」 

B+ ・・・・・ 良かった~。面白かった~。人に勧めたい。
        「アザーズ」「ポルターガイスト」「コンタクト」
        「ギャラクシークエスト」「白いカラス」
        「アメリカン・ビューティー」「オープン・ユア・アイズ」

B- ・・・・・ 純粋に楽しめる。悪くは無い。
        「グラディエーター」「ハムナプトラ」「マトリックス」 
        「アウトブレイク」「アイデンティティ」「CUBU」「ボーイズ・ドント・クライ」

C+ ・・・・・ 退屈しのぎにちょうどよい。(間違って再度借りなきゃ良いが・・・)
        「アルマゲドン」「ニューシネマパラダイス」「アナコンダ」 

C- ・・・・・ もうちょっとなんとかすれば良いのになあ。不満が残る。
        「お葬式」「プラトーン」

D+ ・・・・・ 駄作。ゴミ。見なきゃ良かった。
        「レオン」「パッション」「マディソン郡の橋」「サイン」

D- ・・・・・ 見たのは一生の不覚。金返せ~!!