木下恵介1 1956年松竹。
 
 木下恵介監督はゲイだったそうな。

 確かに監督の有名なポートレイトを見ると、その垢抜けたお洒落なたたずまい、柔らかな物腰はゲイっぽい。助監督には美青年ばかり雇っていたと言う。手元にある『日本映画ベスト150』(文藝春秋発行)の372ページに、坂東妻三郎と並んだ若い頃の木下の写真が載っているが、少年のようなスレンダーな体、白い半袖シャツに白い半ズボン、どう見てもマスカラをしているとしか思えない麗しい瞳をした、性別を超越した美青年が、坂妻に寄り添いながらカメラに媚を売っている。若き日の美輪明宏ばりのシスターボーイである。


木下恵介&坂妻 002


 ゲイの芸術家など珍しくもない。
 ゲイの映画監督もまた珍しくない。ヴィスコンティ、パゾリーニ、デレク・ジャーマン、ジェームズ・アイボリー、ガス・ヴァン・サント、ペドロ・アルモドバル、ローランド・エメリッヒ、・・・・・。本邦では橋口亮輔がカミングアウトしている。
 だから、作り手がゲイであるという観点でその作品についてあれこれ言うのはあまりに芸がない。
 しかし、観る者もまた同じセクシュアリティの持ち主であるときに、どうしたってゲイ的な部分を作品中に探してしまうのである。
 組合意識とでも言うべきか。
 で、木下恵介の作品は題材的にはほとんどゲイチックなものはない。ヴィスコンティが『ベニスに死す』を撮り、パゾリーニが『ソドムの市』を撮り、フランコ・ゼフィレッリの映画には若い男の裸のケツが必ず出てくるといったふうには、わかりやすい性的嗜好は見られない。むしろ抑圧・隠蔽している。男女の恋愛もの、家族ドラマ、文芸もの、戦争もの・・・木下監督の取り上げるテーマは大衆(=マジョリティ)の好みに即したもので、だからこその人気監督だったのである。唯一の例外が『惜春鳥』という作品らしい。これは日本最初のゲイ映画と言われている。(ソルティ未見)


 『夕やけ雲』も、貧乏のため船乗りになる夢をあきらめ、家業の魚屋を継がなければならなかった少年の物語で、貧しい庶民の生活と心情とがあたたかい眼差しで描かれている良品である。丁寧な語り口、節度ある確かな演出、豊かな演技。少年のやるかたない心が、まさに空を染める夕やけのように観る者の心に切なくも哀しく染み入ってくる。
 あえてゲイチックなところを言うならば、主人公の少年洋一と親友原田との仲のよさであろうか。学ラン姿の二人が手をつないで歩いているところなど(その握り合った手と手がアップにされるところなど)、思わずキュンとくる。
 しかし、それは作り手がゲイであることの決め手――決めてどうするという意見はあるが――となるほどのショット(絵)ではない。
 むしろ、自分がゲイっぽさを発見したのは、洋一の勝気な姉である豊子(=久我美子)の描かれ方にある。

 久我美子は、小津安二郎の映画に出てくるきれいなお嬢さん女優というイメージしかなかった。
 が、この映画では貧乏から脱出するために自らの若さと美貌を武器に金持ちの男を追いかける、強引でエゴイスティックな女を演じていて、それがまた非常にはまっている。この演技でブルーリボン助演女優賞を得たのも頷ける好演である。
 木下監督は、久我を綺麗に撮ってはいる。
 しかし、色気がないのである。着替えるシーンや鏡台に向かって化粧するシーン、ヒラヒラの純白のドレスを着るシーンなどが出てくるにも関らず、画面はまったく乾いている。男性監督が女優を撮るときに巧まずも滲み出て来るような艶がない。増村保造が若尾文子を、吉田喜重が岡田茉里子を、篠田正浩が岩下志麻を、小津安二郎が原節子を撮ったような具合では「おんな」を撮ってはいない。くだんのドレスのシーンなんか、久我そのものより久我の着ているドレスの美しさを強調したいかのようだ。 
 それはまさにゲイ的な女性の見方である。

 決めつけるのはまだ早い。
 木下作品は今ブームで、多くの作品がDVD化され、レンタルショップに並んでいる。
 ほかの作品で検証してみよう。
 
 
評価:B-

A+ ・・・・・ めったにない傑作。映画好きで良かった。 
        「東京物語」「2001年宇宙の旅」   

A- ・・・・・ 傑作。劇場で見たい。映画好きなら絶対見ておくべき。
        「風と共に去りぬ」「未来世紀ブラジル」「シャイニング」
        「未知との遭遇」「父、帰る」「ベニスに死す」
        「フィールド・オブ・ドリームス」「ザ・セル」
        「スティング」「フライング・ハイ」
        「嵐を呼ぶ モーレツ!オトナ帝国の逆襲」「フィアレス」    

B+ ・・・・・ 良かった~。面白かった~。人に勧めたい。
        「アザーズ」「ポルターガイスト」「コンタクト」
        「ギャラクシークエスト」「白いカラス」
        「アメリカン・ビューティー」「オープン・ユア・アイズ」

B- ・・・・・ 純粋に楽しめる。悪くは無い。
        「グラディエーター」「ハムナプトラ」「マトリックス」 
        「アウトブレイク」「アイデンティティ」「CUBU」「ボーイズ・ドント・クライ」
    
C+ ・・・・・ 退屈しのぎにちょうどよい。(間違って再度借りなきゃ良いが・・・)
        「アルマゲドン」「ニューシネマパラダイス」「アナコンダ」 

C- ・・・・・ もうちょっとなんとかすれば良いのになあ。不満が残る。
        「お葬式」「プラトーン」

D+ ・・・・・ 駄作。ゴミ。見なきゃ良かった。
        「レオン」「パッション」「マディソン郡の橋」「サイン」

D- ・・・・・ 見たのは一生の不覚。金返せ~!!