1951年松竹。
『二十四の瞳』『浮雲』と並ぶ高峰秀子の代表作である。
この女優が演技達者なのはいまさら言うまでもない。その後物書きとしても成功したけれど、頭がいいのも間違いない。
が、自分は高峰秀子人気がよくわからないのである。
とりたてて美人ではない。スタイルも純日本人体型の大根足である。セクシー女優というには庶民的すぎる。
これまでにはなかったタイプの女優――といったところが魅力だったのだろうか。
国産初の総天然色映画として有名なこの作品は、喜劇に分類されている。
都会でストリッパーをしているオツムの弱いリリィ・カルメン(=高峰)が、「故郷に錦を飾る」べく浅間山麓の村に同僚マヤと帰省して一騒動起こす、という単純なストーリー。
高峰の演技はあくまで伸びやかで屈託がない。素朴な田舎の人びとの反応も滑稽で微笑ましい。ストリッパーとなった娘を愛しながらも恥に思う父親(=坂本武)の複雑な胸中が描かれるとはいえ、全体には喜劇的トーンで統一されているのは間違いない。全編オールロケ、村人の騒動を悠然と見守る浅間山をバックに、広々としたすがすがしい風景が適確なロングショットで捉えられている。牧歌的という言葉の似合うコメディではある。
しかし、自分は素直に楽しめなかった。
リィリィは最初、東京で成功した人気舞踏家という触れ込みで帰郷する。村人は、垢抜けた都会風のリィリィとマヤを持て囃す。彼女たちの行くところには人垣ができる。男たちはやに下がる。
しかるに、リィリィがかつて好きだった男(=佐野周二)に迷惑をかける羽目になって、名誉挽回のため村人への「芸術披露」を行うくだりに至って状況は一変する。
村人たちは、リィリィの言う芸術とはストリップのことであり、舞踏とは裸踊りのことであると知る。
東京に帰る前日、リィリィとマヤは、父親や子供たちをのぞいた村人総出の舞台で裸踊りを披露する。男たちが首を伸ばし固唾を呑んで見守る中、ビキニが、そして最後の一枚が、はらりと宙に舞う。
翌日、謝礼をもらい汽車に乗って故郷をあとにするリィリィは満足気である。
「田舎の人たちに本物の芸術を見せてやった。」
女優のような鷹揚な笑みを浮かべ、見送る男たちに悠然と手を振る。
一方、男たちはもはやリィリィを馬鹿にしている。鼻でせせら笑い、いやらしい仕草で、二人を見送る。転落した女への侮蔑丸出しである。
不愉快きわまる話ではないか。
これが喜劇として喝采を博すほど、当時の大衆も批評家もお目出度かったのである。フェミニズム的に盲だったのである。
赤線や青線がまだあった、街角にパンパンが立っていた1951年じゃ仕方のないことであろう。
監督(脚本)の木下恵介はどうだったのか。
登場する男たちと同じ視線、同じ価値観でリィリィを見たのだろうか。
そこが興味深いところである。
ゲイである木下監督(←決めつけてる)は、ヘテロの男のようには状況を見ていなかった可能性がある。彼なら、劇中の真面目な校長先生(=愛すべき笠智衆
)同様、リィリィのストリップショーに行かなかったかもしれない。行っても、他の男のようには興奮せずに、冷めた目で舞台や周囲の観客たちを観察していたであろう。
自分を喜ばせ満足させてくれるものを下に見て侮蔑する男たちの倒錯した性は、木下恵介の目にはどう映ったのだろうか。
この作品が実は喜劇ではなく風刺劇なのではないか、と思うのはその点である。
そのように観たときに、映画の冒頭で流れ、劇中でも繰り返し流れる、おそらくはこの映画のために作られたであろう『ふるさと』という歌が、喜劇には似合わないもの哀しい旋律を帯びている不可解に合点がゆくのである。その調べには、懐かしいけれど愚昧な風土に対するアンビバレントな思いが響いている。
この映画のパロディとして、1978年に同じ松竹から『俺は田舎のプレスリー』(満友啓司監督)が上映された。こちらは、青森県が舞台で、故郷の秀才である青年・真実男がフランスで性転換手術をし「女」になって帰還するという話である。主演は、まさに適役カルーセル麻紀であった。
「カルメン」と同じような転落(男から女への!)の物語で、村人は最初から冷たい目でかつての秀才に遇する。
しかしながら、この映画は途方もない美しさに輝く傑作であった。それはカルメンが帰郷で得られなかったものを真実男は得たからである。
木下監督は『プレスリー』を観て歯ぎしりしたに違いない。
評価:B-
A+ ・・・・・ めったにない傑作。映画好きで良かった。
「東京物語」「2001年宇宙の旅」
A- ・・・・・ 傑作。劇場で見たい。映画好きなら絶対見ておくべき。
「風と共に去りぬ」「未来世紀ブラジル」「シャイニング」
「未知との遭遇」「父、帰る」「ベニスに死す」
「フィールド・オブ・ドリームス」「ザ・セル」
「スティング」「フライング・ハイ」
「嵐を呼ぶ モーレツ!オトナ帝国の逆襲」「フィアレス」
B+ ・・・・・ 良かった~。面白かった~。人に勧めたい。
「アザーズ」「ポルターガイスト」「コンタクト」
「ギャラクシークエスト」「白いカラス」
「アメリカン・ビューティー」「オープン・ユア・アイズ」
B- ・・・・・ 純粋に楽しめる。悪くは無い。
「グラディエーター」「ハムナプトラ」「マトリックス」
「アウトブレイク」「アイデンティティ」「CUBU」「ボーイズ・ドント・クライ」
C+ ・・・・・ 退屈しのぎにちょうどよい。(間違って再度借りなきゃ良いが・・・)
「アルマゲドン」「ニューシネマパラダイス」「アナコンダ」
C- ・・・・・ もうちょっとなんとかすれば良いのになあ。不満が残る。
「お葬式」「プラトーン」
D+ ・・・・・ 駄作。ゴミ。見なきゃ良かった。
「レオン」「パッション」「マディソン郡の橋」「サイン」
D- ・・・・・ 見たのは一生の不覚。金返せ~!!