1985年。
『ゆきゆきて、神軍』(原一男監督、1987年)と並ぶ伝説的なドキュメンタリー映画である。
尋常な映画ではない。
まず二人の監督、佐藤満夫は撮影中に、あとを継いだ山岡強一は撮影完成後に、日本国粋会金町一家――いわゆる暴力団の手にかかって亡くなっている。なんの誇張も修飾もなく命がけの撮影だったのである。
二人が殺された理由はまさにこの映画の中心テーマに関わる。
安価で大量の使い捨て労働力が手に入る山谷(寄せ場)を牛耳って、日雇い労働者を搾取することで私腹を肥やそうとする大手建設会社、その手先である手配師や暴力団に対して、地域の労働者たちが連帯し闘い抜いた姿を描いたものなのである。
その点で、正直この映画のタイトルは誤解を招く。「やられたらやりかえせ」では「目には目を」のハムラビ法典と変わりない。単なる無法者の仁義なき戦いを想像させる。自分も見るまではそう思っていた。
しかし、山谷の日雇い人夫たちのやったことは、争議団を結成してビラを配ったり行政や相手企業と団体交渉したり組合をつくったりの、れっきとした労働運動なのである。大勢で手配師を取り囲んで吊るし上げる、暴力団の情宣車をひっくり返し火を放つなど、手荒な部分はあるものの、全体的に言えば「まっとうな喧嘩」である。暴力団同士の血で血を洗う抗争とはわけが違う。
80年代半ばと言えばバブル突入。日本人が浮かれていた頃である。
軽いこと、明るいこと、万事を浅いノリで受け流すことが時代の空気であった。重くて、暗くて、深刻なテーマや人は敬遠された、どころか馬鹿にされた。(そんな時代の空気をいち早く読んで「軽・明・浅」のモードを身に付け大衆を煽動したのが、タモリでありユーミンではなかったか。自分が基本的にこの二人を好きになれないのは、この時代の記憶があるからだ。)
そんななか、日雇い労務者はフリーターと名称を変えた。労働運動は「ダサい、かっこ悪い、うざったい」の代表になった。
バブル期の日本人のどれだけが、そのとき山谷で起こっていたことを知っていただろうか。興味を持って追っていただろうか。
自分は知らなかった。おそらくマスコミも、立て続けに二人の監督が殺されるという異常な事件を大きくは取り上げなかったのではないか。
とにもかくにも、久方ぶりに見る熱い映画であった。
熱さの一因は、もちろん、命を賭した制作者の情熱がフィルムに漲っているからである。あるいは、亡くなった監督の念が焼き付けられているからである。観ているうちに、過去の出来事という気がしなくなる。臨場感がすさまじい。
出演者のパワーも熱い。このような「本気」の大衆を今や日本のどこに見ることができようか。反原発デモにないのはまさにこの熱さなのだ。管理社会がそこに住む人々から奪った熱さ――やみくもに生きる意志――がここにはある。
熱さはまた上映会場にあった。
上映されたのは中野にあるPlan-Bという施設である。30年も前の山谷をテーマにした映画にそれほど人が集まるとは思っていなかった。いたとしても、左翼系活動家か労働問題に関心ある市民運動家で、中高年ばかりと思っていた。
若い人が多かったのである。
というより、20~70代くらいまでこれほど幅広い年代が男女問わず揃っている上映会は昨今珍しい。
そして、観客たちは――自分も含めて――スクリーンに流れている物語を受身的に観ているのではなかった。スクリーンと客席との間に、気の交換とも言える不思議な対話があった。積極的視聴がなされていた。上映終了後に起こった拍手はなによりの証拠である。優れたドキュメンタリーとは、そういうものなのだろうか。
この作品は、山谷での闘いを軸に据えながら、戦中・戦後の日本の様々な問題が盛り込まれている。路上手配と暴力支配、強制連行、被差別部落問題、在日朝鮮人問題、精神病院での虐待、先行的保安処分、地域排外主義、下層差別、台頭するファシズムの芽・・・・・。
見ようによっては、詰め込み過ぎで脈絡がない。消化不良を起こす。初めて知ることばかりで免疫のない人は、知恵熱を出すかもしれない。日本の暗部に呆然となるかもしれない。
このフィルムは常に待っているのだ。
全編を咀嚼できる人間との出会いを。
評価:B+
A+ ・・・・・ めったにない傑作。映画好きで良かった。
「東京物語」「2001年宇宙の旅」
A- ・・・・・ 傑作。劇場で見たい。映画好きなら絶対見ておくべき。
「風と共に去りぬ」「未来世紀ブラジル」「シャイニング」
「未知との遭遇」「父、帰る」「ベニスに死す」
「フィールド・オブ・ドリームス」「ザ・セル」
「スティング」「フライング・ハイ」
「嵐を呼ぶ モーレツ!オトナ帝国の逆襲」「フィアレス」
B+ ・・・・・ 良かった~。面白かった~。人に勧めたい。
「アザーズ」「ポルターガイスト」「コンタクト」
「ギャラクシークエスト」「白いカラス」
「アメリカン・ビューティー」「オープン・ユア・アイズ」
B- ・・・・・ 純粋に楽しめる。悪くは無い。
「グラディエーター」「ハムナプトラ」「マトリックス」
「アウトブレイク」「アイデンティティ」「CUBU」「ボーイズ・ドント・クライ」
C+ ・・・・・ 退屈しのぎにちょうどよい。(間違って再度借りなきゃ良いが・・・)
「アルマゲドン」「ニューシネマパラダイス」「アナコンダ」
C- ・・・・・ もうちょっとなんとかすれば良いのになあ。不満が残る。
「お葬式」「プラトーン」
D+ ・・・・・ 駄作。ゴミ。見なきゃ良かった。
「レオン」「パッション」「マディソン郡の橋」「サイン」
D- ・・・・・ 見たのは一生の不覚。金返せ~!!