1956年大映作品。

 原作は泉鏡花。(いま気づいたが泉鏡花と小泉今日子は似ている。キョンキョンの後ろに無意識に日本的幻想性を錯覚し、彼女を上げ底していたのか)
 やはり最大の娯しみはスター女優の美しき競演にある。
 主役の淡島千景はこれまで注目したことのない女優であった。下手すると、国会議員で大臣まで務めた扇千景と混同してしまう。二人ともに宝塚出身であるし。ウィキによると、10歳近く年下の扇千景が、尊敬する先輩である淡島から名前をもらったようである。『渡る世間は鬼ばかり』にも出演していたらしいが、どうも記憶にない。
 今回若い頃の主演作をはじめて見て、演技の上手さに感嘆した。気風がよくて情の強い、好きな男の前では少女のように一途で可愛い芸者・お孝を艶やかに演じている。着物の着こなしや立ち居振る舞いも見事で、古き日本女性の美を感得させるに十分だ。
 ライバル清葉を演じる山本富士子の美貌は言わずもがな。特にすっと通った鼻梁の高貴さは、現代に至るまで他の女優と混同されることを許さないトレードマークと言える。
 そして、芸者見習いお千世役の若尾文子。なんて可愛いのだろう。同年に撮られた『赤線地帯』(溝口健二監督)では吉原遊郭で一番人気の娼婦をしたたかに艶やかに演じている。あどけなさの残る可愛らしい少女と、男を手玉に取るマキャベリな女。そのどちらも作為なく演じきれるところが若尾文子の女優としての魅力であろう。この映画では後年若尾を演技派女優に磨き上げた増村保造が助監督を務めている。
 
 自分世代(60年代生まれ)では、市川崑と言えば石坂浩二主演の金田一耕介シリーズがまず連想される。この映画を観ているとなんだか『犬神家の一族』(1976年)と重なるのである。いや、『犬神家』がこの『日本橋』のパロディだったのかと思われるのである。
 たとえば、主役のお孝(=淡島)が毒を飲んで自害するシーンは、どうしたって犬神松子(=高峰三枝子)の白くなった唇の最期を思わせる。お孝の恋人葛木(=品川隆二)が出家姿で町を去るシーンは、事件解決後に小汚い帽子をかぶって村を一人去ってゆく金田一耕介を思わせる。二人に共感的な警察官笠原(=船越英二)のバンカラ的ふるまいは、「よ~し、わかった」と手を打つ警察署長の加藤武を思わせる。惨殺されるお千世のいたましい着物姿は、わらべ唄に合わせて次々と惨殺されていく『悪魔の手毬唄』の娘たちや『獄門島』の浅野優子を思わせる。映画の冒頭でタイトルクレジットが出る直前の、亡くなった芸者の幽霊出現に驚く芸妓たちのショットも、湖や時計台で死体を発見して驚く若い女中のショットと重なる。
 どうも型が共通なのである。
 その理由を泉鏡花と横溝正史の類縁に求めるべきか。市川監督のフォークロア的あるいは絵柄的好みと見るべきか。それとも市川の細君で両作品の脚本を担当している和田夏十のせいなのか。
 いずれにせよ、劇画チックな派手さ、面白さというのが市川監督の人気の秘密のような気がする。



評価:B-

A+ ・・・・・ めったにない傑作。映画好きで良かった。 
        「東京物語」「2001年宇宙の旅」   

A- ・・・・・ 傑作。劇場で見たい。映画好きなら絶対見ておくべき。
        「風と共に去りぬ」「未来世紀ブラジル」「シャイニング」
        「未知との遭遇」「父、帰る」「ベニスに死す」
        「フィールド・オブ・ドリームス」「ザ・セル」
        「スティング」「フライング・ハイ」
        「嵐を呼ぶ モーレツ!オトナ帝国の逆襲」「フィアレス」     

B+ ・・・・・ 良かった~。面白かった~。人に勧めたい。
        「アザーズ」「ポルターガイスト」「コンタクト」
        「ギャラクシークエスト」「白いカラス」
        「アメリカン・ビューティー」「オープン・ユア・アイズ」

B- ・・・・・ 純粋に楽しめる。悪くは無い。
        「グラディエーター」「ハムナプトラ」「マトリックス」 
        「アウトブレイク」「アイデンティティ」「CUBU」「ボーイズ・ドント・クライ」

C+ ・・・・・ 退屈しのぎにちょうどよい。(間違って再度借りなきゃ良いが・・・)
        「アルマゲドン」「ニューシネマパラダイス」「アナコンダ」 

C- ・・・・・ もうちょっとなんとかすれば良いのになあ。不満が残る。
        「お葬式」「プラトーン」

D+ ・・・・・ 駄作。ゴミ。見なきゃ良かった。
        「レオン」「パッション」「マディソン郡の橋」「サイン」

D- ・・・・・ 見たのは一生の不覚。金返せ~!!