1951年東宝。

 大岡昇平原作のメロドラマである。
 あらすじを簡単に言うなら、
「壊れた夫婦関係の中で、夫・忠雄は近所の派手な人妻と浮気して駆け落ち。残された妻・道子は、同居する年下の親類のイケメン・勉から熱い思いを寄せられる。貞淑を貫くべきか、真実の愛に生くるべきか。迷う道子の取った行動は、思い切った、驚くべきものであった・・・。」
 昼メロレベルのどうってことない陳腐なストーリーである。
 が、迷う人妻が田中絹代で、駆け落ちする夫が森雅之で、監督が溝口健二で、舞台が武蔵野の森と来れば、見事、文芸調に昇華される。

 とにかく田中絹代の演技が巧い。
 美人でないのに主役を張り続けられたのは、この演技力の賜物。
 駆け落ちした忠雄に家の権利書を持ち逃げされた道子は、両親から受け継いだ家屋敷を守るためには、自分が死ぬ以外にないことを知る。一方、勉の若々しい情熱に戸惑い、貞淑であり続けることに揺らぎを感じてもいる。
 思い悩む道子(=田中絹代)は、両親の墓の前で途方にくれる。
 この短いシーンの田中の演技が途轍もない。
 道子が、逡巡の末に自殺を決意するに至る過程を、刻一刻の表情と所作の変化を通して、観る者に伝えることに成功している。
 あまりの素晴らしさに、DVDプレイヤーを一時停止し、繰り返し見てしまった。

 武蔵野の自然も素晴らしい。
 舞台となるのは、国分寺の「はけ」と呼ばれる、崖線の下を野川が流れる地域である。散策する二人の会話から、どうやら今の中央線の武蔵小金井駅付近から国分寺、恋ヶ窪、東村山あたりの場景らしい。
 今ではすっかり住宅地になってしまったが、50年代初頭にはこんなに豊かで麗しい森と水圏が残っていたのだ。なんともったいない・・・。
 道子と勉が野川の水源を求めて散策するシーンがある。二人がたどり着いたのは、恋ヶ窪にある小さな美しい池であった。
 それは今、国分寺駅の近くの日立中央研究所の敷地内にあって、毎年、桜と紅葉の時期の2回、研究所の門が一般に開放されている。

 喪われた貞淑という徳を偲びながら、今度の休みは「はけの道」をたどってみようかな。



評価:B+


A+ ・・・・・ めったにない傑作。映画好きで良かった。 
        「東京物語」「2001年宇宙の旅」   

A- ・・・・・ 傑作。劇場で見たい。映画好きなら絶対見ておくべき。
        「風と共に去りぬ」「未来世紀ブラジル」「シャイニング」
        「未知との遭遇」「父、帰る」「ベニスに死す」
        「フィールド・オブ・ドリームス」「ザ・セル」
        「スティング」「フライング・ハイ」
        「嵐を呼ぶ モーレツ!オトナ帝国の逆襲」「フィアレス」  

B+ ・・・・・ 良かった~。面白かった~。人に勧めたい。
        「アザーズ」「ポルターガイスト」「コンタクト」
        「ギャラクシークエスト」「白いカラス」
        「アメリカン・ビューティー」「オープン・ユア・アイズ」

B- ・・・・・ 純粋に楽しめる。悪くは無い。
        「グラディエーター」「ハムナプトラ」「マトリックス」 
        「アウトブレイク」「アイデンティティ」「CUBU」
        「ボーイズ・ドント・クライ」 

C+ ・・・・・ 退屈しのぎにちょうどよい。(間違って再度借りなきゃ良いが・・・)
        「アルマゲドン」「ニューシネマパラダイス」「アナコンダ」 

C- ・・・・・ もうちょっとなんとかすれば良いのになあ。不満が残る。
        「お葬式」「プラトーン」

D+ ・・・・・ 駄作。ゴミ。見なきゃ良かった。
        「レオン」「パッション」「マディソン郡の橋」「サイン」

D- ・・・・・ 見たのは一生の不覚。金返せ~!!