2010年デンマーク、スウェ-デン製作。

 原題は「復讐」という意味のデンマーク語。邦題はずいぶんと明るく前向きで、文科省推薦映画のごとく魅力に欠いたものになってしまった。
 が、内容はディープで現実的かつ現代的である。アカデミー賞とゴールデングローブ賞の外国語映画賞を受賞しているのも道理と思える。
 テーマとなるのは、暴力と復讐と赦し。舞台は、土埃煙るアフリカ難民キャンプと豊かなデンマークの一都市。主人公は同じクラスの二人の少年――いじめられっ子エリアスとクールな美少年クリスチャン。エリアスの父親アントンは医師であり、仕事場であるアフリカ難民キャンプと別居中の妻子のいるデンマークを行ったり来たりして、対照的な二つの世界を、二つの国を、二つのシーンをつなぐ役目を果たしている。この巧みな設定によって、二つの世界が「暴力」という言葉でつながっている様が描き出されていく。
 戦闘地域の真ん中にある難民キャンプでは連日のように残虐非道の暴力が吹き荒れる。アントンは瀕死状態で運び込まれる怪我人を、最低限の設備もないような吹きさらしのテントの中で手術・治療し続ける。その姿は崇高でカッコいい。ここでの彼は難民たち(特に子供たち)のヒーローである。
 だが、物質的に豊かな法治国家であるデンマークにも理不尽な暴力は日常茶飯に見られる。アントンは、クラスでいじめられている息子エリアスが、友人クリスチャンにそそのかされ、いじめっ子に暴力による復讐を果たしたことを知る。アントン自身もまた、自動車整備工に因縁をつけられ、子供たちの前で二度も殴られる。殴り返さないアントンを、子供たちは理解できない。ここでの彼は、妻との関係破綻、息子の教育に悩む普通の父親である。
 二つの世界の暴力は、その規模や頻度や残虐さこそ違えど、怒り・不寛容・無知・欲望・劣等感・関係齟齬といった同じ温床から生まれ、暴力に対して暴力で返せば決して終わりはないという点で、まったく同じ。世界は一つ、人の無明は不変である。

 世界に共通する暴力の構造や連鎖を表現した優れた映画として『ビフォア・ザ・レイン』や『バベル』を挙げることができる。
 その意味で、この映画は二番煎じ、三番煎じという評価も免れない気はするのだが、上記二つの映画では希望は描かれなかった。暴力の連鎖からの抜け道は示されず、見終わったあとの後味は重かった。
 スサンネ・ピア監督は、かすかな希望の光を照らす。それは巨大な暴力の嵐の前では、簡単に吹き飛んでしまう土にまいた種のようなものだが、たくさんの種が根気よくまかれれば、生き残って苗と育ちゆく種もあるだろう。

 この映画を観て連想したもう一つの映画は、なんと『エクソシスト』であった。
 70年代アメリカの「エクソシスト(悪魔祓い)」は、悪魔に取り憑かれた少女リーガンを祓った。その悪魔は遠いアフリカの大地からやって来たという設定であった。映画では、アメリカの裕福な家庭から、一転して、未開の大地にシーンは飛んで、合理主義の光のささない古くからの蛮習にいそしんでいる原地人の姿を映し出した。
 だが、こと現代に巣食う「暴力」という悪魔を鑑みたときに、その真の出生地は途上国ではなく、アメリカや日本をはじめとする先進国にあるように思う。開発という名で行われた環境破壊、伝統文化蹂躙、信仰剥奪、共同体解体、物質主義の横行、西欧的価値観の押し付け・・・・・。
 アントンがやっているように、先進国は途上国支援のための様々なプロジェクトを官民問わず実施している。(日本で有名なのはJICA)
 だが、その本質は泥棒が自ら荒らした現場を片付けるのを手伝っているようなものである。悪魔を祓う力なぞ、もとよりあるわけない。
 
 

評価:B+

A+ ・・・・・ めったにない傑作。映画好きで良かった。 
        「東京物語」「2001年宇宙の旅」   

A- ・・・・・ 傑作。劇場で見たい。映画好きなら絶対見ておくべき。
        「風と共に去りぬ」「未来世紀ブラジル」「シャイニング」
        「未知との遭遇」「父、帰る」「ベニスに死す」
        「フィールド・オブ・ドリームス」「ザ・セル」
        「スティング」「フライング・ハイ」
        「嵐を呼ぶ モーレツ!オトナ帝国の逆襲」「フィアレス」    

B+ ・・・・・ 良かった~。面白かった~。人に勧めたい。
        「アザーズ」「ポルターガイスト」「コンタクト」
        「ギャラクシークエスト」「白いカラス」
        「アメリカン・ビューティー」「オープン・ユア・アイズ」

B- ・・・・・ 純粋に楽しめる。悪くは無い。
        「グラディエーター」「ハムナプトラ」「マトリックス」 
        「アウトブレイク」「アイデンティティ」「CUBU」「ボーイズ・ドント・クライ」       

C+ ・・・・・ 退屈しのぎにちょうどよい。(間違って再度借りなきゃ良いが・・・)
        「アルマゲドン」「ニューシネマパラダイス」「アナコンダ」 

C- ・・・・・ もうちょっとなんとかすれば良いのになあ。不満が残る。
        「お葬式」「プラトーン」

D+ ・・・・・ 駄作。ゴミ。見なきゃ良かった。
        「レオン」「パッション」「マディソン郡の橋」「サイン」

D- ・・・・・ 見たのは一生の不覚。金返せ~!!