2012年アメリカ。
レズビアンの友人が「人生で3本の指に入る映画」と力説するものだから、数年ぶりに銀座まで足を伸ばした。
シネスイッチ銀座は金曜日がレディースデーで割安(950円)になる。それを知らずに入った会場は、昼間から女性客ばかり。どこかで見た風景と思ったら、20代の頃にやはり銀座で観た『モーリス』(E・M・フォースター原作、ジェームズ・アイヴォリー監督、1988年)の時と同じであった。レディースデーと関係なく、ゲイ映画の主たる観客は女性なのである。
が、『モーリス』のときは周りは20代女性ばかりであった。
そうか。その頃のヤオイちゃん(「おこげ」と言った)が、今や成人した子供を持つ母親世代なのであった。
ヤオイの魂、死ぬまで。
会場にいる男性客は、彼女に強引に誘われてしぶしぶやってきた男をのぞけば、おそらくゲイかバイなのだろう。(もちろん、自分も)
『モーリス』のときは、隣りに座ってきた中年の男が上映中に自分の太ももを触ってきて、「こんなところで!」と閉口したものである。
が、シネスイッチは座席指定なので隣席は女性、今回はそのようなことはなかった。
いや、今や自分こそ中年男。
太ももがさびしい
舞台は1979年のカリフォルニア。
場末のショーパブで女装して歌っているルディ(=アラン・カミング)と、離婚経験のあるイケメン弁護士ポール(=ギャレット・ディラハント)との出会いから物語は始まる。互いに一目惚れした二人は、クローゼットであるポールの躊躇や恐れを愛の力で乗り越えつつ、絆を深めていく。
そこにもう一人家族が増える。ルディのアパートの隣室でヤク中の母親と暮らすダウン症の少年マルコ。母親が逮捕され、施設に入れられそうになったマルコを不憫に思ったルディは、マルコを引き取り、ポールと一緒に面倒を見ようと決意する。
ゲイのカップルと障害ある子供の共同生活。
それを受け容れられない社会との闘いが始まる。
実話を基にした作品とのこと。
70年代末なら状況はこんなものであっただろう。サンフランシスコ市会議員にカミングアウトしたゲイとして初当選したハーヴェイ・ミルクがホモフォビアによって暗殺されたのは1978年11月のことである。
それにしても、1979年というのは微妙な年である。
マルコの養育権を求めて裁判に打って出たルディとポールは、結局マルコの実の母親が司法取引によって釈放されたことで敗北を喫する。二人はマルコを失い、世間のゲイバッシングの強さを胸に刻印する。
80年代に入って、アメリカのゲイを巡る状況は大きく変わる。より厳しく、より悲惨になる。
エイズの登場である。
80年代アメリカのゲイシーンは、69年のストーンウォール事件以降築いてきたゲイコミュニティのパワーと絆と自由な空気が、キーシ・ヘリングやロック・ハドソンを含むたくさんの仲間たちの喪失によって激震を受け、試される時代であった。他の解放運動の進展によって次第に希望の光の見えてきたゲイたちも、「ゲイ=エイズ」というレッテルにより一挙にすさまじい差別と偏見にさらされることになる。
もちろん、ルディとポールもその渦に巻き込まれたことだろう。
そういう歴史的背景を思うと、この映画は切なく悲しく悔しいけれど、どこか‘牧歌的’な感じもする。
主演のアラン・キース。文句のつけようのない好演。実生活でもバイセクシャルを公言し、同性婚をしているそうだ。
相手役のギャレット・ディラハント、『ER緊急救命室』や『Xファイル』などのドラマにたくさん出演しているが、「いい男」である。
この二人のからみ(身体的な意味でなく)を観ていると、自然、『真夜中のカウボーイ』
(1969年)のダスティン・ホフマンとジョン・ヴォイトの姿が蘇ってくる。
男の友情を描いた『カウボーイ』がゲイ映画にくくられるのは、監督のジョン・シュレンジャーがゲイだったからだろう。69年にはそのレベルでしか男同士の愛を描けなかったのである。
2014年の日本で、ゲイ映画の会場が広い年代の女性客で連日満員なんて、時代は変わるものである。
評価:B-
A+ ・・・・・ めったにない傑作。映画好きで良かった。
「東京物語」「2001年宇宙の旅」
A- ・・・・・ 傑作。劇場で見たい。映画好きなら絶対見ておくべき。
「風と共に去りぬ」「未来世紀ブラジル」「シャイニング」
「未知との遭遇」「父、帰る」「ベニスに死す」
「フィールド・オブ・ドリームス」「ザ・セル」
「スティング」「フライング・ハイ」
「嵐を呼ぶ モーレツ!オトナ帝国の逆襲」「フィアレス」
B+ ・・・・・ 良かった~。面白かった~。人に勧めたい。
「アザーズ」「ポルターガイスト」「コンタクト」
「ギャラクシークエスト」「白いカラス」
「アメリカン・ビューティー」「オープン・ユア・アイズ」
B- ・・・・・ 純粋に楽しめる。悪くは無い。
「グラディエーター」「ハムナプトラ」「マトリックス」
「アウトブレイク」「アイデンティティ」「CUBU」「ボーイズ・ドント・クライ」
C+ ・・・・・ 退屈しのぎにちょうどよい。(間違って再度借りなきゃ良いが・・・)
「アルマゲドン」「ニューシネマパラダイス」「アナコンダ」
C- ・・・・・ もうちょっとなんとかすれば良いのになあ。不満が残る。
「お葬式」「プラトーン」
D+ ・・・・・ 駄作。ゴミ。見なきゃ良かった。
「レオン」「パッション」「マディソン郡の橋」「サイン」
D- ・・・・・ 見たのは一生の不覚。金返せ~!!