2013年アメリカ。

枝付き燭台

 原題はBehind the Candelabra(枝付き燭台のかげに)
 枝付き燭台とは右の写真のような蝋燭立てである。この映画の主人公である実在の人気ピアニスト、リベラーチェ(1919-1987)が自らのピアノに枝付き燭台のデザインをあしらったところから来たタイトルである。同時に、枝付き燭台によって象徴される成功した大スターのゴージャスできらびやかな表の生活の背後に隠された、ファンの知らない裏の顔を描く、という意味合いもあろう。
 映画の原作は、リベラーチェの秘書兼恋人であったスコット・ソーソンの同名の回想録。

 リベラーチェの活躍した時期は1950年代から80年代前半にかけてであるが、あまり日本では知られていない。自分もこの映画ではじめてリベラーチェという名前(と存在)を知った。80年代に日本中の女性をとりこにしたリチャード・クレーダーマンの貴公子然とした風貌と物腰にくらべると、派手でこれ見よがしで金ピカ趣味のリベラーチェは当時の日本人には受け入れ難かったのかもしれない。80年代後半のバブルの頃ならまだしも・・・。

 天才ピアニストで観客を楽しませることにかけては一流のエンターテイナーであったリベラーチェの秘密とは、①ゲイであったこと(若い男をとっかえひっかえしていた)、②エイズで亡くなったこと、であった。
 エイズ罹患は本人の生きている間はひた隠しにされていた。亡くなった後に司法解剖が入って明るみに出されたのである。と同時に、彼がゲイであったことも、生前から大枚はたいて必死に秘密を封じこめてきたマネージャー達の奮闘もむなしく、世間に知られるところとなった。この時代(80年代)、「エイズで死んだ芸術家=ゲイ」は鉄板の方程式だったからである。

 映画はしかし、セクシュアリティの問題、カミングアウトの問題、エイズの問題には深く入り込まずに、リベラーチェとスコットの二人の男の関係――出会い、熱愛、伴侶、すれ違い、亀裂、破局――に焦点を絞って、純粋な恋愛ドラマとして描いている。
 その意味では、もしこれが有名な男性(or女性)スターとその付き人である女性(or男性)の恋愛模様を描いたストーリーだったとしたら、まったくのところ陳腐なものになったであろう。男同士の恋愛という設定だからこそ、まだ語る価値がある。
 つまり、異性間であろうと、同性間であろうと、人が人を好きになり、必要とし、求め合い、永遠の愛を願い約束し、しかるにそこに到達するのは極めて困難であり、結局孤独に立ち戻らなければならない――という愛の輪廻は変わらない。それがこの映画から学びうるテーマである。

 リベラーチェを演じたマイケル・ダグラス。『蜘蛛女のキス』(1985年)のウィリアム・ハートに比肩できるような見事なオカマ演技である。やっぱり、この俳優は反体制のヒッピー出だけある。
 恋人のスコットを演じるは、名優マット・デイモン。リベラーチェに愛される金髪碧眼のドリアン・グレイばりの美青年から、ヤクにはまり嫉妬と絶望に苦しむ見捨てられた恋人までを、何ら気負いなく違和感なしに演じている。
 二人が仲睦まじげにからんでいるシーンでは、これが『ウォール街』の強欲な投資家と『ボーン・アイデンティティ』の凄腕の暗殺者とはまったく思えない。
 一昔前なら、こういった(ホモセクシャルの)役を演じることは、アメリカの男優にとって「清水から飛び降りる」ほどの勇断、というかまったくの愚挙であり「ありえない」ことだった。それが今や、ヒース・レジャーとジェイク・ジレンホールが『ブロークバック・マウンテン』(2005年)でケツを掘るカウボーイを演じ、フィリップ・シーモア・ホフマンが『カポーティ』(2005年)を演じ、ショーン・ペンが『ハーヴェイ・ミルク』(2008年)を演じ、コリン・ファースが『シングルマン』を演じ、レオナルド・ディカプリオが『J・エドガー』(2011年)を演じ、もちろん直近では『チョコレート・ドーナツ』(2012年)でのアラン・カミングの力演がある。
 ハリウッドの男優たちはこぞってゲイの役をやりたがっているようである。



評価:B-


A+ ・・・・・ めったにない傑作。映画好きで良かった。 
        「東京物語」「2001年宇宙の旅」   

A- ・・・・・ 傑作。劇場で見たい。映画好きなら絶対見ておくべき。
        「風と共に去りぬ」「未来世紀ブラジル」「シャイニング」
        「未知との遭遇」「父、帰る」「ベニスに死す」
        「フィールド・オブ・ドリームス」「ザ・セル」
        「スティング」「フライング・ハイ」
        「嵐を呼ぶ モーレツ!オトナ帝国の逆襲」「フィアレス」   

B+ ・・・・・ 良かった~。面白かった~。人に勧めたい。
        「アザーズ」「ポルターガイスト」「コンタクト」
        「ギャラクシークエスト」「白いカラス」
        「アメリカン・ビューティー」「オープン・ユア・アイズ」

B- ・・・・・ 純粋に楽しめる。悪くは無い。
        「グラディエーター」「ハムナプトラ」「マトリックス」 
        「アウトブレイク」「アイデンティティ」「CUBU」「ボーイズ・ドント・クライ」

C+ ・・・・・ 退屈しのぎにちょうどよい。(間違って再度借りなきゃ良いが・・・)
        「アルマゲドン」「ニューシネマパラダイス」「アナコンダ」 

C- ・・・・・ もうちょっとなんとかすれば良いのになあ。不満が残る。
        「お葬式」「プラトーン」

D+ ・・・・・ 駄作。ゴミ。見なきゃ良かった。
        「レオン」「パッション」「マディソン郡の橋」「サイン」

D- ・・・・・ 見たのは一生の不覚。金返せ~!!