
毎月、社会福祉の様々な分野やテーマ毎に編纂された分厚いテキストを1~2冊読んでは、レポートを提出している。
現在読んでいるのは『低所得者に対する支援と生活保護制度』(中央法規)である。
ホームレス支援には興味があるし、自分もまた長らくワーキングプアの1人であり、いつ生活困窮者自立支援法(2015年4月より施行)や生活保護制度のお世話になるやもしれないので、勉強がはかどることこの上ない。
やはり、自分に関係ある、役に立ちそうな情報は頭に入りやすい。
生活保護はわが国の貧困者を救う最後のセーフティネット(砦)である。
生活保護はわが国の貧困者を救う最後のセーフティネット(砦)である。
ここから落ちたら、もはやホームレスになるか、犯罪者になるか、自殺するか、出家するしかない。というより、前の二つの境遇まで‘落ちて’はじめて、生活保護が受けられるケースが後を絶たない。セーフティネットというより‘金魚すくい’である。
平成23年(2011年)時点での生活保護を受けている人は約207万人(世帯数だと約150万世帯)、もちろん戦後最高である。もっとも少なかったのは平成7年(1995年)の約88万人(約66万世帯)である。16年間で約2.4倍になっている。
気になる国家予算であるが、平成25年度の生活保護費は約29兆8614億円。天文学的な数字である。国家予算に占める生活保護費の割合をみると、対一般会計予算比で3.1%、対一般歳出予算比で5.3%、対社会保障関係予算比で9.8%となっている。ちなみに、防衛費は対一般歳出予算比で10%くらいである。
被保護世帯の類型でみると、高齢者世帯、母子世帯、傷病・障害者世帯が総数の約8割を占めている。高齢化が進むのは確実であるから、生活保護世帯数も国家予算に占める生活保護費の割合も今後ますます増大することは明らかである。
一方、生活保護費の不正受給やワーキングプアとの逆転現象--生活保護を受けずに働いている者の生活レベルが、生活保護をもらっている者より低い--などがメディアに取り上げられて、生活保護に対する締め付けが強くなっている現状がある。「生活保護に値するかどうかを調べる資力調査(ミーンズ・テスト)をもっと厳しくせよ」とか「生活保護基準を引き下げよ」という意見も多く聞かれる。
不正受給対策はともかく、生活保護基準の引き下げはどうなのだろう?
生活保護法の存在が、「すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利がある」と規定する日本国憲法第25条(生存権)に依拠するのは周知の通り。日本国は、すべての国民に対して「健康で文化的な最低限度の生活」の具現を保障しなければならない。
生活保護法の存在が、「すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利がある」と規定する日本国憲法第25条(生存権)に依拠するのは周知の通り。日本国は、すべての国民に対して「健康で文化的な最低限度の生活」の具現を保障しなければならない。
では、「健康で文化的な最低限度の生活」とはどのレベルを言うのだろうか。
とても抽象的な概念である。
「健康」はまだしも「文化的」というのが曖昧模糊としている。
具体的に言うのならば、「いったい一ヶ月いくらあれば、‘健康で文化的な最低限度の生活’が保障されるのか」ということになる。
その基準を示すのが、厚生労働大臣が定める「生活保護基準」である。
生活保護基準は、生活保護制度によって保障される生活の水準を表しているだけでなく、国民にどの程度の生活レベルを国家が保障していくのかというナショナル・ミニマム、いわば社会保障制度の根幹にかかわる機能を有している。この水準は、・・・・・・単に生理的生存が可能な水準ということではなく、人間としての尊厳と体裁が維持できる社会的・文化的生活が充足される水準でなければならない。(上記テキストより抜粋)
簡単に言えば、国が保障してくれる「日本人としての最低レベルの暮らし」を、生活・教育・住宅・医療・介護・出産・生業・葬祭の8種類の扶助に分けて、具体的な金額として示したものが生活保護基準である。
生活保護基準の中でもっとも基本的な扶助である生活扶助(食費・被服費・光熱費・家具什器費など)は、おおむね要保護者の①年齢、②世帯人員、③所在地の3つによって自動的に決まる。それに、本人が妊産婦であったり、障害者であったり、要介護状態であったり、母子世帯であったり、特別な事情がある場合に加算がある。
自分(ソルティ)の場合をやってみよう。
① 年齢 41~59歳
※0歳から70歳以上までを8つの年齢層に分けている。12~19歳の層がもっとも基準額が高い。
② 世帯人員 1人暮らし
③ 所在地 東京都(1級地―1)
※ 全国を物価との兼ね合いから6つの地域に分けている。(1級地-1)がもっとも基準額が高い。
④ 特別加算なし
上の条件をもとに定められた算式によって計算してみると、平成25年時点におけるソルティの一ヶ月あたり生活扶助費は80,380円であった。年間にすると、964,560円。これに期末一時扶助(年末に出る‘餅代’のようなもの)が13,500円、冬場(11~3月)の燃料費である冬季加算が15,200円。
合計すると、一年の生活保護でもらえる金額は、993,260円 ・・・・・・①
次に、東京都の場合、1人暮らしの住宅扶助の上限額は53,700円である。つまり、家賃53,700円以下のところに住まう限り、住宅費はかからない。
年間にすると、644,400円 ・・・・・・②
したがって、基本的な生活を整えるのに必要な衣食住について、年間1,637,660円(①+②)の扶助がもらえる。・・・・・・・・③
加うるに、生活保護受給者の場合、医療扶助(医療費は基本タダ)、税金免除、国民健康保険料免除、介護保険料免除、国民年金免除となる。
さて、ソルティが実際に昨年(平成26年度)払った医療費その他は以下の通りであった。
医療費 5,000円
所得税(源泉徴収) 36,800円
住民税 82,700円
国民健康保険料 62,300円
介護保険料 49,400円
国民年金 45,780円(減免措置を受けている)
合計 281,980円 ・・・・・・・④
③+④=1,919,640円
ソルティの昨年度の収入が1,919,640円を下回っていたら、生活保護以下の生活ということになる。
残念ながら(?)スレスレではあるが上回っていた。
だが、単純に月給だけでの計算なら確実に下回っている。年数回支給のボーナスによって、あるいは医療費のかからなかったことによって(健康に感謝!)、あるいは国民年金の減免によって、あるいは扶養家族や要介護家族がいないことによって、かろうじて生活保護レベルを上回ったに過ぎない。
そしてまた、ソルティが住んでいるアパートの家賃は月45,000円である。生活保護の上限である53,700円の物件を同地域で探せばもっと広いところに住める。
明らかにワーキングプアである。
とは言うものの、「こんなの理不尽だ!生活保護基準を落とせ」と言いたいわけではない。
自分のPoorは自己選択の結果である。ワーク&ライフバランスを優先するため、通常の日本人のようには目一杯働いていないせいである。(それでも年間200日は出勤している)
ただ、生活に余裕がないのは事実。月々の支出が収入を上回って、なけなしの貯金の切り崩しが進行している。自己投資とはいえ、社会福祉士養成講座のために数十万円支払ったのも大きい。テキスト代もバカにならない。
一番何とかならないかなあと思うのは、税金や保険料などの公租公課である。
払いたくないわけではない。義務をきちんと果たしてこその権利の行使である。
だが、毎月2万3千円強の支出はコタえる。
むろん、税金や保険料などは累進性になっていて、収入の多い人ほど高い割合で納めている。その意味では、自分などはもっとも低率でこれらを支払っているはずだ。
だが、たとえば月収100万円の人の30万円(収入の30%)と、月収10万円の人の1万円(収入の10%)とでは意味が違う。前者は税金を支払ったあとに70万円残る。贅沢するには十分だ。貯蓄も出来る。後者は9万円しか残らない。食費と家賃と光熱費・電話代でほとんど消える。爪に火をともすような暮らししかできない。貯金など出来るわけがない。病気や事故など何か急な出費が必要になったら、たちまち窮地に陥ってしまう。加えて、冠婚葬祭にも出席できない。
結局、どこで切り詰めるかというと、公租公課(NHK受信料含む)を滞納するほかない。
これがのちのち仇となる。
なぜなら、税金や年金や保険料を滞納することで、市民としてのプライドを失っていくからである。お役所に対する敬遠意識が生じて、本当に困ったときに公的サービスが受けにくくなるからである。また、体調が悪くても病院に足が向かわなくなるから、病状が悪化してしまう。
挙句の果てに、就労困難となって生活保護を受給せざるをえない事態になるのなら、税金の使い方として稚拙というほかない。公的支援のタイミングを誤っている。
生活保護基準を落として被保護者の暮らしをワーキングプアと同等レベルにするのではなく、ワーキングプアの生活レベルを底上げするような対策こそが望ましい。
一案だが、上記の自分の例の場合(1級地-1で暮らしている1人暮らしの40-50代)で言うと、生活保護受給者が貰える年間の生活扶助費と家賃(上限)の合計1,637,660円(③)を12で割ると136,472円。月々の収入がこれを下回るワーキングプアについては、年齢・世帯人数・居住地・年間労働時間数に応じて、税金・健康保険料・介護保険料・年金を減額あるいは免除するようにしたらどうだろう? そうすれば、少なくとも‘逆転現象’は緩和される。実際のところ、都内で暮らして月収13万円以下では、公租公課にまで回らないであろう。行政がこの収入レベルの滞納者層に対して請求する労力や経費は、それによって回収できる金額を上回るのではないだろうか?