巣鴨の庚申塚のすぐ近くにスタジオフォーというイベントスペースがある。
ここで毎週水曜の午後、巣立ちのときを待っている若手芸人(いわゆる二ツ目)4人を招いて寄席が開かれる。(木戸銭1000円)
5月13日(水)にはイチヤ(ついに呼び捨てか!)こと柳亭市弥が出演するので、初夏の日差しの中、出かけることにした。
JR山手線大塚駅から昔懐かし路面電車(チンチン電車)都電荒川線に乗り換えて、二つ目の庚申塚で降りる。「オバチャンたちの原宿」として有名な巣鴨とげぬき地蔵通りに入る手前の交差点を左折すると、すぐに建物は見つかった。
中に入ると、それほど広くないスペースに青い毛氈を敷いた高座と折りたたみの椅子が20脚ほど並んでいた。
開演前にはすべての席は埋まった。中高年女性が多かったが、自分と同じイチヤ目当て?
開演前にはすべての席は埋まった。中高年女性が多かったが、自分と同じイチヤ目当て?
本日の出演者と演目
1. 柳家緑君(ろっくん):唖しの釣り
2. 柳亭市弥:紙入れ
3. 瀧川鯉八:暴れ牛奇譚
4. 柳家喬の字:うなぎの幇間(たいこ)
本来ならば、イチヤが一番手で、二番手・鯉八、三番手・緑君、喬の字がトリの予定であった。
が、やってくれました。
が、やってくれました。
開演時間の13時にイチヤと鯉八が会場に到着していなかったのである。二人揃って遅刻である。
で、すでに会場に来ていた真面目な緑君が、急遽一番手をつとめることになった。
こんなこともあるのだな。
貧乏くじをひいた緑君。
余裕を持って会場入りし準備万端整えるつもりであったろうに、いきなりの出番。それもイチヤか鯉八かどちらかが到着するまで、場をつないで時間稼ぎしなければならない羽目になった。戸惑いを隠せぬ様子で登壇した緑君は、事情を説明し、雑談を始めた。演目に入ってしまうと、もう時間稼ぎのしようもないから、雑談で観客を楽しませなければならない。
余裕を持って会場入りし準備万端整えるつもりであったろうに、いきなりの出番。それもイチヤか鯉八かどちらかが到着するまで、場をつないで時間稼ぎしなければならない羽目になった。戸惑いを隠せぬ様子で登壇した緑君は、事情を説明し、雑談を始めた。演目に入ってしまうと、もう時間稼ぎのしようもないから、雑談で観客を楽しませなければならない。
緑君はまだ25才。なんという試練が待ち受けていたことか。
でも、良く頑張った。
若者らしい友達ネタや趣味ネタ(歴史が好きらしい)で観客を楽しませてくれた。演目をやる数倍も疲れたことだろう。言ってみれば、セリフが入ってないのに初日の舞台に立った役者みたいなものだ。アドリブで切り抜けるほかない。
イチヤの到着の合図を受けて、ホッとした表情でやおら『唖しの釣り』に突入した。
若者らしい友達ネタや趣味ネタ(歴史が好きらしい)で観客を楽しませてくれた。演目をやる数倍も疲れたことだろう。言ってみれば、セリフが入ってないのに初日の舞台に立った役者みたいなものだ。アドリブで切り抜けるほかない。
イチヤの到着の合図を受けて、ホッとした表情でやおら『唖しの釣り』に突入した。
まあ、こういったアクシデントを経験して、真に力量ある噺家に成長するのだろう。
敢闘賞!
イチヤは開演時間を間違えたのだと言う。13時開演を13時半と勘違いして上野の鈴本演芸場にいたとか。この「巣ごもり寄席」には過去何回か出ているはずだのに・・・・・。
やっぱり天然だ。
ばつが悪そうに観客に頭を下げたあと、高座に入る。
やりにくいのはイチヤも同様だ。人の良さそうな若い緑君の脂汗たらたらの苦労を目の当たりにしている観客は、イチヤに自然厳しい視線を送る。大事な高座に遅刻して主催者(スタジオフォー)や他の出演者をハラハラさせ迷惑をかけたイチヤ自身も、平常心というわけにはゆくまい。
一体どうなることやら。
・・・・という心配をよそにイチヤはやっぱりイチヤであった。
顔つきこそいつもと違い、どことなく情けない準イケメンふう(当然だろう)ではあったものの、ひとたび演目が始まって、世話になっている旦那の目を盗んでそのお内儀(妻)と密通する小間物屋の新吉のセリフを口にするや、いつものごとく、すっと役柄に入り込んでしまい、観客もいつのまにか江戸の下町にいる自分を発見するのであった。
もしかしたら、本来用意していた演目は別だったのかもしれない。この「紙入れ」はイチヤの一番得意とするものなのかもしれない。自分の遅刻によって巻き起こした情況をみて、一番の安全牌にして鉄板のネタを持ってきたのかもしれない。
そんなふうに思えるほど、安定した芸と笑いを提供した。
そう、これが正解だ。
遅刻した上に出来の悪い落語を披露したのでは、木戸銭払った観客に愛想つかされても仕方あるまい。遅刻したからこそ、気持ちを切り替えて、いつもより気の入った落語を提供すべきである。
そう、これが正解だ。
遅刻した上に出来の悪い落語を披露したのでは、木戸銭払った観客に愛想つかされても仕方あるまい。遅刻したからこそ、気持ちを切り替えて、いつもより気の入った落語を提供すべきである。
意外に大物だよ、この人は。
本日一番ウケていたのは三番手の瀧川鯉八であった。自分も一番笑った。
登場した瞬間に会場の雰囲気を変えてしまうその独特の顔、独特の動き、独特の存在感、独特の間。オタク系とでもいうのか。片桐ハイリ系か。この濃いキャラは希少価値だ。一度聴いたら、決して忘れられない。
演目(暴れ牛奇譚)も新作落語、つまり本人が自分で作ったものらしい。
村を救うために暴れ牛の生贄に選ばれた「それほどでもない(=ブス)」キャラたみちゃん。
これが強烈にツボにはまる。ゲイ的感性を持つ人なら、このノリはたまんないだろう。
すごい二ツ目がいたもんだ。同じ二ツ目仲間のみならず、真打ちの落語家連中をも青ざめさせるに十分な才能と思われる。
イチヤとは別の意味でファンになりそう。(ちなみに遅刻の理由は「二度寝」だと)
トリは喬の字。
前回池袋演芸場で聞いて、その実力のほどは知っていた。
が、今日は調子が良くなかったのか、前回ほどの集中力を欠いていたようだ。(顔もなんだか浮腫んでいた・・・)
また、この「うなぎの幇間」という演目は、難しいわりには面白くない。
どうしてこの演目を選んだのか奇妙な気がした。
自分に合ったネタ、その日の調子に合ったネタ、会場に合ったネタ、その日の観客に合ったネタ、他の出演者の演目とバランスのとれたネタ、いろんな条件に合った演目を選ぶのは難しいものだろうな。
どうしてこの演目を選んだのか奇妙な気がした。
自分に合ったネタ、その日の調子に合ったネタ、会場に合ったネタ、その日の観客に合ったネタ、他の出演者の演目とバランスのとれたネタ、いろんな条件に合った演目を選ぶのは難しいものだろうな。
終演後は、とげぬき地蔵通りを巣鴨駅まで歩いた。
昔懐かしい昭和の商店街の風景に心がほぐれた。