1965年東宝

 梅雨明けして本格的な夏になったから・・・・というわけではないが、TUTAYAの棚を渉猟していたら『怪談』にすっと手が伸びた。
 第18回カンヌ国際映画祭で審査員特別賞を受賞した名作である。
 小林正樹は、『人間の条件』(1959-1961)、『切腹』(1962)、『上意討ち 拝領妻始末』(1967)を撮った日本が世界に誇る名監督の一人なのだが、自分はまったく観ていない。真野響子が主演した『燃える秋』(1978)はハイ・ファイ・セットが唄った主題歌のみ覚えている。
 これからおいおい観ていくつもりだ。 

 本作は、小泉八雲原作『怪談』に収録されている「黒髪」「雪女」「耳なし芳一」「茶碗の中」の4編を映像化したものである。日本人ならどこかで耳にしたことのある馴染みある物語である。その意味で、ストーリーそのものへの関心ではなく、どんなふうに演出されているか、どんなふうに映像化されているか、に焦点を当てて楽しむことができる。つまり、純然と‘映画的’に・・・。

 4編とも完成度の高い見応えのある‘映画’に仕上がっている。
 なんと言っても讃えるべきは、映像美。ダリやキリコを思わせるシュールレアリズム風の幻想的な色彩と表象(たとえば空に浮かぶ目の模様)と構図とが、観る者の無意識を刺激して、怪奇と共に不安を抱かせ、非日常へと誘う。
 「ああ、これこそ映画だ」と思わず唸り、嬉しくなってくる。
 とりわけ、『耳なし芳一』で壇ノ浦に滅んだ平家の武者や女房たち一門の亡霊が正装して居並ぶシーンの美しさは、黒澤明の後期カラー作品群(『影武者』『こんな夢を見た』ほか)を軽く凌駕し、日本映画史における最高美を焼き付けている。これ一編だけでも観る価値が十分ある。
 いや、日本映画を語る者なら観なくてはなるまい。
 役者の魅力も尋常(ハンパ)でない。
 「黒髪」の三國連太郎の凄絶な老醜ぶりと鬼気迫る演技、「雪女」の岸恵子の清潔感と直感的な語りの冴え、「耳なし芳一」の中村嘉津雄と丹波哲郎の他の役者が考えられないほどの適役ぶり。ほかにも新珠三千代、仲代達矢、田中邦衛、村松英子、中村翫右衛門、杉村春子が強い印象を残す。
 脚本は水木洋子、音楽が武満徹。
 これだけ贅沢なスタッフを集めた映画は、もう作れないだろう。
 傑作である。 

 ときに、小泉八雲の『怪談』は子どもの頃、少年少女講談社文庫ふくろうの本シリーズで読んだ。
 これがとても怖かったのである。
 「耳なし芳一」「むじな」「鳥取のふとん」など小泉八雲の代表的作品のほか、上田秋成「雨月物語」、岡本綺堂「すいか」など、寝小便が止まらぬほどの名作・怪作ぞろいであった。
 だが、もっとも怖かったのは日本の怪談ではなかった。
 一緒に収録されていたウィリアム・ジェイコブス「猿の手」、チャールズ・ディケンズ「魔のトンネル」といった初めて接する海外の怪談が眠れなくなるほどに怖かった。とくに、「魔のトンネル」は、これまでに自分が読んだり観たり聞いたりした数知れぬ怪談・ホラー・怪奇ドラマの中で、今に至るまでトップの座を譲らない‘鉄板’の悪魔的傑作である。ユーモア小説の大家ディケンズは、ホラー小説の名手でもあったのだ。
 ディケンズは最後の小説『エドゥイン・ドルードの謎』を未完のまま亡くなった。数年後、アメリカに住む無学の一青年が何かに取付かれたようにその続きを書き始め、いわゆる‘自動書記’によって作品を完成させた。書かれたものは、文体も綴り方の癖もディケンズそのままで、事情を知らない人が読んだら別人が書いたものとはわからないと言う。(ソルティ未読)
 やっぱり大作家は何か違う。


評価:A-

A+ ・・・・めったにない傑作。映画好きで良かった。 
「東京物語」「2001年宇宙の旅」「馬鹿宣言」「近松物語」

A- ・・・・傑作。できれば劇場で見たい。映画好きなら絶対見ておくべき。
「風と共に去りぬ」「未来世紀ブラジル」「シャイニング」「未知との遭遇」「父、帰る」「ベニスに死す」「フィールド・オブ・ドリームス」「ザ・セル」「スティング」「フライング・ハイ」「嵐を呼ぶ モーレツ!オトナ帝国の逆襲」「フィアレス」   

B+ ・・・・良かった~。面白かった~。人に勧めたい。
「アザーズ」「ポルターガイスト」「コンタクト」「ギャラクシークエスト」「白いカラス」「アメリカン・ビューティー」「オープン・ユア・アイズ」

B- ・・・・純粋に楽しめる。悪くは無い。
「グラディエーター」「ハムナプトラ」「マトリックス」「アウトブレイク」「アイデンティティ」「CUBU」「ボーイズ・ドント・クライ」

C+ ・・・・退屈しのぎにちょうどよい。(間違って再度借りなきゃ良いが・・・)
「アルマゲドン」「ニューシネマパラダイス」「アナコンダ」 

C- ・・・・もうちょっとなんとかすれば良いのになあ。不満が残る。
「お葬式」「プラトーン」

D+ ・・・・駄作。ゴミ。見なきゃ良かった。
「レオン」「パッション」「マディソン郡の橋」「サイン」

D- ・・・・見たのは一生の不覚。金返せ~!!