1987年松竹。
浄土真宗の生みの親である親鸞上人の半生を描いた伝記映画。
と同時に、中世の下層社会に生きる‘賤民’と言われる人々を、精密な考証に基づきリアリティ豊かに活写した日本映画史上稀に見る歴史&風俗ドラマとして、かけがえのない価値を持つ作品と言える。
カンヌ映画祭審査員賞も十分頷けるのだが、国内においては公開当時も今も評価芳しくなく、残念なことである。観る前の自分がそうだったように、「功成り名を遂げた大物俳優の道楽」「信者の大量動員をねらった布教映画」と軽んじて敬遠していたら、大層もったいない。監督としての、いやいや芸術家としての三國連太郎の凄さに感嘆した。
実際、これだけ見応えのある魅力的な映画は滅多あるものじゃない。140分の長尺を早送りもスキップもせず2回観てしまった。
親鸞上人は、1173年京都の日野の里で公家の流れを汲む家系に生まれた。源平の争いが激しさを増す中、9歳で出家、名を範宴(はんねん)と改める。以後20年にわたり比叡山で厳しい修行を積むも、悟りに至ること叶わず、29歳で山を下り、専修念仏を説かれていた法然上人を訪ねる。法然上人の教えに目が開かれた親鸞は、「法然上人にだまされて地獄に堕ちても後悔しない」と他力本願、専修念仏の道を選ぶ。33歳のとき、名を善信と改める。専修念仏の教えが盛んになるに連れ、当時の仏教界を支配していた延暦寺、興福寺など既存仏教組織からの弾圧が激しくなる。1206年法然の門弟が開催した念仏集会に参加した後鳥羽院の女官が出家騒ぎを起こす。それが院の逆鱗にふれ、ついに1207年に専修念仏は禁止、関係した僧侶らは死罪となる。法然上人は還俗させられ土佐に、35歳の親鸞は藤井善信と名を改めさせられ越後に流罪となる。越後では、非僧非俗の立場で民衆に専修念仏の布教に励まれる。39才のとき越後の豪族三善為教の娘恵信と結婚、6人の子をもうける。1214年、他宗からの迫害を逃れるため妻子とともに越後を離れ、東国を点々とした挙句、常陸(茨城県)の稲田の草庵に落ちつく。
映画では、親鸞らが越後を脱出するシーンから始まって、稲田に落ち着くまでを描く。つまり、親鸞の生涯における最大の苦境の時である。
まず、親鸞(この時期はまだ‘善信’)を演じる無名の新人森山潤久が素晴らしい。
親鸞の人の良さ、やさしさ、誠実さ、謙虚さ、芯の強さ、悟りきれない迷いなどが、作為なく顔つきに投影されている。三國監督が演技力でなく、雰囲気や顔立ちで森山を抜擢したのは間違いあるまい。
親鸞の人の良さ、やさしさ、誠実さ、謙虚さ、芯の強さ、悟りきれない迷いなどが、作為なく顔つきに投影されている。三國監督が演技力でなく、雰囲気や顔立ちで森山を抜擢したのは間違いあるまい。
この映画以後、森山はいくつかの映画や芝居に出たらしいが、ほとんど話題になることはなかった。現在は札幌の浄土真宗大谷派のお寺で住職をしているそうである。なんという因縁!
他の役者たちも適材適所で素晴らしい。
妻・恵信を演じた大楠道代をはじめ、泉谷しげる、ガッツ石松、小松方正、盲目の老女を演じた原泉はまさに助演女優賞級の名演、小沢栄太郎、蟹江敬三、丹波哲郎、フランキー堺・・・。一癖も二癖もある個性的な役者たちが、中世の身分社会のそれぞれの階層に似つかわしい雰囲気と表情と所作とでもって、人間臭さを撒き散らしている。これを観ると、昨今のNHK大河ドラマの出演者を含めるスタッフたち、そして視聴者が、いかに浅い人間理解と平板な演技に満足しているかを、つくづく感じる。
妻・恵信を演じた大楠道代をはじめ、泉谷しげる、ガッツ石松、小松方正、盲目の老女を演じた原泉はまさに助演女優賞級の名演、小沢栄太郎、蟹江敬三、丹波哲郎、フランキー堺・・・。一癖も二癖もある個性的な役者たちが、中世の身分社会のそれぞれの階層に似つかわしい雰囲気と表情と所作とでもって、人間臭さを撒き散らしている。これを観ると、昨今のNHK大河ドラマの出演者を含めるスタッフたち、そして視聴者が、いかに浅い人間理解と平板な演技に満足しているかを、つくづく感じる。
親鸞を取り巻き、膝と膝とを突きあわせ、説法に耳を傾けるのは、化外の民、被差別の民である。
太子信仰の猟師、葬送人(泣き男)、ハンセン病患者、盲目の琵琶法師(『怪談』で耳なし芳一を演じた中村嘉葎雄が演じている!)、「はいち」と呼ばれる巫女から転落した遊女、皮剥ぎ職人、渡し守、「たたらもの」と呼ばれる製鉄職人、そして特筆すべき・・・犬神人(いぬじにん)。
太子信仰の猟師、葬送人(泣き男)、ハンセン病患者、盲目の琵琶法師(『怪談』で耳なし芳一を演じた中村嘉葎雄が演じている!)、「はいち」と呼ばれる巫女から転落した遊女、皮剥ぎ職人、渡し守、「たたらもの」と呼ばれる製鉄職人、そして特筆すべき・・・犬神人(いぬじにん)。
中世、京都祇園八坂神社に隷属して、社領内の治安警察ならびに清掃などの雑役に従事した者。鴨の河原に近い祇園あたりに集居。日頃は弓弦や矢の製作、販売などを業とし「弦召 (つるめそ) 」とも呼ばれた。また、境内、社頭、祇園祭の神幸路の清掃のほか、戦乱、飢饉などの際の死体の処理権、葬送権をもち、死者の衣服や副葬品を取って利益としており、応安4(1371)年には、類似の権利を主張する河原者と衝突している。(ブリタニカ国際大百科「犬神人」)
映画に出てくる犬神人・宝来は、既存の体制派仏教の手先として親鸞や念仏衆の動向を探り、スパイのごとく暗躍する役目を果たしている。法師姿で赤い布衣、白い布で眼だけ出して覆面し、八角棒を持つ。つまり、被差別者(=非人)であることを衆目にさらしながら生活することを宿命づけられている。
この宝来がなんとも光っている。覆面からのぞく不気味な目の光が、差別され、忌み嫌われる者の卑屈さ、悲しみ、抑えつけられた怒り、諦め、狡知さ・・・といった様々な感情を映し出していて、そんじょそこらの役者じゃ、到底つとまらない難役である。
いったい誰が演じているんだろう???

--と思っていたら、宝来、最後の最後に親鸞の前で覆面を取って素顔を晒した。
真っ白く塗った顔に黒々した髭、額には「犬」の文字の入れ墨。
三國連太郎その人であった。
なるほど、この役を演じるのに三國連太郎以上にふさわしい者はいまい。
三國の養父は被差別部落の出身であり、三國自身、差別問題に関する著作、講演活動等を行っている。民俗研究者の沖浦和光との対談本『「芸能と差別」の深層』(ちくま文庫)を読めば、三國がいかに広く深く被差別の民について研究し、そこで得たものを演技や演出に生かしているかが伺える。
三國の養父は被差別部落の出身であり、三國自身、差別問題に関する著作、講演活動等を行っている。民俗研究者の沖浦和光との対談本『「芸能と差別」の深層』(ちくま文庫)を読めば、三國がいかに広く深く被差別の民について研究し、そこで得たものを演技や演出に生かしているかが伺える。
宝来こそは、三國連太郎の分身なのであろう。
「親鸞の半生を描くことは、すなわち、被差別の民を描くことにほかならない」と、三國監督は教えてくれる。
それにしても、親鸞が比叡山での20年に及ぶ修行で悟れなかったのは、末法の世(1052年が元年とされる)に入ったからではない。それが大乗仏教の限界だったからである。
悟りに至る方法をブッダはちゃんと説いていて、その経典も残っているのだが、それが日本に伝わらなかった。中国を通して伝えられたのは、阿弥陀如来が極楽浄土にいてどうのこうの・・・とか、56億7千万年後に弥勒菩薩が現われてどうのこうの・・・とか、悟りとは関係ない壮大なお伽噺ばかりであった。
悟りに至る方法をブッダはちゃんと説いていて、その経典も残っているのだが、それが日本に伝わらなかった。中国を通して伝えられたのは、阿弥陀如来が極楽浄土にいてどうのこうの・・・とか、56億7千万年後に弥勒菩薩が現われてどうのこうの・・・とか、悟りとは関係ない壮大なお伽噺ばかりであった。
親鸞が迷ったのも無理はなかった。
親鸞がもしブッダの教えをそのまま伝える原始仏教の経典の数々を目にしていたら、日本の宗教史はどれほど変わっていただろう。日本人の宗教観はどれほど今と違っていたことだろう。
それを思うと「歴史とは因果で残酷なものよ」と思うけれど、それもまた因縁なのだろう。
今日我々は親鸞が見たら驚喜で卒倒するような原始経典を邦訳で読むことができる。悟りに至る瞑想法を修することができる。
サードゥ、 サードゥ、サードゥ
サードゥ、 サードゥ、サードゥ
評価:A-
A+ ・・・・めったにない傑作。映画好きで良かった。
「東京物語」「2001年宇宙の旅」「馬鹿宣言」「近松物語」
A- ・・・・傑作。できれば劇場で見たい。映画好きなら絶対見ておくべき。
「風と共に去りぬ」「未来世紀ブラジル」「シャイニング」「未知との遭遇」「父、帰る」「ベニスに死す」「フィールド・オブ・ドリームス」「ザ・セル」「スティング」「フライング・ハイ」「嵐を呼ぶ モーレツ!オトナ帝国の逆襲」「フィアレス」
B+ ・・・・良かった~。面白かった~。人に勧めたい。
「アザーズ」「ポルターガイスト」「コンタクト」「ギャラクシークエスト」「白いカラス」「アメリカン・ビューティー」「オープン・ユア・アイズ」
B- ・・・・純粋に楽しめる。悪くは無い。
「グラディエーター」「ハムナプトラ」「マトリックス」「アウトブレイク」「アイデンティティ」「CUBU」「ボーイズ・ドント・クライ」
C+ ・・・・退屈しのぎにちょうどよい。(間違って再度借りなきゃ良いが・・・)
「アルマゲドン」「ニューシネマパラダイス」「アナコンダ」
C- ・・・・もうちょっとなんとかすれば良いのになあ。不満が残る。
「お葬式」「プラトーン」
D+ ・・・・駄作。ゴミ。見なきゃ良かった。
「レオン」「パッション」「マディソン郡の橋」「サイン」
D- ・・・・見たのは一生の不覚。金返せ~!!
A+ ・・・・めったにない傑作。映画好きで良かった。
「東京物語」「2001年宇宙の旅」「馬鹿宣言」「近松物語」
A- ・・・・傑作。できれば劇場で見たい。映画好きなら絶対見ておくべき。
「風と共に去りぬ」「未来世紀ブラジル」「シャイニング」「未知との遭遇」「父、帰る」「ベニスに死す」「フィールド・オブ・ドリームス」「ザ・セル」「スティング」「フライング・ハイ」「嵐を呼ぶ モーレツ!オトナ帝国の逆襲」「フィアレス」
B+ ・・・・良かった~。面白かった~。人に勧めたい。
「アザーズ」「ポルターガイスト」「コンタクト」「ギャラクシークエスト」「白いカラス」「アメリカン・ビューティー」「オープン・ユア・アイズ」
B- ・・・・純粋に楽しめる。悪くは無い。
「グラディエーター」「ハムナプトラ」「マトリックス」「アウトブレイク」「アイデンティティ」「CUBU」「ボーイズ・ドント・クライ」
C+ ・・・・退屈しのぎにちょうどよい。(間違って再度借りなきゃ良いが・・・)
「アルマゲドン」「ニューシネマパラダイス」「アナコンダ」
C- ・・・・もうちょっとなんとかすれば良いのになあ。不満が残る。
「お葬式」「プラトーン」
D+ ・・・・駄作。ゴミ。見なきゃ良かった。
「レオン」「パッション」「マディソン郡の橋」「サイン」
D- ・・・・見たのは一生の不覚。金返せ~!!