先日、社会福祉士の受験資格を得る為の5週間にわたる障害者施設での実習が終わった。
 カレンダーに残りの日数を記入して指折り数えて待ちかねた最終日だったが、奇妙なことに、終わってみると解放感や達成感はさほど湧いてこなかった。ただ虚脱感のみに支配された。
 それでも自分へのご褒美に、夕食はロイヤルホストでステーキを食べた。

 終わったらとにかく山に行こう!と思っていた。
 手持ちのガイドブックから手頃なところを選んだ。アクセスが良く、それほどきつくなくて、休日でも静かな山歩きが楽しめそうなところ。帰りに温泉に寄れればなお良い。
 丹沢の高松山に白羽の矢が立った。

●日程  10月31日(土)
●天気  くもり
●行程
08:30 JR御殿場線・山北駅
      歩行開始
08:50 高松山入口バス停
09:10 ビリ堂分岐
09:35 舗装道終了、山道に入る
10:50 ビリ堂
11:40 山頂
      昼食休憩(80分)
13:00 下山開始
13:30 瞑想(50分)         
14:30 尺里峠
15:20 最明寺史跡公園
16:40 小田急線・新松田駅
      歩行終了
●所要時間 8時間10分(歩行時間5時間30分+休憩時間2時間40分)
●標高差  約700m

 新宿発の小田急線特急あさぎり1号に乗る。
 特急券を購入する時間がなくて、発車間際の特急列車に乗り込んで中で車掌を呼び止めたのだが、車内で指定席券を買うと通常より300円増しになると言う。
 なんというあこぎな商売!
 松田駅でJR御殿場線に乗り換え、山北駅で下車。
 無人でスイカの読み取り装置もない。(窓口の営業時間は9-17時)
 下車したのは5~6名くらい。間違いなく静かな山歩きが楽しめそう。
 北口駅前広場にはウッディで瀟洒なつくりの観光案内所がある。 

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 駅を背に県道76号線を右に進む。
 茅葺屋根の美しい民家やもっちりした実がたわわに成っているキウイ畑(はじめて見た!)を横目に進むと、高松山入口バス停がある。左に折れて東名高速の下をくぐり、尺里川(ひさりがわ)に沿って進むと、ビリ堂分岐に着く。
  観音様が並んでいる。道中の安全を祈る。

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  道を左にとって、みかん畑を緩やかに上っていく。足柄みかんは山北町の特産品の一つである。
   高度が上がるに連れ、秋の里山風景が眼下に広がる。

高松山 010

 道なりに進むと、舗装道路の終点に着く。ここから山道に入る。
 と言っても、杉木立に囲まれた歩きやすいなだらかな上り。
 道が険しくないせいもあって、雑念が浮かぶ。とりわけ、終わったばかりの実習のことをいろいろ考えている。反省点とか、不満な点とか、そこで出会ったスタッフや利用者のこととか、いくつかのエピソードとか・・・。まだ気持ちの整理がついていない。達成感や充実感がないのはそのためらしい。自分の中で「終了」させていないのだ。一ヶ月以上も関わったのだから仕方ない。

 1時間ほどでビリ堂に到着。
 ひときわ高く聳える杉の根方に二対の観音様が並んでいる。その横に立つ案内板によると、ビリ堂の名の由来は「一番最後(ビリ)にある馬頭観音だから」という。

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文化10年(1813年)に尺里の人々が近村の人と協力して村内安全、五穀豊穣を祈って建立した12体の8番目に位置している。

 8番目ならビリじゃないのでは・・・?
 この手の案内板って意味不明なものが多い。

ここのお山は、花の百名山(田中澄江)の一つになっており、楽しい山である。

 『花の百名山』とは、作家の田中澄江(1908-2000)が1980年(昭和55年)に発表した随筆集の題名であり、また同書で紹介された花の美しい100の山のことを指す。その後、田中は1995年(平成7年)に『新・花の百名山』を著し、新たに100の山とその代表的な植物を紹介している。
がしかし、田中の紹介した「百名山」および「新・百名山」のいずれにも、高松山は入っていない。まさに「看板に偽りあり」だ。
 調べたところ、田中澄江ではなく、山と渓谷社がNHKの番組のために選定した「花の百名山」の中に高松山は入っている。代表的な花としてキブシが挙げられている。

キブシ
 

 春に咲くキブシは当然見られなかったが、気をつけてみると、なるほど山道や里山には可憐でゆかしげな花が咲いていた。

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 杉を伐採する電ノコの興ざめな音を聞きながら、最後の急な斜面を上り詰めると広々とした山頂に到着。
 あいにくの曇り空で展望はイマイチだが、人の少ない山頂は気持ちがせいせいする。
 ベンチで昼食を食べ、芝に横になって、しばしまどろむ。
 その間の80分、山頂を通り過ぎたのは20名弱。
 

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 下山途中の杉山で、倒木に座って瞑想すること50分。
 気持ちが落ち着き、心が軽くなった。
 軽い足取りで尾根を進む。
 いい加減に見飽きた杉林から、気持ちの良い雑木林に突入する。
 やはり、いろいろな木があったほうが楽しい。気持ちいい。

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 尺里峠(ひさりとうげ)で観音を拝む。
 予定ではここから山を下ってビリ堂分岐に戻って、山北駅に戻るつもりだった。
 が、なんだか歩き足りない。疲れてもいない。それに天気が回復して日が射してきた。
 そのまま尾根を進みJR松田駅まで歩き通すことにする。
 山道が終わり、里山風景の中を舗装路を行く。
 道端のススキが輝かしい。

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 最明寺史跡公園の矢印をたよりに進むと、民家は途絶え、またしても山の中に入っていく。鬱蒼とした森の登り道が続く。
 この道で本当にいいのか?
 はや15時を回っている。
 気もそぞろになりかけた頃、看板が現れた。
 まさに山の中のお寺だったのだ。

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人里離れた松田山山頂付近、海抜550mの地に広がる静謐な公園です。池の近くの石段をのぼると護摩堂跡と最明寺の由来を記した石碑があります。池の周りは桜の木に囲まれ、水面を草花や樹木が彩ります。野鳥がさえずる散策路を歩き、池をひとめぐりすれば、心が解き放たれるような不思議さを覚えます。承久3年(1221年)、この地に浄蓮上人(源延)が夢のお告げをうけて金銅の仏像を安置したのが西明寺(最明寺)の始まりとか。一時は興隆を極めた寺も戦乱にあって衰え、現在の大井町金子に移されました。4月には施餓鬼会が執り行われ、仏縁の深い地であることを今に伝えています。(松田町公式ホームページより)

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 今は池の周囲に植えられた菊が、セピア色の昔の写真のようにくすんだ感じの廃寺を、どうにかこうにか色気づけているばかりである。桜の頃は華やかに多くの人を招くようだ。

最明寺の桜


 公園の駐車場から松田駅方面へと車道を下る。
 しばらくすると、一面のみかん畑が現れた。
 果実が夕日に反射して、オレンジ色の灯りのよう。
 はるか下方には、足柄平野を抜けて小田原市で相模湾へと注ぐ酒匂川(さかわがわ)が、滔々とうねっているのが見える。限りなく透明に近いブルーの空と、蜃気楼のように霞んだ山裾を額縁にして。
 晩秋の平和な光景に心が静まった。

 次の瞬間。

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ああ、やっと実習が終わった・・・!

喜びがじんわりと湧き起こった。

小田急線の新・松田駅前の「箱根そば」で、好物のかき揚げそばを食べる。
かき揚げが大きくて分厚い。

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鶴巻温泉で途中下車し、ハイカージャックされて芋を洗うような弘法の里湯に浸かる。

余は満足じゃ~!