2014年彩図社発行。

 コンピュータ業界で働くアスペルガー症候群の42歳の会社員の手記である。
 
アスペルガー症候群とは、自閉症の中で知的発達の遅れがないものをいう。人づきあいが苦手、場の空気が読めない、冗談が通じないといった特性はあるが、知的な面での発達の遅れがないため、ほとんどのケースで「ちょっと変わったヤツ」と言われるくらいで、見過ごされてしまう。(本書より)

 自閉症の存在自体、世間に知られるようになったのはここ20年くらいのこと。それですらまだ、「心の病」「親のしつけが悪い」といった誤った見方をされがちな現状、いわんやアスペルガー症候群はまだまだ認知度が低い。名前だけからすると「ウルトラ怪獣の仲間?」といった風情すらあるが、アスペルガーという呼称は世界初の症例報告をしたオーストリアの小児科医ハンス・アスペルガーに由来している。
 
 著者が自らをアスペルガー症候群ではないかと疑い、専門外来を受診し、診断を受けたのは40歳になってから。この手記を出版する2年前のことである。当事者ですら病識が持ちにくいところにこの病の特徴の一つがある。
 著者は半生を振り返って「そう言えば…」と思い当たるさまざまな子供の頃からのエピソードを記している。
 友だちと遊ぶより一人で図鑑を読んでいるほうが好きだった、言われたことを字義通りに受け取って融通が利かず人を困らせた、クラスの仲間と波長が合わず自分の主張が通らないとかんしゃくを起こした、その場の空気が読めずに結婚式の二次会で大はしゃぎして顰蹙を買った、職場で同じ間違いを何度も繰り返し上司から叱られた・・・・・。
 このようなエピソードは、たしかにその人の性格や能力の問題とみなされてしまう。良くて「あの人はああいう人だから…」で大目に見てもらえるくらいで、競争原理や集団原理が働いている学校や職場などではどうしたって浮いてしまう。結果、教師や上司から目をつけられ叱られる対象になるか、仲間から白い目で見られたり、最悪の場合いじめの対象になってしまう。よもや先天的な脳の障害だとは誰も思わない。
 本人がいくら努力したところで、今の医学では根本的に治しようがないのだから、不条理な話である。
 当人や周囲に病識があればまったく状況は違ってくる。当人はアスペルガー症候群の特徴を自覚して、自らの言動の傾向を把握して予防策や善後策がとれるようになる。何よりも先天的な脳の障害と知ることで、失敗するたびに自らを不当に責めなくても済むようになろう。周囲もまた障害の特質を知ることで、アスペルガーの人はどういったことがNGでどういったことが得意なのか、どういう心持ちでどういう対応をすれば互いに誤解やストレスの少ないコミュニケーションができるのか、どういう指示を出せば一緒に仕事がスムーズにできるのか、いろいろ工夫して共生することができる。
 そういった意味で、当事者によるこの手記は、社会にアスペルガー症候群について啓発する良い資料と言える。

① 空気が読めない(暗黙のルールがわからない)
② 冗談が通じない
③ 人の話が聞けない
④ 思ったことをすぐに口にしてしまう
⑤ 同じミスを繰り返す
⑥ 他人との距離感がわからない
⑦ 計画を立てるのが苦手
⑧ 二つ以上のことを同時にできない
⑨ 特定のことにこだわりが強い(収集癖がある)
⑩ 偏食が多い
⑪ プレッシャーに弱くパニックを起こしやすい
⑫ ビジュアル情報のほうがわかりやすい
⑬ 粘り強さは人一倍
⑭ 手先が不器用である

 本書で挙げられているアスペルガー症候群の特徴を読むと、「ああ、こういう奴(アスペルガーは男のほうが女の4倍多い)、クラスに一人はいたなあ~」とか「職場に馴染めなくてすぐに辞めてしまったあの人はそうだったのかな~」とか、思い当たることがある。
 というより、「もしかしたら自分もアスペルガーかも・・・?」と思ったりする。
 若い頃(20代くらいまで)の自分を思い返すと、上記のうち7割くらいは当てはまる。
 「だから生き難かったのかあ~」
 ――なんて言い訳すると、アスペルガー症候群の人に失礼だよな。
 (いや、マジでほんとにそうなのかも、自分・・・)