2013年イギリス。

 登場人物は男一人きり。(声のみの出演は複数あり。)
 舞台は夜のハイウェイ、男が運転する車の中。
 男が車に乗り込みエンジンをかける音と共に物語はスタートし、男が目的地に到着する寸前に物語は終わる。映画の経過時間がそのままドライブの経過時間と重なる。つまり、86分の上映時間、観る者は男の86分のドライブに徹頭徹尾付き合うことになる。(なので、夜仕事が終わってから観ると臨場感が増すこと間違いなし。)
 なんとも画期的な手法である。前例としてはヒッチコックの名作『ロープ』(1948年)がある。が、一人芝居という点ではこの映画は前代未聞ではなかろうか。
 しかも、スリルとサスペンスと人間ドラマが堪能できる上質な作品に仕上がっている。
 一人の有能な役者(トム・ハーディ)と一つの簡単なセット(車)と優れた脚本さえあれば、十分に面白い映画は作れるという見本のような作品。制作費150万ドル(約1億8000万円)、撮影日数8日間とは! ちなみに『スター・ウォーズ フォースの覚醒』は2億ドル(約240億円)をつぎ込んでいる。
 
 この映画の成功はひとえにスティーヴン・ナイト監督自身による脚本の巧さとトム・ハーディーの演技に拠っている。
 トム・ハーディーはイギリス出身の1977年生まれの38歳。レオナルド・ディカプリオ主演の『インセプション』(2010年)やクリストファー・ノーラン監督の『ダークナイト ライジング』(2012年)に出演している。(ソルティ未見) 
 この一作で演技派としての名声を確立したと言っていいだろう。
 
 この映画を観ると、ドラマを生み出すのは‘枷’であるという基本的事実を思い起こす。CGでも豪華なセットでも人気スターのオーラーでもない。派手なアクションシーンでも残虐なスプラッタシーンでもエロティックシーンでもない。ましてや、複雑難解なパズルストーリーでもアっと驚くどんでん返しでもない。
 人間が背負っている‘枷’こそが、ドラマを生み出すのである。
 
 主人公アイヴァン・ロックが嵌まっている‘枷’は3つある。
 一つは、有能な建築現場監督としての責任。明朝は巨大ビルディングの土台作りのため現場を仕切らなければならない。男一世一代のビッグな仕事が待っている。仕損じたらクビだ。
 一つは、愛する妻と息子たちの待つ家庭。彼らは、サッカー試合を一緒にテレビ観戦するためアイヴァンの帰りを今や遅しと待っている。
 残る一つは、アイヴァンが一夜限りの心の隙から孕ませてしまった孤独な女性。彼女はいまアイヴァンの子供を生むためにたった一人で病院のベッドに伏している。アイヴァンが夜の道路を猛スピードで走りながら向かっているのは、彼女とベイビーの待つ病院である。
 アイヴァンは3つの‘枷’のすべてを上手く乗り切ろうと、車内電話を駆使しながら孤軍奮闘する。
 だが、そうは問屋がおろさない。
 二兎追うものは一兎も得ず。
 では、三兎追うものは・・・?
 
 「アイヴァンのこれからの人生に幸あれ!」
 86分間助手席で見守ってきた観る者はそう思わざるを得ないだろう。
 
 
評価:B+

A+ ・・・・めったにない傑作。映画好きで良かった。 
「東京物語」「2001年宇宙の旅」「馬鹿宣言」「近松物語」

A- ・・・・傑作。できれば劇場で見たい。映画好きなら絶対見ておくべき。
「風と共に去りぬ」「未来世紀ブラジル」「シャイニング」「未知との遭遇」「父、帰る」「ベニスに死す」「フィールド・オブ・ドリームス」「ザ・セル」「スティング」「フライング・ハイ」「嵐を呼ぶ モーレツ!オトナ帝国の逆襲」「フィアレス」   

B+ ・・・・良かった~。面白かった~。人に勧めたい。
「アザーズ」「ポルターガイスト」「コンタクト」「ギャラクシークエスト」「白いカラス」「アメリカン・ビューティー」「オープン・ユア・アイズ」

B- ・・・・純粋に楽しめる。悪くは無い。
「グラディエーター」「ハムナプトラ」「マトリックス」「アウトブレイク」「アイデンティティ」「CUBU」「ボーイズ・ドント・クライ」

C+ ・・・・退屈しのぎにちょうどよい。(間違って再度借りなきゃ良いが・・・)
「アルマゲドン」「ニューシネマパラダイス」「アナコンダ」 

C- ・・・・もうちょっとなんとかすれば良いのになあ。不満が残る。
「お葬式」「プラトーン」

D+ ・・・・駄作。ゴミ。見なきゃ良かった。
「レオン」「パッション」「マディソン郡の橋」「サイン」

D- ・・・・見たのは一生の不覚。金返せ~!!