2014年彩図社刊行。

俺の名前は玉井次郎。年齢は50歳。妻と高校2年生の息子を持つ。
つい3ヶ月前までは宮城県仙台市内の飲食店で、調理師として働いていた。
しかし今、俺は妻と息子を仙台に残し、東京・吉原の「シンデレラ城」という総額8万円の高級ソープランドでボーイ、つまり男性店員をやっている。

 という自己紹介で始まる実体験・業界裏ノンフィクション。
 自分の知らない世界(お客としても!)のことなので興味津々で読んだ。
 とは言え、想像とそれほど違っているふうでもなかった。
 
 自分の仕事である老人介護も「きつい、きたない、危険、給料安い」の4Kと言われる上に、認知症など対応の難しい利用者へのサービス業ゆえストレスが大きく、女性の多い職場ならではの人間関係の難しさもあって、一般に離職率が高い。自分の職場でも一時は一ヶ月に一人辞めていた。(今は幾分落ち着いている。) いろいろな施設を渡り歩いてきた同僚の話やネットの介護職板なんかを見ると、「常時人手不足。それがフツー」の世界なんだと感じる。
 しかし、自分も老人介護こそ今の職場が始めてであるが、これまで結構いろいろな業種や職場を転々としてきた。(1年以上続いた職場を数えると今が7つ目である。) その経験から言って、やはり「世にラクな仕事などない」と思う。一番ラクだと思った、人通りの少ないコンビニ店の一人夜勤でも、結局体を壊して辞めざるを得なかった。
 介護の仕事は、なんだかんだ言ってノルマがない。少なくとも現場の介護職員は、「利用者をもっと増やさなければクビになる」とか「いついつまでに目標を達成させなければ給料がダウンする」といったプレッシャーからは自由である。介護保険料という公金が投入されていることや、入所者への虐待がニュースになっていることもあって、行政はじめ外からのチェックが厳しくなっている。ということは、職員への待遇もそれほど‘あこぎ’はできない。2013年ブラック企業大賞を受賞したワタミも、あいつぐ重大介護事故による悪評と経営難が原因で介護事業から撤退した。職員への待遇の劣悪さはそのまま入所者への介護の劣悪さにつながるので、利用者が施設を選択できる今の「契約」時代、長い目で見れば、劣悪な施設は淘汰されていくのではないかと思う(というか期待する)。

 ちなみに、2016年ブラック企業大賞はジャニーズ事務所になる可能性濃厚。 
 
 話が逸れた。
 介護の仕事はラクではないけれど、ソープランドのボーイに比べれば「天国」のようなものである。この本を読んでつくづくそう思った。
○ 日給10,000円。ただし、日払いは3000円、残り(7000円×勤務日数分)は給料日に一括。
○ 労働時間は朝11時から夜12時半(13時間半!)、休憩は1時間。
○ 休みは月3回
○ 雇用保険、社会保険なし
○ 店近くの社員寮に同僚3名と共同生活。その面子は、元ヤクザ、元暴走族、元受刑者、性格破綻者など一癖も二癖もある男ばかり。
○ 炎天下でのスーツを着ての客引き、他人の精液のついたティッシュやリネンの後片付け、お得意さまへの24時間メール営業、毎夜足が攣るほどの重労働、先輩には絶対服従のタテ社会
○ ‘普通に見えて普通じゃない’店の女の子たちのご機嫌取り(ただし手を出すのはご法度) 
○ 何の予告もなく、何の連絡もなく、ある日突然店に現れなくなる同僚(業界用語で‘飛んだ’というらしい)

 今さら言うまでもないが、明らかに労働基準法違反。
 というか、ブラックキング・・・
 大体、日給1万円を労働時間で割れば時給800円。 著者が働いていた2014年当時の東京都の最低賃金(850円)に達していない。

 そりゃあ、飛ぶでしょ
 
 こういう仕事をあえて選ぶには、それなりの事情がある。莫大な借金を背負っている、まともなところでは就職できない・・・等々。著者の場合、インターネットでの株投資の失敗と東日本大震災による失職がもとで、家のローンを払い家族を養っていく手立てが無くなったことであった。「自殺して生命保険を家族に残そう」とした背水の陣で、東スポの求人欄に光(の泡)を見、単身上京したのである。いわゆる出稼ぎ。
 
 男とは、父親とは、愛する家族のためにはここまで頑張るんだなあという‘今更ながらの男のいじらしさ’と、ここまで頑張らなくても変なプライドさえ捨てればもっと楽に修羅場を潜り抜けられるのにという‘今更ながらの男の愚かさ’の両方を、著者は見せてくれる。
 その意味で、‘男(ボーイ)’の物語として自分は楽しんだ。 

 最後に。
 吉原の高級ソープではスキンを使わないそうです。
 大丈夫か・・・・エイズ。