1952年松竹。

 異色の小津作品という感じがする。
 スタイル的にではなく内容的に、である。
 スタイル的には、低い視点の固定カメラ、バストショットで鸚鵡返しの単調なセリフのやりとり、空ショットの多用、壺や茶筒など文物をセンターに、演じる人物を脇に配した画面作り・・・など、翌年の『東京物語』で完成を見た小津スタイルがここでも健在である。(ズームが使われているのはちょっと珍しいと思った。)
 内容的な異色とは、ひとことで言えば‘女臭い’映画という点である。
 
 小津作品はいつも男臭い。バンカラである。扱うテーマから言えば男臭さの権化と思える黒澤映画よりも、小津映画のほうが平均的には男臭いと自分(ソルティ)は思う。
 それはおそらく、作品の持つ‘ウェット感’が影響している。
 黒澤映画はどこかウェットである。別の言葉で言えば「人情的」である。小津映画は乾いている。黒澤がチャップリンとしたら、小津はバスター・キートンだ。『東京物語』のように家族間の人情を描くドラマであってさえ、観る者の感情移入を不思議と拒むところがある。それは、先にあげた対象から常に一定の距離を置く小津スタイルのためでもあろうが、根源的なところにあるのは小津安二郎のストイシズムなのではないかと思う。
 小津作品からはエロスが欠落している。少なくとも女のエロスが。なまめかしいのは、原節子でも三宅邦子でもましてや杉村春子でもなく、佐野周二(『父ありき』の息子役)であり、この作品の佐分利信であり、壺や茶筒の曲線や表面のツヤである。
 生涯結婚せずに母親と二人暮らしだったという小津監督のセクシュアリティには興味深いものがある。
 そんななか、この作品はウエット感がいつもより濃厚なのである。
 
 理由の一つは、主演の木暮実千代の艶にある。洋装、着物、浴衣、ファッションショーのように切り替わる木暮の艶やかにして凛としたいで立ちは、登場するだけで画面にツヤをもたらす。この‘女満開’オーラはさすがの小津スタイルも閉じ込めておけなかったようだ。
 木暮を中心に他の3女優――淡島千景、津島恵子、上原葉子(←加山雄三の母親!)――が競演し、女ばかりで温泉に出かけては酒を飲んで酔っ払ったり、野球観戦に行ったり、ことあるごとにそれぞれの亭主の愚痴をぶちまけたり・・・と、「女子会」の模様が頻繁に描かれているのも‘女臭い’理由の一つ。温泉の部屋の窓辺でしどけない浴衣姿でくつろぐ4人の周囲を、庭の池に反射した光の模様が揺らぎ遊ぶシーンなど、衣笠貞之助監督『歌行燈』を連想させるほどにはかなげに美しく、「小津監督もこんな細やかな新派風の演出ができるのか」と感嘆する。
 また、物語が終始女性視点、すなわち木暮実千代演じる妻・佐竹妙子の視点で描かれているのも‘女臭さ’の原因である。「女達の目から見た男(亭主)の仮の姿と真の姿」というのが、この映画の主題なのである。
 
 こういった毛色の変わった小津映画を面白く観ていたのだが、最後の最後で教条主義になってしまうのが残念。
 佐竹妙子は、鈍感でドン臭いと思っていた亭主・佐竹茂吉(=佐分利信)が、実は「器の大きな、地に足ついた男」であることを知って反省するというオチなのだが、それが「世の女性方よ。男を、亭主を見くびってはいかん。亭主を馬鹿にして、遊び惚けるのも大概にしなさい。」という説教になってしまって、台無しである。
 『戸田家の兄妹』(1941年)でもそうだが、教条主義に走ると小津映画は失敗する。もとがストイシズムなだけに、とたんに息苦しい、無味乾燥なものになってしまう。
 『東京物語』以後の作品は、教条主義を捨てたストイシズムによって万人の共感を得たのであろう。
 
 それにしても、撮影当時の佐分利信は43歳、木暮実千代は34歳。共に貫禄・風格十分の立派な大人である。
 いま、SMAPの中居君が43歳、宮沢りえが36歳。
 こうして比べると、戦後、日本人がいかに幼く(若く)なっているかが瞭然である。
 だからどう、というわけでもないのだが、映画を観ている間、佐竹茂吉(=佐分利信)を自分より年上に思い、「いぶし銀のような渋いお父さんだなあ」と憧れに近い魅力を感じていたのだが、実際は自分より10歳近くも年下なのである。

 なんだかなあ~。



評価:B-

A+ ・・・・めったにない傑作。映画好きで良かった。 
「東京物語」「2001年宇宙の旅」「馬鹿宣言」「近松物語」

A- ・・・・傑作。できれば劇場で見たい。映画好きなら絶対見ておくべき。
「風と共に去りぬ」「未来世紀ブラジル」「シャイニング」「未知との遭遇」「父、帰る」「ベニスに死す」「フィールド・オブ・ドリームス」「ザ・セル」「スティング」「フライング・ハイ」「嵐を呼ぶ モーレツ!オトナ帝国の逆襲」「フィアレス」   

B+ ・・・・良かった~。面白かった~。人に勧めたい。
「アザーズ」「ポルターガイスト」「コンタクト」「ギャラクシークエスト」「白いカラス」「アメリカン・ビューティー」「オープン・ユア・アイズ」

B- ・・・・純粋に楽しめる。悪くは無い。
「グラディエーター」「ハムナプトラ」「マトリックス」「アウトブレイク」「アイデンティティ」「CUBU」「ボーイズ・ドント・クライ」

C+ ・・・・退屈しのぎにちょうどよい。(間違って再度借りなきゃ良いが・・・)
「アルマゲドン」「ニューシネマパラダイス」「アナコンダ」 

C- ・・・・もうちょっとなんとかすれば良いのになあ。不満が残る。
「お葬式」「プラトーン」

D+ ・・・・駄作。ゴミ。見なきゃ良かった。
「レオン」「パッション」「マディソン郡の橋」「サイン」

D- ・・・・見たのは一生の不覚。金返せ~!!