1977年東映。

 八杉恭子(岡田茉莉子)は、戦後の混乱期、生きるためにパンパン(米兵相手の売春)をやっていて、知り合った黒人兵との間に男の子をもうけた。これが事件の発端となる。
 数十年後、大物政治家の妻となり、ファッションデザイナーとして頭角を現していた恭子のもとに、過去の亡霊が現れる。捨てたはずの息子ジョニーが、アメリカから恭子を慕ってやって来たのである。
 過去が世間に暴露されスキャンダルになれば、今の幸せが崩壊する。
 思い余った恭子はジョニー殺しを決行する。

 30年以上ぶりに観た。
 やっぱり、見ごたえある。
 主演の岡田茉莉子は当時44歳。10代のソルティの目には‘派手で年増のおばさん’という印象だったが、自分がその年齢を上回った今見ると、まぎれもなく美貌と貫禄あふれる大女優がそこにいる。三船敏郎、夏八木勲、長門裕之、鶴田浩二、峰岸徹、地井武男、ハナ肇、ジョージ・ケネディ・・・錚々たる豪華男優陣を足元にも寄せ付ず独り高みで輝いている。
 唯一匹敵すべき存在感を発揮しているのが松田優作。やはり子供の目には‘むさくるしい怖そうなオジサン’という印象だったが、当時28歳。今見ると青春の香りがふんぷんとするではないか。岡田茉莉子と互角に渡り合うのだから、やっぱり稀代の名優と言うべきだろう。
 そうそう。当時26歳の岩城滉一が岡田の息子役で出演している。本来の‘族’上がりの硬派イメージとは異なる「甘やかされ駄目になったお坊ちゃん」役で、そのギャップが楽しい。
 
 この『人間の証明』と並んで、少年ソルティが強い刻印を受けた70年代の日本映画に、松竹の『砂の器』(野村芳太郎監督、1974年)と、東宝の『犬神家の一族』(1976年)がある。いずれも大ヒットを記録し、森村誠一、松本清張、横溝正史の原作本は飛ぶように売れた。この3つの作品が、それまで『ゴジラ』や『モスラ』などの怪獣映画や、『地底探検』『人類SOS!』などの海外B級SF映画にしか興味なかったソルティが、日本の本格的大人映画に目覚めたきっかけであり、そこに共通して響いている重くて暗いテーマに愕然とし、「生きるって大変なのかも・・・」と洗礼を受けた最初であった。
 重くて暗いテーマとは、ずばり「過去」である。
 
 『人間の証明』『砂の器』『犬神家の一族』は、人に言えない悲惨な過去が、安穏にまた華やかに生きている現在の人間達を不意打ちする。主人公は、現在の生活と体面を守るために闇から立ち現れた過去を封じ込めようとして、殺人を犯す。そこが、単なる痴情のもつれや遺産をめぐる争いや衝動殺人とは違った、深い業とでも言うべき動機を主人公に担わせ、「犯人が捕まってよかった」「自業自得だ」という単純な勧善懲悪に終わらずに、観る者の胸のうちに犯人に対する哀れみと同情の念を催すのである。謎の解明は、決してすっきりした気分のいいものではなく、背景にある戦争・差別・偏見・因習に縛られた家制度などの不条理を浮かび上がらせ、映画館を出る観客たちは「人が歴史の中を生きることの重さ・不自由さ」について思いをめぐらせたのである。当時の大人たちは、その過去を、犯人たちの「物語」をリアルタイムで共有してもいた。
 
 パンパンもハンセン病もよくは知らなかった十代のソルティは、おそらく『人間の証明』や『砂の器』の真犯人の動機を十全に理解してはいなかった。主人公が過去を隠さなければならない理由を、大人の観客のようにはわかっていなかった。
 でも、差別というものがいかに残酷で、差別される人をどれほど苦しめ生きにくくするものなのかを、おぼろげながら感じとり、お茶の間ロードショーが終わって枕に頭をつけてもまだ物語を反芻していたのであった。
 後年自分もまた、差別を受ける側(マイノリティ)になるとは思いもせずに・・・。 

 そう、真の問題は「過去」ではない。「差別」だった。
 

評価:B-


A+ ・・・・めったにない傑作。映画好きで良かった。 
「東京物語」「2001年宇宙の旅」「馬鹿宣言」「近松物語」

A- ・・・・傑作。できれば劇場で見たい。映画好きなら絶対見ておくべき。
「風と共に去りぬ」「未来世紀ブラジル」「シャイニング」「未知との遭遇」「父、帰る」「ベニスに死す」「フィールド・オブ・ドリームス」「ザ・セル」「スティング」「フライング・ハイ」「嵐を呼ぶ モーレツ!オトナ帝国の逆襲」「フィアレス」   

B+ ・・・・良かった~。面白かった~。人に勧めたい。
「アザーズ」「ポルターガイスト」「コンタクト」「ギャラクシークエスト」「白いカラス」「アメリカン・ビューティー」「オープン・ユア・アイズ」

B- ・・・・純粋に楽しめる。悪くは無い。
「グラディエーター」「ハムナプトラ」「マトリックス」「アウトブレイク」「アイデンティティ」「CUBU」「ボーイズ・ドント・クライ」

C+ ・・・・退屈しのぎにちょうどよい。(間違って再度借りなきゃ良いが・・・)
「アルマゲドン」「ニューシネマパラダイス」「アナコンダ」 

C- ・・・・もうちょっとなんとかすれば良いのになあ。不満が残る。
「お葬式」「プラトーン」

D+ ・・・・駄作。ゴミ。見なきゃ良かった。
「レオン」「パッション」「マディソン郡の橋」「サイン」

D- ・・・・見たのは一生の不覚。金返せ~!!