第29回社会福祉士国家試験が終了した。
足掛け4年、正味2年と9ヶ月の資格取得プロジェクト――その間には介護福祉士国家試験もあった――が満期を迎え、約7ヶ月にわたる受験勉強が終結し、ホッとしている反面、荷降ろし症候群にでもなるんじゃないかという虚脱感もある。
ま、とりあえず一ヶ月は遊んで暮らしたい。
1月29日はとても良く晴れ、風もなく、暖かかった。最高の試験日和(?)である。雪が降って交通機関がマヒしたり、会場の寒さで試験に集中できなかったりということがなかった。受験者それぞれが実力を発揮できたことだろう。(インフルになった人は悔しかろう)
会場はお台場にある東京ビッグサイト(東京国際展示場)。試験会場に「東京」を希望した受験者の大半はここに集められたのではなかろうか。りんかい線とゆりかもめの国際展示場(正門)駅から、エヴェンゲリオンの第5使徒ラミエルを思わせるビッグサイトへと吸い込まれていく多量の受験者の流れに身を投じる。
世代は20~30代の若者が多い。ソルティのような中高年もチラホラいる。中にはすっかり白髪の紳士の姿も。学ぶに遅すぎることはない。
7:3くらいで女性が多い。頑張ろう、男性諸君。
見通しの良いだだっ広い会場には長テーブルと椅子が何百と並べられていた。各テーブルの隅には受験番号が貼ってある。セッティングだけでも相当の時間がかかったであろう。早く到着した受験者は参考書を広げ、最後のあがきに邁進中。
席に着いたソルティは鉛筆と時計の用意をして、あとは始まるまで例のごとくヴィパッサナー瞑想を行っていた。これで完全に落ち着いた。
試験は午前2時間15分(共通科目)、午後1時間45分(専門科目)。あまり考え込まずにスイスイと進めたので、時間的には余裕があった。難易度は例年並みという気がした。(過去問の25回だけは格別に難しく、合格率が例年の10%近くまで下がった。合格者は4人に1人の割合が通例なのだが、25回は5人に1人以下だった)
1時間半の昼休み。会場の脇を流れる運河の土手を歩くと、よく日の当たるベンチがあった。穏やかな運河の向こう、春めいた青空を背景に林立する大観覧車、フジテレビ、テレコムセンターらの建築物と、その下を縫うように移動するゆりかもめ。お台場もなかなか美しい。ここで昼食および昼寝をする。昼寝のお伴はマーラー交響曲第3番第6楽章である。
午後の専門科目のほうが易しかった。
が、ここでちょっと手が止まった問題が二つあった。
問題【97】および【135】である。
「未婚の母」問題である。
正解は、「生んで子育てしたい」という本人の希望(自己決定)を尊重した選択肢2番である(各業者の模範解答によれば)。本人が未成年ならまだしも成年に達しているので、「クライエントの自己決定を尊重し社会資源を活用して支援する」というソーシャルワークの黄金律が適用される。2番で間違いない。
しかし、ソルティの手は一瞬、3番の上で止まった。
もし、ソルティの姪っ子が同じ状況にはまって彼女から相談を受けたとしたら、最終的に3番のように当人が自己決定するよう、はっきりとではなく遠回しであるが誘導助言してしまうのではないかと思ったのである。それはソーシャルワーカーのプロとしての立場ではなく、世の中というものを多少知ったつもりでいる、当事者と近い立場にある年長者の知恵(あるいは偏見)からである。心の中でこう考えるだろう。
「女が一人で子供を育てるのがどんなに大変なことか分かってる? 途中で嫌になったからって投げ出すわけにはいかないんだよ。生まれてくる子供だって最初から片親という不利を背負わされるじゃないか。経済的にだって苦労するだろう。可哀想だよ。あんたは若いんだし、そこそこきれいなんだから、この先もっと素晴らしい相手に巡り合える。子供だってつくれる。そもそもあんた、つき合っている女の妊娠を知ったらとたんに音信不通になるようなどうしようもない男につかまったんだろう。今のままだと、この先だって同じような男にのぼせるに決まっている。男を見る目がないんだから。それでまた子供ができたら産む気かい? 苦労するのが目に見えている。せっかく希望した大学に入って大事な学業の途中なんだから、将来をよく考えて、お父さんお母さんともよく相談して、一時の感情に流されずに決めたほうがいい」
これを老婆心、あるいはおせっかいババアの繰り言という。
でも、世間的にはこうした因循姑息たる助言(別名「渡る世間は鬼ばかり」的教訓)がまだまだ多いのではないかなあ~。
この女子大生のパーソナリティが説明されていないところもミソである。あるいは、子育てしながら自立して生きられるしっかりした賢い女性なのかもしれない。あるいは、男に優しい言葉をかけられたらコロリと騙されてしまう依存心の強い女性なのかもしれない。世間知ならば、本人の性格も考慮して助言するところだろう。
本人のパーソナリティに関わらず、それこそ本人が何らかの障害を抱えていようがいまいが、選択肢2番のような対応をするのが現代のソーシャルワークの真骨頂である。
これはソルティの職域に関わる。
認知症高齢者のフロア徘徊は日常茶飯事。他の利用者の部屋に勝手に入ったり、そこで放尿・放便したり、真夜中に手を叩きながら歩き回ったり、他の利用者から職員に苦情が寄せられたり、部屋に戻ってもらおうと声がけした職員が怒鳴られ殴られたり・・・・なんて珍しくも何ともない。
しかし、利用者を部屋に閉じ込めて外から施錠することは身体拘束になる。虐待となる。利用者本人や他の利用者の安全を守るために一時的に「拘束止むなし」と判断したとしても、実施に際しては、前もって利用者の家族に了解を得る、拘束の期限を決めるなどの所定の手続きを踏む必要がある。ソルティの職場でもA介護職員がとったような対応は許されていない。
正解は2つ。
選択肢2番と5番はすぐに消去できる。
4番が正解であることも疑う余地ない。
すると、もう一つの正解は1番か3番となる。
ソルティははじめ3番に丸をつけた。家族に「状況を説明し、了解を求める」のは大切かつ必要なことで良心的でもある。ソルティがL社会福祉士なら、まずこれをするだろう。
しかし、事後報告・事後了解である。そこが問題だ。
数秒考えた結果、1番に変更した。高齢者虐待防止法に以下の文言があるからだ。
第二十一条 養介護施設従事者等は、当該養介護施設従事者等がその業務に従事している養介護施設又は養介護事業において業務に従事する養介護施設従事者等による高齢者虐待を受けたと思われる高齢者を発見した場合は、速やかに、これを市町村に通報しなければならない。
業者の模範解答を見ると、正解は1番と4番としているところが多い。(3番と4番としているところもあった)
世間常識レベルで考えるならば、こうした対応(S町への通報)を、たとえ事業所の管理者であるとはいえL社会福祉士が個人判断でしてしまうことは、もしかしたら事業所の経営陣から睨まれる結果になるかもしれない。虐待者として通報されたA介護職員からは逆恨みを受けるかもしれない。事業所は混乱に陥る可能性が高い。L社会福祉士は「世渡り下手」ということになるだろう。(むろん、拘束を受けたMさんに怪我等の異変があった場合には、報告しないのは犯罪になろう。Mさんに何もなかったので「今回だけは大目に見る」という選択も現実的には結構あると思う)
だが、原理原則を押さえて回答するのが資格試験のルールであろう。(このケースの場合、「何が虐待にあたるのか」を前もってA介護職員に伝えておかなかった点が一番の問題である。その意味では管理者のL社会福祉士の責任は免れまい)
上記の2問以外はあまり迷わずにスイスイと進んだ。が、それはすべての問題について「正解がはっきり見えた」からではなくて、すぐに解答が出てこない問いについては「この問題に時間を割いても無駄だ」と素早く判断し、直感で解答したからである。
結局のところ、5つの選択肢のそれぞれについて「正しいか、正しくないか」を判断するということは、「知っているか、知らないか」の問題、すなわち知識の有無の問題であり、記憶力如何にかかっているからである。思考能力はことさら関係ないので、「知らない」ものについていくら考えても無駄なのだ。(むしろ、下手に考えて選択肢を変更した結果、直感で選んだ最初の選択肢のほうが当たっていたということのほうが多かったりする)
やっぱり、試験は最終的には記憶力勝負なのだ。
その点で、若い人が有利なのは間違いなかろう。
中高年の不利は記憶力減退のほかにもある。老眼である。
マークシートが細かすぎて、上手く塗れない!
近眼にして老眼のソルティは、眼鏡をかけていると老眼で苦労し、眼鏡をはずすと近眼で苦労する。(近眼の人は老眼になりにくいなんて嘘を言っていたのは誰だ!) 問題用紙を読むときは眼鏡が欠かせなく、マークシートを塗るときは眼鏡をはずしたほうがやりやすい。一問答えるごとに、いちいち眼鏡をはずしたり、掛けなおしたりしなくてはならない。うっとうしい。
どうしたかと言うと、20問ずつで区切って(眼鏡をしたまま)問題用紙の選択肢に○をつけていき、(眼鏡をはずして)まとめてマークシートに転記するということをやった。
自宅で過去問をやったときにマークシートを塗る練習もついでにやったのだが、そのときはコンビニでマークシート用紙をご丁寧にも拡大コピーしていたのである。阿呆か。
そんなこんなで、とりあえず持てる力は出し尽くした。これで駄目だったら、この先何回受けても駄目だろう。いや、再受験する気力もない。
いくつかの業者の出している模範解答は、解答の分かれるものもある。専門家が調べて考えて出した模範解答が分かれるってどういうことだよ、それって問題に不備がないのか――って正直思う。
それぞれ模範解答によって自己採点した結果、150点満点中96~102点の間で落ち着いた。共通科目で64%、選択科目で73%の正答率だった。合格基準点は60%つまり合計90点以上なので、マークシートのミスさえなければまず問題なかろう。
試験が終わって会場をあとにする人たち、みんなお疲れ様~!
試験日前日には実習でお世話になった障害者施設の担当者(社会福祉士)から励ましの手紙が届いた。若い(20代のイケメン)のに本当によく出来た男だ。
医学評論社の『社会福祉士の合格教科書』を基本参考書として選んで、これを繰り返し読んだ。著者の飯塚慶子先生に感謝。確かにこれ一冊で十分でした。
通信教育の学校やスクーリングで出会った講師や仲間にも感謝。
応援してくれた家族、友人、同僚にも感謝。
そして、何よりも最後の追い込みで一筆書き学習法の機会を提供してくれたJR東日本に感謝。
受かっても、受かっていなくても、春を探しに鉄道旅行に行きます。
作品の醸し出す雰囲気が、「ふじだな」の雰囲気と、もちろん裏高尾の町の雰囲気とも、マッチしていて見事なハーモニーでした。
美味しい珈琲を飲みながら、ゆったりした時間を過ごせました。
ゆく河の流れは絶えずして
しかももとの水にあらず
無常が自然。