社会福祉士国家試験が終わった翌日は、あらかじめ休みを取っておいた。
 いろいろやりたいことを考えていたのだが、結局、心身が一番望んでいたのは高尾山であった。それもどういうわけか、いつもの沢沿いの気持ちのいい6号路や賑やかな表参道といった人気ルートではなくて、あまり利用されない蛇滝ルートから登りたかった。
 蛇に呼ばれている?
 
 高尾山の裏参道といった趣きのある蛇滝ルートがあまり人気ないのは、名前の禍々しさや地味な山道ゆえといったこともあろうが、何より他のルートに較べアクセスが悪いからである。JR高尾駅北口から1時間に1~2本の小仏行きの京王バスを待たなければならないのだ。
 しかし、静かな山歩きや旧甲州街道沿いの裏高尾の町ののどかさを味わいたい人には、そして高尾山隋一の水行道場である蛇滝付近の神秘的な‘気’を味わいたい者にしてみれば、穴場的なルートなのである。


●日時 2017年1月30日(月)
●天候 晴れ
●行程
10:20 JR中央線・高尾駅北口
    歩行開始
10:40 駒木野庭園
11:25 蛇滝入り口
11:40 蛇滝・水行道場
      登山口~2号路・薬王院経由
13:00 高尾山頂上
      休憩(15分)
      6号路で下山
14:30 極楽湯
    歩行終了
●所要時間 4時間10分(歩行時間3時間20分+休憩時間50分)
 

P1280224


 高尾駅について小仏行きバスの時刻表を見たら、10分前に出たばかりでお次は50分後。
 歩くことにした。
 10年くらい前にこのあたりに住んでいたことがあるので懐かしい。あの頃は結構しんどい時期で心身ともに弱っていた。高尾の霊気と同居していた友人&猫二匹にどれだけ救われたことか!
 高尾は自分の第3の故郷である(第2は仙台)。
 
 甲州街道を中央本線の高架をくぐった先で右折すると、旧甲州街道に入る。甲州街道の車の騒音や排ガスから逃れ、ほっと一息つく。
 しばらく行くと、左手に精神科専門の高尾駒木野病院が現れる。その隣に旗竿に「八王子市高尾駒木野庭園」と書かれた古い民家がある。
 

P1300238

P1300230

 
 ここはもともと昭和2年に開院された小林医院の院長宅だったそうだ。戦火を免れた貴重な日本家屋である。平成21年に家屋と土地が八王子市に寄贈され、24年4月に開園した。ソルティが高尾に住んでいた頃はまだなかったのだ。(小林医院はその後、駒木野病院に代わった)
 入園料無料。

P1300232

 
 昔懐かしい日本家屋と、高尾山を借景にした枯山水や露地、池泉回遊式の落ち着いた風情の庭園である。
「裏高尾にこんないい所があったのか。しかし、医者ってやっぱり儲かるんだなあ~」
 いまは池の回りの木々も裸で、花もないが、初春から晩秋まで色彩の美しさが楽しめそうな庭である。家の中も上がって見学し喫茶を楽しむことができる。日当たりの良い縁側に座ってポワ~ンとするのも良し。庭に面した座敷に座って瞑想するのも良し。
 また、来よう。

P1300233
庭にわずかな彩りを添える水仙とロウバイのつぼみ
 

 しばらく歩くと小仏川と並行する。このあたりは梅の里として有名である。
 蛇滝口のバス停近くに公共の水飲み場がある。清冽な地下水がこんこんと湧き出し、人々が並んで水を汲んでいる。ソルティも喉を潤し、ペットボトルを満たした。これでお茶や珈琲を入れたらさぞ美味しいだろう。
 

P1280217

 
 ソルティが住んでいた頃にはまだ反対運動の最中だった圏央道が、いまや裏高尾の町の上を我が物顔に横切って、高尾山の中腹にどでかい穴を開け、グロテスクな巨大なオブジェのようにあたりを威圧している(ソルティも同居の友人と共に建設反対のデモに参加した)。
 風景が一変してしまった。
 なんとも悲しい結末である(悲しいだけで済めばいいのだが・・・)

P1280219

P1280220

P1280221

 
 蛇滝口の二つ先の裏高尾バス停そばに、自家焙煎のコーヒー店「ふじだな」がある。
 とても美味しい珈琲とケーキを提供してくれる山小屋風の落ち着ける店である。美味しさの秘密は、豆自体にも挽き方や淹れ方にもあるのだろうが、私見では「水が美味しい!」のが一番ではないか。もしかしたら、蛇滝口バス停近くの湧き水?
 店内ではアーティストの写真やイラストなどの展示をしている。
 別の日に出かけたのだが、この店でつい先日まで、別記事でコメントをいただいたつくしさんの「つくし紙絵展」をやっていた。和紙と水彩を使って高尾の植物を表現した作品であった。つくしさんのホームページで紹介されているイラスト群(注文を受けて描いたものが多いと思うが)に見るような、カラフルでポップなもの、艶やかで幻想的なもの、人工的でキッチュなものを想像していたので、それらとはまったく違った枯淡な自然の表情に、つくしさんの幅広い才能と素を感じた。
 

P1280222

P1280223

 
 さて、水行道場入口で左折し小仏川を渡ると、神域に入ったことが分かるほどの神聖な‘気’に包まれた。左上半身、左肩から左胸と左腕全体が引き攣るように痛み出した。浄化が起こっているらしい。しばらく受験勉強一辺倒で山歩きできなかったためだろう。10分ほどで痛みは消失し、体が軽くなった。
 心身はどうやらこれを望んでいたらしい。
 

P1300239


P1300242


P1300244

 
 水行道場は人の姿もなく、森閑とした静けさ。落ちる水が冷たそうだ。
 修行を見守る3体のお地蔵さんが妙にイケメン風なのがおかしい。
 ここから登山路に取り付く。
 

P1300243


P1300245

 
 蛇滝ルートは所要時間自体は短い。あっという間にケーブルカー山頂駅のある霞台に着いてしまう。蛇滝入口からは40分くらい。疲れもない。ここまで出会ったのは下りてくる3名だけであった。
 今年初めての薬王院でお参りして、おみくじを引いて(吉だった)、そのまま山頂に向かう。
 
 山頂は思いがけない人混みであった。
 1月下旬の平日でこれだけ人が出ているとは!
 みんな都会に疲れているのね。
 富士山は見えなかったが、武蔵方面の山並みが鮮やかであった
 
P1300249

P1300248

P1300251

 
 下山はかって知ったる6号路。
 途中のベンチで30分の瞑想をする。
 京王高尾駅横の極楽湯に浸かる。
 風呂上り、受験のための一ヶ月の禁酒を解いて生ビールにありつく。食堂の座敷の壁に寄りかかり、足を伸ばして、麦芽酵母が体のすみずみまで浸透するのに身をまかせていたら、全身の力がふうっと抜け、頭の芯が紐が解けるように緩んだ。
 

P1300255

 
 やっと試験が終わった・・・・