日時 2017年4月3日(日)
天気 曇り時々晴れ
行程 JR外房線上り
15:51 安房鴨川駅発
16:15 鵜原駅着
     鵜原理想郷ハイキング
18:08 鵜原駅発
19:50 千葉駅着

 『鵜原理想郷』は、太平洋の荒波に浸食された、典型的なリアス式海岸です。深い入江を覆うように木々や海岸性の植物が、紺碧の海に突き出た岬の先端まで茂り合っています。その複雑な自然造形に惹かれ、古くから多くの文人墨客などが訪れ、数々の作品を残したほど美しく優れた自然景観をもっています。特に与謝野晶子は、昭和11年4月~5月に友人画伯らと当地に滞在し、76首の歌を詠んでいるほどです。
 大正初期にここを別荘地とする計画があり、「理想郷」と呼ばれるようになった。静かな入り江の彼方に青い海が広がり、散策するには格好の景勝地です。(勝浦市公式ホームページより抜粋)

 文化遺産(神野寺)の次には房総の自然を味わいたいと思って、ここに目星をつけた。
 もちろん、行くのははじめて。三島由紀夫の短編小説『岬にての物語』のモデルとなったらしいのだが、未読である。
 鵜原(無人)駅で降りて、車道を右に少し行くと鵜原館の看板とトンネルが現れる。二つトンネルを抜けて右折すると、理想郷のマップが立っている駐車場に着く。
 

神野寺&鵜原理想郷 055


神野寺&鵜原理想郷 002


 ここからまた狭いトンネルをいくつも抜けて、山道に入る。わくわくさせるアプローチだ。
 

神野寺&鵜原理想郷 005


神野寺&鵜原理想郷 013

 
 じょじょに高度を上げると、なるほど三島好みのひっそりと神秘的な入り江が、そして目の覚めるようなブルーを満々と湛えた大海原が雄大な姿を現す。
 圧倒的な美景と、おのれが無と消え入りそうな大自然の迫力に、言葉を失う。
 こんな素晴らしいところがあったとは!
 千葉県、あなどるべからず。
 房総、奥が深い!
 

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神野寺&鵜原理想郷 029


神野寺&鵜原理想郷 044


神野寺&鵜原理想郷 037
釣りキチの根性に驚嘆。怖くないのか!


神野寺&鵜原理想郷 046
ジャイアント・マーブルケーキ


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黄昏の丘より鵜原海岸を望む

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神野寺&鵜原理想郷 050
岬の突端にある大杉神社。鯨の頭蓋骨が祀られているそうな。
鳥居の上あたりに何か光るものが・・・。

 
 岬の突端をぐるりと回って崖を降りると、懐かしい日本の浜辺が現れる。一瞬タイムスリップしたような感覚に襲われる。
 白い鳥居が立つ美しい砂浜は、「日本の渚・百選」に選ばれた鵜原海岸。夕刻の浜辺は、なるほど神が宿っているかのような静かさと荘厳さに包まれていた。

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神野寺&鵜原理想郷 053

神野寺&鵜原理想郷 054

 
 海岸沿いの遊歩道で、地元の人らしき小父さんに鵜原駅に行く道を尋ねた。
 それがきっかけとなって、会話が始まった。
 小父さんは現在73歳。愛媛県宇和島生まれ。千葉県勝浦にある国際武道大学というところでフランスの政治・外交を教えていた。定年後は、都内に住む家族と離れて、この鵜原に一人暮らししながら、本を書いたり、地域活動したりしている。散歩の途中だったらしい。
 とめどなくあふれる言葉と熱意にほだされて、いつの間にか、海岸のすぐ近くにある小父さんの蟄居まで案内された。
「ちょっと、ここで待ってて」
 家に入った小父さん。
 古い平屋の一軒立てで、せいぜい2DKといったところか。庭は結構広いが、雑草が生い茂るにまかせてある。テラスには貝殻だのなんだかよく分からないガラクタだのが山と積まれている。ゴミ屋敷と言うほど末期的ではないけれど、一人暮らしの男性高齢者の典型的な暮らしぶりを見る思いがする。
 小父さんは本を二冊持って家から出てきた。
「これがわたしが書いた本。二冊で千円でいいよ。」
 一冊は『東日本大震災後の新しい人間の生き方と魂の絆』、もう一冊は『人間の真の生き方と武道、スポーツの活用 2020年、東京オリンピックとパラリンピックを目指して』とある。どちらも新品。
 小父さんはその解説を始めだした。

水口氏の本 002

 
 熱い人である。長らく象牙の塔にいた人にありがちな、世間ずれしていない純粋さを感じる。出会ったばかりの他人に自ら書いた本をためらいなく売りつける行為は、普通なら厚かましさや倨傲を感じさせるものだが、まったく嫌な気分にならない。それはおそらく、この人には、自分を偉く見せようとか、相手をコントロールしようとか、ましてや小銭を稼ごうとかいう卑しい動機はまったくなく、本当に日本の行く末を案じていて、本当に一期一会の心で生きているからだろう。「これも縁だから」と何度も口にしていた。
 そもそもソルティがこの人に道を聞こうと思ったのも、一見して純朴なものを感じたからであった。その純朴さを海を見ながら育った地元民らしさと解釈していたのだが、元大学教授でフランス政治学専門と聞いて、ギャップに驚いた。
 面白い人だなあと思ったけれど、列車の時刻が気になる。18:08を逃すと、次は19:16まで上り列車はない。
「ありがとうございます。読ませてもらいます」
と千円を差し出した。
 本を出しているのだから、名前を出しても問題あるまい。
 小父さんの名は水口修成といった。
 水口氏には『坂村真民先生から学んだ命と絆、そして生きる力』という著作もある。愛媛県で国語教師をしていた詩人・坂村真民は、水口氏の恩師なのだという。
 恥ずかしながらソルティは坂村真民を読んだことがなかった。
 これも縁だ。読んでみよう。

 鵜原駅に着くと夕闇が迫っている。
 千葉駅までの長い長い上りを、買ったばかりの水口氏の本を読みながら過ごした。
 

神野寺&鵜原理想郷 057


 神野寺も九十九谷展望台も鵜原理想郷も面白かったが、最後は水口氏に持っていかれた。
 なんだか不思議な旅であった。