この週末(4/15,16)は木下惠介とチャイコフスキーを鑑賞した。とくに意識的に選んだわけではないのだが、両者ともゲイである。
 
1957年松竹
原作 木下惠介
音楽 木下忠司
上映時間 160分

 日本の僻地に点在する灯台を転々としながら厳しい駐在生活を送る灯台守夫婦(佐田啓二、高峰秀子)の戦前から戦後に至る25年間を描いたもの。
 四季折々の日本各地の美しい海岸風景の中に、喜怒哀楽こもごもの人間ドラマ、夫婦愛、家族愛が丁寧に描かれ、最後は感動のクライマックスで終わる。160分の長さを感じさせないストーリーテリングはさすがというほかない。大ヒットした主題歌を含む音楽も見事に作品に溶け合っている。
 
 作品自体はなんの文句もつけようもない傑作であるけれど、観ていて気になってしまうことがある。それはこれを撮った木下監督の心情のほどである。
 木下惠介がゲイであったことはまず疑いなかろう。結婚はしたが相手の女性とは入籍せず、新婚旅行で見切りをつけ夫婦生活もないままに別れたという。その後、独身を貫いている。養子は取ったが実子はなかった。日本初のゲイ映画と言われる『惜春鳥』(1959)を筆頭に、木下作品には男性同士の親密な関係を描いたものが少なくない。
 むろん、同性愛そのものずばりを描くことなど当時考えられなかった。‘そのものずばり’と言えるのは、おそらくピーター主演の『薔薇の葬列』(1969年、松本俊夫監督)が本邦初だと思うが、これは非商業主義的な芸術作品を専門とするATG製作・配給であった。木下惠介は最後まで‘そのものずばり’を撮ることはなかったし、松竹もそれを望まなかったろう。木下惠介と言えば、やはり夫婦や親子の機微を克明に描く家族ドラマの名手というイメージが強い。ソルティが子供の頃にTBS系列で放映されていた「木下惠介アワー」がその印象を強めている。
 
 天才肌のプロフェッショナルとして、大衆が望み喜ぶもの(=客が呼べるもの、視聴率が良いもの)を作るのは木下監督にとってお茶の子さいさいであったろう。男と女の恋愛や葛藤や別れ、夫と妻の信頼や裏切りや破綻、親と子の愛情や憎しみや衝突。こうしたものを木下惠介は、時にシリアスに、時にユーモラスに、時に詩情豊かに、時に皮肉たっぷりに、時に激しく、時にしみじみと、包丁さばきも鮮やかに描き出している。大衆的な人気もうべなるかな。
 しかるに、これらは言わば「マジョリティの世界=ヘテロの世界」の出来事である。ゲイであり子供を作らなかった木下惠介にとってみれば、男女の恋愛も親子の愛憎も他人事だったのではなかろうか。‘外野に置かれている’感覚を伴いながら、これらの作品を撮っていたのではなかろうか。
 むろん、外野にいたからこそ内野の様子がよく見えたのであろうし、感情的に巻き込まれることなく冷静な視点を保ちながら鋭い人間観察ができたのであろう。加えて、ゲイセクシュアリティの利点を生かし、男の立場と女の立場の両方を理解し、その相克をリアルに描き出すことができたのかもしれない。
 一方で、常に外野から他人事(=ヘテロ)の人生ばかりを描いていて、ある種の欲求不満にはならなかったのであろうか? 芸術家にとって何よりの創作モチベーションであるはずの自己表現欲求を、木下監督はどう始末していたのだろう? 単に、自らの作品中に‘熱き友情’と解されうる男同士の絆を添え物的に挿入することで満足していたのだろうか?
 気になるところである。
 
 とりわけ、この『喜びも悲しみも幾年月』は、長年連れ添った夫婦の絆がテーマである。最も木下惠介自身からは遠い題材であると言わざるをえない。それは、彼が望んでも得られないものであったし、自らの実体験をもとに深い理解と共感をもって描き出せるテーマではなかったはずである。(原作と脚本も木下監督の手になる)
 いったい何故こんな芸当が可能だったのだろう?
 彼が心から欲しいと願っていたもの、理想として胸に秘めていたものをリアリティもって創造したからこその離れ業だったのだろうか。
 それとも、自らの両親の姿が念頭にあったのか。 
 
 ウィキによると、日本においては長崎県五島市の女島灯台が最後の有人灯台であったが、2006年(平成18年)12月5日に無人化され、国内の灯台守は消滅したそうである。
 


評価:B-

A+ ・・・・めったにない傑作。映画好きで良かった。 
「東京物語」「2001年宇宙の旅」「馬鹿宣言」「近松物語」

A- ・・・・傑作。できれば劇場で見たい。映画好きなら絶対見ておくべき。
「風と共に去りぬ」「未来世紀ブラジル」「シャイニング」「未知との遭遇」「父、帰る」「ベニスに死す」「フィールド・オブ・ドリームス」「ザ・セル」「スティング」「フライング・ハイ」「嵐を呼ぶ モーレツ!オトナ帝国の逆襲」「フィアレス」   

B+ ・・・・良かった~。面白かった~。人に勧めたい。
「アザーズ」「ポルターガイスト」「コンタクト」「ギャラクシークエスト」「白いカラス」「アメリカン・ビューティー」「オープン・ユア・アイズ」

B- ・・・・純粋に楽しめる。悪くは無い。
「グラディエーター」「ハムナプトラ」「マトリックス」「アウトブレイク」「アイデンティティ」「CUBU」「ボーイズ・ドント・クライ」

C+ ・・・・退屈しのぎにちょうどよい。(間違って再度借りなきゃ良いが・・・)
「アルマゲドン」「ニューシネマパラダイス」「アナコンダ」 

C- ・・・・もうちょっとなんとかすれば良いのになあ。不満が残る。
「お葬式」「プラトーン」

D+ ・・・・駄作。ゴミ。見なきゃ良かった。
「レオン」「パッション」「マディソン郡の橋」「サイン」

D- ・・・・見たのは一生の不覚。金返せ~!!