神奈川県上野原市にある不老山は甲東不老山(こうとうふろうさん)とも呼ばれ、縁起のよいその名から新年の山として登る人も多い。が、一般のハイカーにはほとんど知られていないマイナーマウンテンである。
 登山客で満載の朝の中央線下り列車に乗り込み、上野原駅から発車する登山客で満載の他系統のバスを見送り、不老下行きバスに乗る。途中から終点まで乗客は自分一人だけだった。
 
 
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不老下バス停 
 
●歩いた日  5月21日(日)
●天気    快晴(最高気温30度)
●タイムスケジュール
08:38 JR中央線上野原駅「不老下」行バス乗車(富士急山梨バス)
09:03 「不老下」バス停着
09:10   歩行開始
09:40 金比羅大権現
      休憩(20分)
10:40 不老山頂上
      昼食&瞑想(80分)
12:40 高指山頂上
      休憩(10分)
13:30 和見峠
      昼寝(20分)
14:20 「桑久保入口」バス停着
      歩行終了
14:25 上野原駅行バス乗車
14:50 上野原駅着
●最大標高差 520m
●所要時間  5時間10分(歩行3時間+休憩2時間10分)

 不老山がマイナーなのは市販のガイドブックやムック等で紹介されることがほとんどないからである。中央線沿いには高尾陣馬・扇・高川・滝子・大菩薩・乾徳はじめアクセスがよく富士山の見える山がごまんとある。同じ上野原市内に限っても、長い尾根を擁し堂々たる居ずまいの権現山・パワースポットとして人気上昇中の生藤山・ヒカゲツツジの名所である坪山・低山ながら見事な眺望をもち家族で楽しめる八重山など、ハイカーの登頂意欲をそそる魅力的な山が妍を競っている。そんななかで、不老山は自己アピールもせずに静かに控えていて、人の少ない静かで孤独な山歩きを楽しみたいソルティのような‘隠者まがい’の訪れを待っているのである。
 実のところ、不老山は上記に上げた山々と伍してまったく遜色ない素晴らしい山であった!
 控えめな本人(本山?)に変わって、山登り歴20年のソルティがPRしよう。
 

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不老下バス停近くから見る不老山(手前)と高指山

魅力その1 眺望が素晴らしい!
 登りはじめてすぐに左手前方に富士山がせり出してくる。いまの時期なら解けかかった雪の帽子(5合目より上)が青空に白く輝いている。バス停からいきなりのジグザグ登りは結構しんどいのは事実であるが、この爽快な眺望が歩みに力を与えてくれる。
 標高500mあたりにある金比羅大権現は絶好の展望台である。ここでリュックを下ろし、お社と富士山に向かって二礼二拍一礼し、のどの渇きを潤し、清らかな空気を胸一杯に吸い込めば、「来て良かった~」と思うこと間違いなし。

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金比羅大権現

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 山頂からの景色は押して知るべし。
 視界左手(東)の高尾・城山・石老に囲まれた青鈍色に輝く相模湖からはじまって、中央沿線の山々(高柄・矢平・倉岳・高畑・九鬼)、道志の山々(秋山二十六夜・朝日・今倉・御正体・杓子・鹿留)、そしてそれらの背景に丹沢の山々(焼山・大山・丹沢・蛭ヶ岳・大室・加入道・倉岳)が壁のようにそそり立ち、視界右端(北西)ぎりぎりの富士山まで、200度近いパノラマを成している。富士山を指揮者とする山岳団員たちのオーケストラが聴こえてくる。
 眼下に広がるは上野原市街、中央自動車道、談合坂SA、桂川、初夏の里山。
 アカマツや広葉樹に囲まれた気持ちのいい山頂のベンチで、爽やかな風に吹かれながら40分間瞑想し、おにぎりを食べた。

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魅力その2 植生が豊かで楽しい!
 登りは杉やヒノキの九十九折が続く。高い梢が直射日光を遮ってくれるので真夏でも大丈夫。金比羅大権現を過ぎる頃から、桜やモミジの広葉樹林が姿を現す。杉木立のなかの緑がミラーボールのように輝いている。

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マムシグサ(サトイモ科テンナンショウ属)
 秋になると雌株に赤い実がつく ↓

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 不老山頂上から高指山に続く尾根歩きこそは、ハイキングのピークであろう。進行方向の右側はモミジ・ナラ・ソロ(アカシデ)・桜などの広葉樹林、左側は杉・ヒノキ・松などの針葉樹林、面白いほど見事に分断している。それがしばらくすると入り混じって雑木林になる。ところどころにアカマツの大木が、周囲の広葉樹林に慕われるかのように、一際高く突き抜けて、ボス風を吹かしている。
 まさにパワースポット尾根。
 思考がまったく入り込まずに木々と交感した。
 

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魅力その3 道が分かりやすく安心! 
 これまで不老山に挑戦しなかったのは、ソルティが持っている2002年発行の某ガイドブックに【経験者向き・・・高指山から先は道標がまったくないので地形図必携】と書かれていたことによる。方向音痴で地形図が読めないソルティにしてみれば、それは‘イコール遭難’の意である。そもそもハイカーが少ない山なので、先行く人の背中を頼りにすることもできないし、道形がしっかりついていない可能性も高い。迷ったら最後、そのまま文字通り‘不老’の身空で亡くなるやもしれない。
 今回、あらかじめ同好の士が作成したホームページを探し、不老山の画像付き情報をプリントアウトしておいた。単独行にはそれなりの準備と覚悟が要る。
 実際には、ここ数年の山登りブームのためか、新しい道標が道々に立っていて、道形もしっかりついていた。分岐のところでは適切でない道のほうは倒木で通せんぼうされていたし、道標もなく道形もおぼろげな箇所は数メートル置きに木の枝に赤いリボンが結わえてあって、そこに正しい道があることを教えてくれる。まったく迷うことがなかった。
 わがままを言えば2箇所だけ標示のほしいところがあった。一つは、高指山の山頂に「桑久保バス停」方面を示す標識がほしい。それから、和見峠から桑久保バス停に降りる林道の途中で左手の森に入る小道がつけられている。ここに「桑久保バス停近道」の標識がほしい。この道を行けば時間を大幅に短縮できるのだから。
 ともあれ、道標や山道の整備をしてくれた人びとには感謝するほかない。
 

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看板の背後から「桑久保バス停」方面へ下っていく。


魅力その4 
静かで荒らされていない。
 不老下バス停で降りたのが自分ひとりだけだったことから予期できたが、山中にいた5時間まったく人に会わなかった。熊にも猿にも会わなかった。孤独を楽しみ、静寂を楽しみ、静寂を引き立てる鳥の声・虫の声・風の音・遠い車の音を楽しみ、瞑想を楽しんだ。昼寝をした和見峠ではコノハズクが「仏法僧」と鳴くのを聞いた。
 山頂にも山中にもゴミ一つなく、神社とベンチと標示板以外の余計な人工物もなかった。

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気持ちよい風が吹く和見峠

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桑久保入口バス停(ソルティのガイドブックでは「甲東小学校前」となっている)


 ガイドブックにある標準歩行時間は3時間20分。昼食や休憩を入れても4時間あれば十分登って降りてこられる。今回、バスの時刻の関係で5時間半を山で過ごしたわけであるが、風景を楽しみながらゆっくり歩いて、瞑想もたっぷりできた。
 
 帰りは藤野駅で下車し、送迎バスで「ふじの温泉 東尾垂(ひがしおたる)の湯」に向かった。
 周囲の山を見ながら100%かけ流しの露天風呂につかれば、なべて世はこともなし。
 

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 心のオアシス、マイナーマウンテン。
 しまった! PRしてしまった!

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JR中央線・藤野駅跨線橋から見た風景(御前山と扇山)