1949年松竹
原作 鶴屋南北「東海道四谷怪談」
音楽 木下忠司
撮影 楠田浩之
上映時間 158分
キャスト
- 伊右衛門 : 上原謙
- 伊右衛門の妻・お岩/お岩の妹・お袖 : 田中絹代(二役)
- 直助 : 滝沢修
- 小仏小平 : 佐田啓二
- お梅 : 山根寿子
- お梅の乳母・お槇 : 杉村春子
- お袖の夫・与茂七 : 宇野重吉
四谷怪談と言えば数ある怖い話の最たるものであるが、この映画は全然怖くない。お岩の幽霊は実際に現れる――この言い方は矛盾しているが――のではなく、お岩を殺めた夫・伊右衛門の罪悪感が見せる幻覚として表現される。そのことが象徴しているように、物語の主軸は、直助の甘言に乗って欲に負け罪を犯してしまう伊右衛門の心理と末路を描くところにある。欲に翻弄される人間の愚かさをテーマに据えたあたりが‘新釈’なのだろう。事実、この作品は怪談というよりもシェイクスピアばりの人間ドラマである。
とにもかくにも役者の魅力が尋常でない。
主役の伊右衛門演じる上原謙は、これが時代劇初出演だったらしい。撮影当時40歳、水もしたたる色男ぶりである。女房役をつとめる田中絹代がブスに見えるほどの美貌の輝きは、ひとえに木下恵介のイケメン愛ゆえであろう。欲と罪悪感に揺れる気の小さい侍を見事に演じて、たんなる美男スターだけではないことを立証する。
お岩およびお岩の妹・お袖を演じる田中絹代は言うまでもない芸達者。一人二役を見事に演じ分けている。お岩はおそらくスッピンだと思うが、やっぱり美人女優とは言えない。素材の凡さを演技でカバーしているところは同じ松竹で活躍する田中裕子に引き継がれたか。
ブスと言えば杉村春子である。口八丁手八丁の直助にコマされて、伊右衛門を自らの主人であるお梅とくっつけるお側仕いの女・お槇を、いつもながらの上手さと庶民臭さで演じている。あろうことか直助に言い寄られて「おんな」を見せるシーンがあるものだから「怖い、怖い」。作中、一番怪談じみているのは杉村春子の媚態である。
どこかで聴いた名前と思ったら、吉村公三郎監督の屈指の名作『安城家の舞踏会』(1947年)で安城家当主を演じていた人である。美貌の令嬢・原節子の父親役である。元華族の役だけあって、気品とインテリジェンスあるプライド高い当主を見事に演じていた。
『新釈 四谷怪談』での滝沢のキャラクターやイメージは、『安城家』とは180度異なる。
『新釈 四谷怪談』での滝沢のキャラクターやイメージは、『安城家』とは180度異なる。
直助は根っからの悪人である。人をだますことも利用することも盗みを働くことも命を奪うことも‘へ’とも思わない。悪事を働くことがそのまま適職にして天職となっている男である。目的のためには手段を選ばない。直助の唆しによって小平(=佐田啓二)は人妻お岩を手篭めにしようとし、直助の誘惑に負けて伊右衛門は女房殺しを行い、直助の口車に乗ってお槇は自らが仕える一文字家の滅亡に手を貸してしまう。直助はこの悲劇の種を蒔き、水を注いで育て、花を咲かせる狂言回しのような役を果たす。その意味で、シェイクスピア『オセロ』に登場するイアーゴを思わせる。(新劇の役者である滝沢はもちろん舞台で何度もイアーゴを演じているだろう)
直助を演じる滝沢の表情、目つき、動作、姿勢、口調、声色、たたずまい、オーラー。どれもが完璧に計算し尽くされた上にリアリティにも不足なく、全体として一人の人間、一つのキャラクターとして息をし命が吹き込まれている。「この役者は悪役専門か」と思ってしまうほど、役者の地金めいている。
舞台での演技は消えてしまう(消えてしまった)ので、この作品の直助こそが滝沢修という役者の歴史的名演と言っていいだろう。この演技が記録されているだけでもこの映画には十分な価値があり、この演技を観るだけでもこの作品は十二分の価値がある。田中絹代、杉村春子を食うとは、いやはや凄い役者がいたものだ。
舞台での演技は消えてしまう(消えてしまった)ので、この作品の直助こそが滝沢修という役者の歴史的名演と言っていいだろう。この演技が記録されているだけでもこの映画には十分な価値があり、この演技を観るだけでもこの作品は十二分の価値がある。田中絹代、杉村春子を食うとは、いやはや凄い役者がいたものだ。
映画の冒頭の牢破りのシーン、クライマックスの炎の中での立ち回りシーン。木下恵介がアクション映画の監督としても勝れていることを十分感じさせる。木下が関心を抱いていたのは、見た目の派手さやカッコよさや観客への訴求力より、人間心理の深みや陰影にこそあったのだとつくづく思う。大人の監督なのである。
評価:B+
A+ ・・・・めったにない傑作。映画好きで良かった。
「東京物語」「2001年宇宙の旅」「馬鹿宣言」「近松物語」
A- ・・・・傑作。できれば劇場で見たい。映画好きなら絶対見ておくべき。
「風と共に去りぬ」「未来世紀ブラジル」「シャイニング」「未知との遭遇」「父、帰る」「ベニスに死す」「フィールド・オブ・ドリームス」「ザ・セル」「スティング」「フライング・ハイ」「嵐を呼ぶ モーレツ!オトナ帝国の逆襲」「フィアレス」
B+ ・・・・良かった~。面白かった~。人に勧めたい。
「アザーズ」「ポルターガイスト」「コンタクト」「ギャラクシークエスト」「白いカラス」「アメリカン・ビューティー」「オープン・ユア・アイズ」
B- ・・・・純粋に楽しめる。悪くは無い。
「グラディエーター」「ハムナプトラ」「マトリックス」「アウトブレイク」「アイデンティティ」「CUBU」「ボーイズ・ドント・クライ」
C+ ・・・・退屈しのぎにちょうどよい。(間違って再度借りなきゃ良いが・・・)
「アルマゲドン」「ニューシネマパラダイス」「アナコンダ」
C- ・・・・もうちょっとなんとかすれば良いのになあ。不満が残る。
「お葬式」「プラトーン」
D+ ・・・・駄作。ゴミ。見なきゃ良かった。
「レオン」「パッション」「マディソン郡の橋」「サイン」
D- ・・・・見たのは一生の不覚。金返せ~!!
A- ・・・・傑作。できれば劇場で見たい。映画好きなら絶対見ておくべき。
「風と共に去りぬ」「未来世紀ブラジル」「シャイニング」「未知との遭遇」「父、帰る」「ベニスに死す」「フィールド・オブ・ドリームス」「ザ・セル」「スティング」「フライング・ハイ」「嵐を呼ぶ モーレツ!オトナ帝国の逆襲」「フィアレス」
B+ ・・・・良かった~。面白かった~。人に勧めたい。
「アザーズ」「ポルターガイスト」「コンタクト」「ギャラクシークエスト」「白いカラス」「アメリカン・ビューティー」「オープン・ユア・アイズ」
B- ・・・・純粋に楽しめる。悪くは無い。
「グラディエーター」「ハムナプトラ」「マトリックス」「アウトブレイク」「アイデンティティ」「CUBU」「ボーイズ・ドント・クライ」
C+ ・・・・退屈しのぎにちょうどよい。(間違って再度借りなきゃ良いが・・・)
「アルマゲドン」「ニューシネマパラダイス」「アナコンダ」
C- ・・・・もうちょっとなんとかすれば良いのになあ。不満が残る。
「お葬式」「プラトーン」
D+ ・・・・駄作。ゴミ。見なきゃ良かった。
「レオン」「パッション」「マディソン郡の橋」「サイン」
D- ・・・・見たのは一生の不覚。金返せ~!!