1953年イタリア、アメリカ制作

監督 クレメンテ・フラカッシ
撮影 ピエロ・ポルタルピ
美術 フラヴィオ・モゲリーニ
衣装 マリア・デ・マテイス
出演
  • アイーダ    : ソフィア・ローレン (歌:レナータ・テバルティ)
  • アムネリス : ロイス・マクスウェル (歌:エベ・スティニャーニ)
  • ラダメス     : ルチアーノ・デッラ・マッラ (歌:ジュゼッペ・カンポラ)
  • アモナスロ : アフロ・ポーリ (歌:ジーノ・ベーキ)
  • ランフィス   : アントニオ・カッシネッリ (歌:ジューリオ・ネーリ)
上映時間 92分

 世界文化社の『DVD決定盤オペラ名作鑑賞』シリーズ第1巻として、ルチアーノ・パヴァロッティ、マリア・キアーラ、ゲーナ・ディミトローヴァ出演1985年ミラノ・スカラ座における『アイーダ』ライブ映像と一緒にカップリングされている。いわゆる、オペラ映画である。

 最大の見所は、戦後イタリアの生んだ世界的大女優であるソフィア・ローレンがそのなまめかしいオリーブ肌を黒く塗ってエチオピア王女アイーダを演じているところにある。
 芳紀18歳。個々のパーツのくっきりした派手な顔立ちがもたらすエキゾチズムと、すでに成熟したダイナマイトボディが放つエロチシズムとが一体になった芳醇な魅力に加えて、そののち『ひまわり』(1970)のごとく開花したダイナミックで感情表現豊かな演技の萌芽も見受けられる。このアイーダなら、ラダメスが祖国エジプトを裏切るのも無理はない。橋が落ちるのも無理はない(by『カサンドラ・クロス』)。
 ほかの主要役者陣も容姿といい雰囲気といい演技といい、それぞれの役柄にぴったり。映画ならではのリアルで豪華絢爛な古代エジプト王宮セットや、馬を走らせた砂漠での戦闘シーン(野外ロケ)など、充実した画面の連続で、まさに理想的な『アイーダ』の世界が現出している。
 とりわけ、随所に盛り込まれた王宮広間での集団舞踏シーンは、イタリア人ならではの明るくメリハリの利いた色彩感覚とキレキレのテンポ感と独創的演出とで、眼福といって良いレベルに達している。こういうのを見ると、イタリア人はやっぱり‘ルネサンス人’の末裔だなと感じてしまう。ただし、踊り手が見事に黒人ばかりなのが‘ちびくろサンボ’的人種差別感を映し出し、現代ならこうは撮らない(撮れない)だろうと思われる。

 舞台なら2時間半はかかる上演時間を92分に圧縮するのだから、当然音楽が犠牲になる。悪く言えば、ぶつ切りである。たとえば、舞台なら最大のクライマックスになる第2幕の幕切れの大合唱が見事に断捨離されている。アイーダの歌う屈指の名アリア『わが故郷』も1番で終わっている。音楽よりも筋のわかりやすさやテンポの良さを優先する方針は、いっそ気持ちがいいほど。「映画はクラシック音楽とは違う。あくまで大衆娯楽なのだ」と言わんばかりのイタリア映画人のプライドを感じさせる。

 とはいうものの、音楽の魅力もしっかり味わえる。
 歌が圧倒的に素晴らしいのである。
 アイーダを歌うレナータ・テバルティの完璧な声と歌唱はソフィア・ローレンをよりいっそう美しく見せる。恋のライバルにして尊大なエジプト王女アムネリスを歌うは、往年の名メゾ・ソプラノたるエベ・ステニャーニ。アムネリスを構成する四大感情――嫉妬・怒り・勝ち誇り・苦悩――を肌理細やかに表現し、アムネリスを単なる悪役キャラ、憎まれ役に終わらせない。苦悩を通しての人間的成長まで感じさせる名唱である。他の歌い手も及第点を楽々突破。50年代のイタリアオペラ界がいかに凄かったかをまざまざと示している。

 これまでに作られたオペラ映画の中で最高の部類に入れても間違いあるまい。



評価:B+


A+ ・・・・めったにない傑作。映画好きで良かった。 
「東京物語」「2001年宇宙の旅」「馬鹿宣言」「近松物語」

A- ・・・・傑作。できれば劇場で見たい。映画好きなら絶対見ておくべき。
「風と共に去りぬ」「未来世紀ブラジル」「シャイニング」「未知との遭遇」「父、帰る」「ベニスに死す」「フィールド・オブ・ドリームス」「ザ・セル」「スティング」「フライング・ハイ」「嵐を呼ぶ モーレツ!オトナ帝国の逆襲」「フィアレス」   

B+ ・・・・良かった~。面白かった~。人に勧めたい。
「アザーズ」「ポルターガイスト」「コンタクト」「ギャラクシークエスト」「白いカラス」「アメリカン・ビューティー」「オープン・ユア・アイズ」

B- ・・・・純粋に楽しめる。悪くは無い。
「グラディエーター」「ハムナプトラ」「マトリックス」「アウトブレイク」「アイデンティティ」「CUBU」「ボーイズ・ドント・クライ」

C+ ・・・・退屈しのぎにちょうどよい。(間違って再度借りなきゃ良いが・・・)
「アルマゲドン」「ニューシネマパラダイス」「アナコンダ」 

C- ・・・・もうちょっとなんとかすれば良いのになあ。不満が残る。
「お葬式」「プラトーン」

D+ ・・・・駄作。ゴミ。見なきゃ良かった。
「レオン」「パッション」「マディソン郡の橋」「サイン」

D- ・・・・見たのは一生の不覚。金返せ~!!