2017年朝日出版社発行

HONNKOWA 008


 実はソルティはHONKOWAファンである。
 と言ってもHONKOWAを知らない人も多いだろう。編集サイドの謳い文句によれば、「漫画家と読者の恐怖の実話心霊体験コミック誌!」、あるいは「不思議や神秘、スピリチュアル、 心霊をテーマにした女性向けリアル・コミック誌」である。本体はB5版の月刊誌なのだが、人気のあったバックナンバー作品を中心に再編集し、「ASスペシャル」としてコロコロコミックと同じB6版でコンビニなどで発売されてもいる。

 恐怖の心霊体験を集めた夏の夜にぴったりのホラーコミックと思われるかもしれないが、昨今の風潮はストーリーや絵柄による怖さそのものを強調するよりも、むしろ除霊や浄霊に傾いている。
 つまり、マスメディアにおけるスター霊能者が冝保愛子(80~90年代)から江原啓之(2000年以降)に交替したのに沿うように、心霊コミック業界もまた、読者を「ただ怖がらせる」ホラー&オカルト色は勢いを失って、除霊や浄霊による癒しやスピリチュアル系へと様変わりしているのである。(女性向け雑誌は特に)
 HONKOWA一番の人気作品にして横綱的存在が、実在するスーパー霊能者・寺尾玲子が読者からの霊障相談に応じて出張し除霊や浄霊を行う、ウルトラマンさながらの活躍を描いた『魔百合の恐怖報告シリーズ』(作画は寺尾の友人でもある山本まゆり)であるのは、この間の事情をよく表している。霊的現象の裏に隠された様々な因縁(たとえば土地柄、先祖の非道な行い、宗教家による呪詛、過去にその家であった殺人事件、神仏への不敬なふるまい、相談者の個人的トラウマe.t.c.)を読み解き、安倍晴明もかくやと思われる驚異の霊能力によって解決に導き、相談者の心の安定を図っていく寺尾玲子は、テレビに出ないという賢い選択のせいもあって、絶大な人気と信頼を勝ち得ている。HONKOWAコミックの表紙(上記掲載)には、毎号山本まゆりの名前と彼女の手による寺尾玲子の肖像が大きく掲載されるのが常である。
 
 寺尾玲子以外にもHONKOWAの生んだ霊能スターがいる。
 寺尾とよくタッグを組んで共に難事件に立ち向かう元気印の雨宮視子(愛称みっちゃん)はひとみ翔の作品で、家庭的でほのぼのした雰囲気が好ましい霊感ママは実の娘である高野美香の作品で活躍中である。当ブログでもたびたび取り上げている永久保貴一の『密教僧・秋月慈童の秘儀 霊験修法曼荼羅』もHONKOWAで掲載されていた。(残念ながら終了してしまった) 永久保はまた稲葉さんという実在の女性霊能者の活躍も描いているが、こちらは『あなたが体験した怖い話』(ぶんか社)である。
 ソルティは元来、「オカルチックなこと、不思議なこと」が好きなのである。(きっかけは小学生の時に級友から借りて読んだ、つのだじろう作『亡霊学級』であった)
 
 さて、癒し系・スピリチュアル系が主流のHONKOWAコミックで、昔ながらの怖さ・不気味さオーラを放っているのが三原千恵利である。

 背筋が凍るほど怖い。

 少女の頃より霊感の強かった三原は、主として自身の身辺で起きた霊的体験を漫画にしている。友人と散歩していて道に迷った途上で起きた怪異、中学生時代にクラブの合宿先で起きた変異、極めて日常的でリアリティあるエピソードの中に不意に‛不思議’が差し挟まれ、そこに三原が意識を向けた途端、次元を超越した異様な展開になっていく。その舞台については、調べればすぐに地名を特定できるくらいの情報が与えられることが多い。
 ストーリーそのものも語り口も怖いのだが、やっぱり一番の要因は絵である。
 少女マンガというよりも劇画調の線のしっかりした、明暗・濃淡のはっきりした、メリハリある絵である。少女マンガ特有のフワフワ感がない。潜在意識を脅かすような不吉な構図にもドキッとさせられる。同じ漫画家で言えば、ささやななえこに近いかもしれない。
 何より強烈なのが、クライマックスともいえる幽霊(とおぼしき人物)登場シーンの鬼気迫る画力。掲載ページに“邪気”が充填されてGIGA上がっているんじゃないかと思うほどだ。


HONNKOWA 006
ASスペシャルHONKOWA2017年11月号掲載「霊的道案内」より抜粋

 しばらくHONKOWA誌上から姿を消していたので、「どうしたんだろう? 霊障で病気でもなったか?」と気になっていたのであるが、今号で復活。新しい作品も書いているようである。

 いま一番怖い漫画家は三原千恵利である。