1976年イタリア、フランス制作
原作 ガブリエーレ・ダヌンツィオ
上映時間 129分

 『家族の肖像』に続くヴィスコンティの遺作である。
 これもまた20代で観たときはよくわからなかった。上流階級の特殊な夫婦関係、西洋の中年達のドロドロした恋愛模様といった内容で、上流階級でも既婚でも西洋人でも中年でもなかった自分には遠い話に思えた。

 中年の色男トゥリオ(=ジャンカルロ・ジャンニーニ)は、美しく従順な妻ジュリアーナ(=ラウラ・アントネッリ)を言いくるめて妻公認のもと、美しく奔放な女性テレーザ(=ジェニファー・オニール)とつき合っている。ところが、心寂しいジュリアーナがふとしたきっかけで知り合った当代の人気作家フィリッポ・ダルボリオ(=マルク・ポレル)と恋に落ちたことを知るや、焼けぼっくいに火がついて、狂ったように妻を愛し始める。
 すでにフィリッポの子を宿していたジュリアーナは、トゥリオと別れて子供を産む決心をする。一方、トゥリオは子供を堕すよう妻に迫る。
 フィリッポが旅先で客死したことを知ったトゥリオは子供を産むことを許すが、むろん生まれた赤ん坊を腕に抱くことすらできない。ジュリアーナが赤ん坊に注ぐ愛情を、亡きフィリッポへの愛と重ね、嫉妬に身もだえる。
 苦悩の果てにトゥリオは、雪の降る晩、家の者がミサに出かけている間に赤ん坊を戸外のテラスに置き去りにする。 
 そして・・・・

 一言で筋をまとめると、「自分勝手な中年男の節操のない恋愛模様と自業自得の末路」ということになろう。そこに主人公トゥリオの独り善がりな哲学風の自己正当化モノローグがしばしば入る。共感できなければ、ただうざったいばかり。
 20代のソルティは共感できなかったので、うざったかった。それでも、貴族の邸宅を舞台とする映像は豪華そのもので、家具や調度や衣装はもとよりちょっとした小道具まで本物の香りが漂い、ヨーロッパの上流階級の贅沢で典雅な生活ぶりに酔わされた。その贅沢は、「贅沢を贅沢と思わない域に達している」贅沢である。これみよがしのところがまったくない。むろん、監督のヴィスコンティが生まれながらの貴族であるがゆえ、彼にとっては「これが自然」「これが茶の間」なのである。
 配役もこれまでのヴィスコンティ映画と違って面白いと思った。
 ジャンカルロ・ジャンニーニは『流されて…』(1974)で女主人をレイプする野性的な使用人の役で一躍有名になった男で、当時のイメージとしては貴族の役柄は180度真逆であった。ラウラ・アントネッリと来た日には、全世界共通の少年の夢想映画『青い体験』(1973)のメイドである。当時、押しも押されぬヨーロッパのセックスシンボルだった。明らかに、ヴィスコンティはこの遺作にエロティックなる生命力を吹き込みたかったのであろう。

 年はとるものである。
 20代の時によくわからなかったこの映画が、今見ると非常にリアルに感じられる。
 ヴィスコンティにしては「静謐な地味な映画」という印象を持っていたが、とんでもない誤解だった。これは、自らの死を目前にしたヴィスコンティが、覚悟を決めた透徹した視点から、「神の非在と罪」について切り込んだ深遠なる意欲作だったのである。

 主人公トゥリオを理解するうえで欠かしていけないのが「無神論者」という点である。
 どのような育ちでそうなったのか作中で語られないが、無神論者のトゥリオは天国や地獄を信じない。この現世がすべてである。(うざったいと思った)モノローグに「この世のことはこの世で」というセリフがあるように、現世至上主義というか現世唯一主義なのである。となると、自ずから刹那主義・快楽至上主義に導かれる。
 道徳観念についても、現世での利害や体面のからむ「社会の法」を犯さないようには心砕いても、「神の法」は斟酌しない。だから、「社会の法」にふれないやり方で浮気や子殺しという罪を犯すトゥリオは、社会的にも神的にも「罪なき人間=イノセント」なのである。
 彼には神という掟、人の行動を律するモラル(良心)がはなからない。そのうえで、自分のしたいことが自由にできるだけのルックスや財産や教養や地位を持っている。結果、きわめて自己中心的な人間ができあがる。
 無神論で、快楽主義で、エゴイストの男。現代風に言うならサイコパスに近いかもしれない。そんな男が最後はどうなるかを描いたのが、この映画なのである。その意味では、きわめて近・現代的な、平成の日本の庶民でも十分に通じるテーマである。

 考えてみると、ヴィスコンティの映画には神なり宗教なりの影が希薄である。『家族の肖像』も『ベニスに死す』も、いやいや、デビュー作の『郵便配達は二度ベルを鳴らす』からしてそうだった。
 神の非在。
 この観点からヴィスコンティを見直してみるのも面白いかもしれない。

 それにしても、やっぱりヴィスコンティは凄いや。



評価:A-

A+ ・・・・めったにない傑作。映画好きで良かった。 
「東京物語」「2001年宇宙の旅」「馬鹿宣言」「近松物語」

A- ・・・・傑作。できれば劇場で見たい。映画好きなら絶対見ておくべき。
「風と共に去りぬ」「未来世紀ブラジル」「シャイニング」「未知との遭遇」「父、帰る」「ベニスに死す」「フィールド・オブ・ドリームス」「ザ・セル」「スティング」「フライング・ハイ」「嵐を呼ぶ モーレツ!オトナ帝国の逆襲」「フィアレス」   

B+ ・・・・良かった~。面白かった~。人に勧めたい。
「アザーズ」「ポルターガイスト」「コンタクト」「ギャラクシークエスト」「白いカラス」「アメリカン・ビューティー」「オープン・ユア・アイズ」

B- ・・・・純粋に楽しめる。悪くは無い。
「グラディエーター」「ハムナプトラ」「マトリックス」「アウトブレイク」「アイデンティティ」「CUBU」「ボーイズ・ドント・クライ」

C+ ・・・・退屈しのぎにちょうどよい。(間違って再度借りなきゃ良いが・・・)
「アルマゲドン」「ニューシネマパラダイス」「アナコンダ」 

C- ・・・・もうちょっとなんとかすれば良いのになあ。不満が残る。
「お葬式」「プラトーン」

D+ ・・・・駄作。ゴミ。見なきゃ良かった。
「レオン」「パッション」「マディソン郡の橋」「サイン」

D- ・・・・見たのは一生の不覚。金返せ~!!