1947年東宝
88分

 三船敏郎のデビュー作であり、私淑する先輩志村喬との初共演作である。
 となると監督は黒澤明か――と思うが、これが違ったのである。黒澤は脚本で参加していて、この作品によって三船の尋常でない魅力と才能を発見したのである。

 谷口千吉監督(2007年死去)は八千草薫の夫だった人。晩年夫婦で仲良く山登りを楽しんでいる様子をなにかの記事で読んだ記憶があるが、谷口は日本山岳会会員だったとか。雪山を舞台としたこの作品は、彼の趣味・特技・知識・経験が生かされた自信作であったろう。実際、山岳シーンのリアルな描写が話を大いに盛り上げている。

銀行強盗を働いた3人組(=志村、三船、小杉義男)は雪山へと逃げ込む。警察の追跡を逃れて、旅館から山小屋へ、そして山越えを果たそうと行動する。その巻き添えとなる山小屋の番人と孫娘、登山家の本田。決死の雪山登山の中で人々の運命が大きく変わっていく・・・・・。

 音楽を担当した伊福部昭はこれが映画音楽デビューだった。山小屋の番人を演じる高堂国典の爺ぶりは他の誰にも替えがたい風味がある。その孫娘を演じる若山セツ子は次の出演作『青い山脈』(1949年)で大ブレークをした。今から考えると、いろいろな才能が萌芽のうちに結集した奇跡のような一本である。

 ここでもやはり三船の存在感が凄まじい。主役たるべく生まれてきた人であることが一作目にして証明されている。ニューフェイス(新人)とは到底思えない不敵な面構え、堂の入った迫力ある演技、驚くほどの二枚目ぶりは、デビュー時の三國連太郎においてどうにか比肩できるくらいである。
 カメラの横で黒澤明はどれほど興奮したことだろう。


新文芸坐2