ケアマネジャー(介護支援専門員)の資格を得るための足かけ3カ月にわたる実務研修がやっと終わった。現在、都の登録を済ませ、介護支援専門員証(いわばケアマネ免許証)の交付を待っているところである。それがもらえれば、ケアマネとして実務につくことができる。

 思えば、昨年10月のペーパー試験のための受験勉強開始から1年余り、長い道のりであった。
 いや、受験資格を得るために必要とされる実務経験(介護の仕事)の年数も含めれば6年と4カ月、長い長い道のりであった。
 ちょっといま放心状態である。

銭壷山合宿 017


 ゴールデンウィーク明けから始まった実務研修は、
  • 15日間(87時間)の講義&演習
  • 居宅介護支援事業所での3日間の実習
という構成であった。(受講費用は52,800円
 講義&演習は前半後半に分かれ、真ん中の6月に3日間の実習が入る。つまり、5月と7月は各月とも7~8日の講義&演習があるわけで、おおむね週2回は研修会場まで通い、朝から夕まで講義を受けなければならない。
 これが結構きつかった。

 まず、会場が都心だったものだから数年ぶりの通勤地獄を経験した。

「こんなきついこと、みんな毎日ようやる!」

 酷暑の日々、重いテキストを抱えての1時間の通学は一分一秒苦痛でしかなく、会場に着くころには一日のエネルギーの半分は消費していた。
 後半は早朝通学に切り替えた。研修開始2時間前(!)に会場近くの喫茶店に到着してモーニングを注文し、開始時刻まで本を読んだり瞑想したりしていた。店の窓から見下ろす都心の朝の通勤風景は、10年前まで東京駅近くの事務所まで通勤していたソルティにとって懐かしいものではあったが、もう二度とその渦中に入る気のないことを痛感した。


市ヶ谷駅


 次に、一日中、椅子に座って講義を受けるきつさ。フロアを走り回って声を出し体を動かすのが習性となっている肉体労働者にとって、これは苦痛の極みであり、昼食後の数時間は「傾眠」状態。ふと目覚めて周囲を見渡せば、同じように舟を漕いでいる仲間がたくさん。
 さすがに、講師による一方的な講義形式は時代遅れであり、ケアマネという相談職を育てるのに効果的なやり方でないことは明らかである。講義時間は最低限に抑えられて、個人ワークやグループワークやロールプレイが多く取り入れられていた。それでも、きつい。長時間のデスクワークが向かない体(とくに老眼)になってしまった

 建物の中で一番広い会場だったと思うが、なにせ100人を軽く超える受講生、椅子を後ろに引くのさえ気が引ける人口密度であった。このうちの何パーセントが実際にケアマネとして働くことになるのだろう? 
 毎回ごと新たにクジ引きで6~9人グループに編成される。同じグループになったメンバーといろいろ情報交換したり、自分とは異なる介護現場の話を聞くのは面白かった。
 が、いかんせん、みんなシャイというか現代人である。休憩時間中、それぞれが席について黙って各自のスマホをいじくっている光景を見るにつけ、スマホを持たぬソルティはスマホの功罪について考えさせられた。むろん、スマホに熱中している(フリをしている?)人間に話しかけるのはためらわれるので、会話ははじめから遮断される。
 観察していると、ある年代以下の人は、「隣にいる生身の他人より、SNS上の知人またはゲーム」を優先する傾向があるようである。というか、それがコミュニケーションの基本デバイスになっているように感じた。余計なお世話だが、相談職がつとまるのだろうか??? 

 研修は、通学コースと通信コースに分かれていた。
 いくつかの単元については「DVDによる自宅学習+レポート提出」に代替できるので、通信コースを選べば週2回のところ週1回の通学で済む。通学コースを選んだ人は会場まで来て、その単元のDVDを他の受講生と一緒に視聴し、その場でレポートを書く。むろん、早送りも一時停止も巻き戻し(失礼、早戻し)もできない。要は、同じDVDを自宅で見るか、他の受講生と一緒に会場で見るかだけの違い。
「どう考えても通信コースだろう」
 ソルティは迷わず通信コースを選んだのだが、聞いてみると通学コースの人も結構いて、びっくりした。
 彼らが言うには、
「家にいたらDVDを見る時間なんか絶対に取れない」
「家では勉強したくない」
「有休がとれるから仕事に行くよりラク」
「まさかDVDを見るだけの講義とは思わなかった。講師が来てレクチャーしてくれるかと思っていた」
・・・・・e.t.c.
 ソルティは、スクリーンに投影される、内容的にも映像的にも出来がいいとはおせじにも言えないDVD――講師がパワーポイントを使ってテキスト内容を淡々と喋る――をひがな一日坐って見ているだけなら、現場で仕事していたほうがいい。
 このDVDはほとんどの受講者に不評だった。
  
 思いがけず楽しかったのは居宅介護支援事業所での実習である。
 居宅介護支援事業所とは、簡単に言えば「ケアマネの巣」である。
 そこを根城として、ケアマネたちは、事業所と契約した要介護高齢者の自宅を訪問してアセスメント(状況把握)し、その人に必要な介護&医療サービスを見極め、地域の介護関連サービス事業所(たとえばデイサービスや訪問介護や訪問入浴や福祉用具取り扱い所など)や家族・友人・地域住民・ボランティア等を活用したその人オリジナルのケアプランを作成する。その後は月1回自宅を訪ねケアプランが効果を上げているかどうかモニタリング(評価)する。また、その人が毎月どのくらい介護保険サービスを利用したかを計算し、明細書を保険者(市町村の委託を受けた国民健康保険団体連合会)に提出する。
 ケアマネとは、まったくもって、足(フットワーク)と頭(デスクワーク)と心(相談業務)の3つが必要とされる仕事である。

 3日間、都内の居宅介護支援事業所に行って、実習指導者(ベテランケアマネ)について、いろいろなことを学んだ。事業所の実際の利用者(要介護高齢者)のアセスメントシートを見せてもらい、その人の家族関係や生活歴や病歴やADL(可能な日常生活動作)を把握し、指導者と共に自宅を訪問し、モニタリングする現場に立ち会った。「お宅訪問」的な面白さに加え、施設でなく自宅で暮らしている高齢者の表情や生活ぶりに触れ、施設勤務のソルティにとって新鮮であった。
 やっぱり、施設の高齢者より、個性的で生活感濃厚でイキイキしている。彼らに比べると、施設の高齢者は漂白されて生気を失っている感じすらする(とくに男は!)。
「やっぱり、できる限り最後まで家で過ごすに越したことはない」
と率直に思った。
 資料を使っての講義もふんだんにあったけれど、現場の第一線で働いているケアマネだからこそできる実践的・具体的な内容で、建前でない本音や裏事情も伺えて興味深かった。
 最後は、その事業所と契約している実在の高齢者のケースについて、アセスメントシートをもとにケアプランを作成するところまでやった。
 一日中、椅子に座って眠気と戦っているよりもずっと刺激的で面白かった。
 もっとも実習は3日間だけなので、研修を施す方も受ける方も短期集中的な思いで臨める。これが社会福祉士の現場実習のときのように一カ月連続とかであったら、途中で緊張が途切れ疲弊する場面もあるやもしれない。

 今回実習に行って現場で働くケアマネ達の姿を見たら、ソルティの中のケアマネイメージが改善された。ケアプランの作成を任せてもらっている利用者やその家族との生活の場における人間的係わりの中に、ケアマネジメントの面白さもやりがいもあるんだなあ~と実感できた。

 いまのところケアマネをやるつもりはないのであるが、介護職6年あまりの集大成として、ケアマネ試験を受けて実務研修を受けられたのは良かった。

 ただ、しばらくはもう、試験も研修も実習もカンベンである。


実務研修テキスト
受講生すべての負担であったぶ厚く重いテキスト
(A4サイズで700ページもある)