歩くのが速くて、各札所でご朱印だけもらって「はい、次!」とサクサク動ける人なら、4日間でも可能かもしれない。
でも、それはつまらない。
道中の風物やそれぞれのお寺の雰囲気をじっくり味わってこそ、秩父と交感できるのではないかと思う。
ソルティも無理すれば5日間で結願できたろうが、途中、結構寄り道した。
秩父市内の今宮神社(見事なケヤキ!)や秩父神社で良い‘気’に身をさらし、小鹿野市内の十輪寺で裏15番ご朱印をGETし、旧吉田町の椋神社や龍勢会館で秩父事件や龍勢祭りを学んで地元民の心意気を汲んだ。
最後に寄った華厳の滝は想像以上に美しく、パワースポットの名に恥じないマイナスイオン濃度に、心身ともに浄化された。
寄り道によって、巡礼はいっそう深まり、秩父の風土と歴史と信仰とを伺い知ることができた。

秩父華厳の滝
5ヶ月の巡礼期間中、秩父が舞台のアニメ映画を見、他人の遍路記録を読み、養蚕について調べ、道中見かけた花の名前を尋ねた。
訪問回数を重ねるごと、札所番号が大きくなるごとに、文字通り、ますます深く秩父の懐に入り込んでいく思いがした。
区切り打ちのいいところである。
ゆっくりと、自分のペースで廻るのが一番である。
【行程】
第1日 秩父鉄道和銅黒谷駅~第1番四萬部寺・・・・・第11番常楽寺~西武秩父駅
第2日 西武秩父駅~第12番野坂寺・・・・・第23番音楽寺~佐久間橋
第3日 佐久間橋~第24番法泉寺・・・・・第30番法雲寺~秩父鉄道三峰口駅
第4日 秩父鉄道三峰口駅~第31番観音院~須崎旅館(小鹿野町)
第5日 須崎旅館~第32番法性寺・・・・・第33番菊水寺~龍勢会館(旧吉田町)
第6日 龍勢会館~第34番水潜寺
総歩行距離 113 ㎞
総歩行時間 31時間20分
平均時速 約3.6 ㎞
もっとも大変だった道(札所間)はどこか?
どこもあまり大変だったという思いはない。
4日目の30番から31番の5時間歩行も、怖れていたのは距離そのものよりも、アスファルト林道の単調さであった。
ところが、記事に書いたように、退屈する間もないアトラクションの連続で、あっという間の5時間弱だった。
山登りにあたる部分――2番真福寺への山道、26番円融寺岩井堂のある琴平ハイキングコース、32番法性寺までの大日峠越え、34番水潜寺に到る破風山札立峠越え――も、想定範囲内の楽しいきつさであった。
おおむね、道しるべもしっかりしていた。
四国遍路に聞くような難所、いわゆる遍路ころがしは、秩父遍路には存在しないと言っていいだろう。
もっとも、たとえば6日間連続の通し打ちするなら、終わりにいくほどきくつなるのは間違いない。
大日峠(第5日)
一晩降り続いた雨が上がったばかりだった
もっとも印象に残った道(札所間)はどこか?
5つ上げる。
- 1~3番 四萬部寺から真福寺を経て常泉寺に至る山越えの道。最初に土地の人(大きな荷を背負ったお婆ちゃん)に話しかけられた。
- 5~7番 語歌堂から武甲山、二子山を仰ぎ見ながら法長寺に至る武甲山ストリート。
- 19~23番 龍石寺を出て秩父橋(荒川)を渡り、岩之上堂を経由して音楽寺に至る山辺の道。いにしえの道の風情が感じられた。
- 30~31番 法雲寺から三峰口駅を経由して観音院に続く区間最長の37号路。次々と移り変わる街道風景が面白かった。
- 32~33番 法性寺から菊水寺に向かう花とようばけの里の道。これぞ、THE・小鹿野町!
区間最長の国道37号路
当然といえば当然だが、歩く距離が長い札所間ほど印象に残っている。
山の中の道はさほど印象に残っていない。
山道はどれも似たり寄ったりってのもあるし、普段から自分が山歩きをよくしているせいもあろう。
人によっては、26番円融寺から岩井堂を経て27番大渕寺に到る琴平ハイキングコースが心に残るかもしれない。
とくに紅葉の季節に行ったら目が覚めることだろう。
ソルティの場合、ここを歩くのは二度目で、一度目がまさに紅葉シーズンだったので、感動が薄かった。

琴平ハイキングコース(第3日)
もっとも印象に残った札所はどこか?
神セブンならぬ、観音セブンは?
- 第2番真福寺 ・・・・・人里離れた丘陵の木立の中、鳥の声や風の音に囲まれた爽やかな佇まいが好ましかった。第1番からの山登りでいきなり洗礼を受けたあとだけに、一息つける感がうれしかった。「風と木の憩う無人寺」
- 第16番西光寺 ・・・・・秩父の街中に突然出現する亜熱帯風オアシス。四国八十八ヶ所ご本尊の回廊もありがたい。名前のとおり「西国の光あふれる真言の寺」
- 第20番岩之上堂 ・・・・・熱帯植物園のごとき瑞々しくも鬱蒼とした境内。蓮池にさえずるウグイスの音も風流であった。「緑濃き蓮とウグイスの寺」
- 第23番音楽寺 ・・・・・やっぱりここははずせない。秩父事件の農民になって秩父の街を見下ろすとき、背後の丘に並ぶ十三権音たちの優しさが胸に沁みる。「志の鐘響く寺」
- 第25番久昌寺 ・・・・・お堂の裏にある池の景観がまことに美しい。季節折々に訪ねたい花の名所。「あおによし奈良の気満ちる花の寺」
- 第31番 観音院 ・・・・・因縁まとう一本道の果てにある寂静の古刹。一石づくりの仁王像、石段の句碑、清浄の滝など見所多い。「荘厳なる滝と石の寺」
- 第32番 法性寺 ・・・・・秩父札所髄一の難所にして絶景の岩船をもつ。秩父遍路の文字通りのピークと言える。「絶叫と絶景の岩船乗りの寺」
ほかにも、平賀源内ゆかりの第7番法長寺、『この花』の舞台となった第17番定林寺、鍾乳洞のある橋立堂など、趣きある、さまざまな物語に彩られた、忘れ難い札所ばかりであった。
なんのための巡礼だったのか?
始める前も、やっている最中も、終わった後も、よくわからない。
趣味と健康と暇つぶしというのが一番近いところかもしれない。
仏教好き、山歩き好きなソルティが、秩父巡礼するのは自然の流れとも言える。
ただ、満願果たし、都心に帰るガラガラの西武秩父線に乗って、疲れた両足を前席のシートの上に投げ出し、闇の中に沈みゆく秩父の里を車窓から見送りながら、
「ああ、もうこれで始める前の自分には戻れない」
とふと思ったのは、奇妙なことである。