この時期、高知を歩いて一番目立つ草花は、ススキでもコスモスでも芙蓉でもなく、セイタカアワダチソウである。
道路沿いに、田野に、山の中に、その名の通り、人の背丈を超える高みから、やまぶき色した穂のような花の大群が、通り過ぎる遍路たちを見下ろしている。

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見て愛でるような美しい花ではない。
それはいいとして、問題はこの花のすさまじいまでの繁殖力である。

この花は竹やスギナと同じように地下に根を張って仲間を増やしていくのだが、その際に根っこから毒(化学物質)を出して周囲の草花を根絶やしにしてしまうのである。
セイタカアワダチソウが土地の一角に生えると、もともとあった草花たちは姿を消して、あっという間に、あたり一面、黄色く染められてしまう。

外来種のセイタカアワダチソウが、日本の伝統的な秋の草花たちを一掃する。
かくして、単調で凡庸な秋の光景が広がっていく。

そんなことを考えながら歩いていたら、前方から来た70代くらいの男に声かけられた。

「何か悩みでもあるのですか❓」

「遍路=悩みがある」というイメージはやはり強いので、その問い自体には驚かないが、普通は、歩いている遍路に対してその問いを直接ぶつける人は、土地の人あるいは遍路同士を問わず、まずいない。デリカシーというか、プライバシーの問題である。
なので、その強引な声かけに不意をつかれ立ち止まった。

ひと呼吸置いて、
「いや、別にありません」
ソルティがそう答えると、男はちょっとがっかりしたようであった。
が、ひるまず問いかけてくる。
「真言宗を信仰してますか❓」
これもプライバシーの領域と思ったが、
「いいえ、違います」

もはやこちらの答えなど関係ない勢いで、男は続ける。
「真言宗は弘法大師空海が説いたけど、もともとはお釈迦様の教えです」
「????」
「でも、お釈迦様が本当に伝えたかったのは、法華経だったのです。涅槃に入られる前に、そうおっしゃられました」

こちらが何も知らないと思って、よくもまあそんなデタラメを言いやがって・・・・
と、内心あきれたが、この強引なこじつけが一体どこに落着するのかが気になる。

「だから、真言も浄土も方便です。法華経こそがお釈迦様の真実の教えです!」
そう力強く言って、男は一枚のパンフレットを差し出した。
見ると、日蓮正宗のお寺の案内だった。

男「道中お気をつけて」
ソルティ「ありがとうございます」

そう言って別れた。

お釈迦様の真実の教え・・・・ねえ。

周囲のセイタカアワダチソウが迫ってくるかのように暑苦しく感じられた。