2016年イタリア・フランス合作
94分

 別記事で『エクソシストとの対話』(島村菜津著、2012年講談社文庫)という本を取り上げたが、そこではイタリアのエクソシズム(悪魔祓い)が昨今急速に増えていることが述べられていた。著者の島村は、なんとかして悪魔祓いの現場を取材しようと骨折るが、教会側のガードが固く、苦労していた。
 
 このドキュメンタリーは、まさに悪魔祓いの現場にカメラが入って、なまなましくもショッキングな悪魔憑きの現実を描いている。
 原題 Liberami は「私をお救いください」の意。
 
 マフィアとオレンジで有名なイタリア南端のシチリア島。高齢のカタルド神父は名の知れたエクソシストであり、彼の行き先にはイタリア全土から来た悪魔祓いを求める人々が列を作る。教会の仲間とともに、人々の話を聴き、助言を与え、祈り、ミサを上げ、悪魔祓いを行う神父。その仕事は朝から晩まできりがない。
 
 島村が取材したのは1990年代の終わりであった。その後、エクソシストの数は増加する一方だという。悪魔に憑かれる人々が年々増え続け、需要が供給に追っつかない状態なのだ。つまり、現代の医学(むろん精神医学含む)では解決できない心身の症状に苦しめられている人が増えていることを意味する。
 映画のクレジットによると、イタリアだけでなくフランスやアメリカでもエクソシストの需要は高まっているらしい。
 いったい、これは何を意味するのだろう?
 
 本当に悪魔憑きなのか、つまり悪魔は本当にいるのか?
 カトリック教会のエクソシズムには本当に効果があるのか?
 なぜ今になって欧米でこんなに悪魔憑きが増えているのか? 
 医学者や世間一般は事態をどう見ているのか?
 ヴァチカンはこうした状況をどのようにとらえているのか?

 フィルムは、悪魔祓いの様子を“たんたんと”映し出すだけで、なんらくどくどしい説明はしない。 
 視聴後、あまりの説明の無さに肩透かしを食らう感もなきにしもあらずだが、合理主義とITで覆われた現代社会で、古来からの悪魔祓い儀式による癒しを強く求める人々がいるという事実そのものが、人間性復古(ルネッサンス)の気概――人間をすべて理屈で割り切れると思うなよ!――を感じさせる。
 ある意味、スローフード運動を起こしたイタリア人らしい。


ルネサンス


評価: ★★★

★★★★★ もう最高! 読まなきゃ損、観なきゃ損、聴かなきゃ損
★★★★  面白い! お見事! 一食抜いても
★★★   読んでよかった、観てよかった、聴いてよかった
★★    いい退屈しのぎになった
★     読み損、観て損、聴き損