1998年新潮社
2010年文庫化

 平安時代の宮中で起きた過去と現在の殺人事件の謎を描く王朝ミステリー。著者の諸田玲子は、1954年静岡生まれの時代小説作家で、王朝物のほか江戸物も沢山書いている。

 歴史フィクションは時代考証がたいへんであるが、よく調べて、上手に取り込んでいる。
 平安時代の御所や貴族の屋敷の構造やしつらえの様子、年中行事、貴族や女官や庶民の着衣・食生活・娯楽、物の怪やお香や妻問い婚や和歌の応酬や漢詩の引用といった独特の文化、天皇の祖父となることで権力を握る摂関政治の仕組み・・・・・・等々、優雅でリッチで華やかにして裏はどす黒い貴族政治の様子が描かれていて、読んでいると平安時代にタイムワープしたかのような楽しさがある。

 とりわけ楽しいのが、ヒロインやヒーローを食うほどの個性的な脇キャラである。
 子供の頃の虐待トラウマからSM趣味に走る美貌の皇太子とか、赤茶けた髪をもつ深窓の(しかし貪婪な性欲をもつ)姫君とか、猫に乳首を吸わせる淫乱で権謀術数に長けた中宮(小川真由美の薬子を思わせる)とか、よくもまあ魅力的なキャラを思いつくなあと感心する。大塚ひかりの示したようなエロチックな昔の日本人のオンパレードで、女性作家の描くエロスというものを堪能できる。

 惜しむらくは、推理小説としては謎解きが弱いし、設定や筋立てに無理を感じる。
 たとえば、7年のブランク後に名前(通称)を変えて宮中に復帰した女官について、だれも同一人物と気づかないのは、整形手術のない時代ちょっとあり得ないだろう。また、天皇の後見役にして時の最高権力者が、自らの過去の犯罪暴露を恐れて、一介の女官や同族の子飼いの若者を殺すというのも無理を感じる。ましてや左遷されるなどちょっと考えられない。現代よりずっとずっと権力者の立場は強かったはずだ。
 
 といった難点はあるものの、王朝文化ファンにとっては類まれなる魅力を有した小説であるのは間違いない。

ひなまつり



評価: ★★★

★★★★★ もう最高! 読まなきゃ損、観なきゃ損、聴かなきゃ損
★★★★  面白い! お見事! 一食抜いても
★★★   読んでよかった、観てよかった、聴いてよかった
★★    いい退屈しのぎになった
★     読み損、観て損、聴き損