江戸絵画がブームだそうである。
 2016年に東京都美術館で開催された伊藤若沖展は、最高3時間待ちという大反響だったらしい。
 ソルティもここ数年、歌川国芳月岡芳年楊洲周延(ようしゅうちかのぶ)、河鍋暁斎(かわなべきょうさい)といった、幕末から明治にかけての異端画家たちの展覧会に足を運んできたが、確かにどこも賑わっていた。特に若い人が多いのに驚いた。


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 今回の展示は、そのアヴァンギャルドな個性ゆえに江戸時代絵画史の傍流とされてきた8人の画家たちの作品を集めたものである。生誕順に、

  岩佐又兵衛(1578-1650)
  狩野山雪 (1590-1651)
  白隠慧鶴 (1685-1768)
  伊藤若沖 (1716-1800)
  曽我蕭白 (1730-1781)
  長沢芦雪 (1754-1799)
  鈴木其一 (1796-1858)
  歌川国芳 (1797-1861)

 まさに江戸時代(1603-1867)を網羅する。白隠、若冲、国芳以外は、はじめて聞く。

 美術史家の辻惟雄(のぶお)は、1970年に白隠慧鶴と鈴木其一をのぞく上記6人の作家を取り上げた『奇想の系譜』という本を著した。

そこに紹介されたのは、それまでまとまって書籍や展覧会で紹介されたことがない、因襲の殻を打ち破り意表を突く、自由で斬新な発想で、非日常的な世界に誘われる絵画の数々でした。(公式パンフレットより抜粋)

 今回の展示は、空前の江戸絵画ブームを受けて出版から約半世紀後に実った、辻の著作が元になった企画展なのである。


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東京都美術館

 
 午後1時に友人と上野公園にある会場で待ち合わせた。
 ロビーにはすでに長蛇の列。本日は特別企画として、監修者である山下裕二の講演会があるのだ。聞きたかったが、もはや整理券配布は終了していた。
 荷物をロッカーに預け、会場に入ると、最初から最後まで途切れることのない人の波。並ぶのが苦手なソルティは、前列の鑑賞者の肩と肩の間から鑑賞することが多かった。
 一点一点じっくり観たいのなら、雪の日に来るか、平日の開館直後じゃないと難しいかもしれない。それも、3月10日に日曜美術館(NHK)で取り上げるらしいから、それ以降は若沖展の二の舞となる可能性が高い。
 江戸絵画人気は本物である。
 
 まさに「奇想」という言葉がピッタリな、ユニークで楽しい絵画の洪水に、「凄い!」の連発であった。
 漫画っぽいものあり(手塚治虫風)、劇画調あり、グロテスクあり、ガリバー風誇張あり、キュート系あり、派手でけばけばしい色彩あり、「ウォーリーを探せ」的緻密あり、西洋画風あり、ユーモラスあり、成金風あり、王朝物語風あり、禅的枯淡あり・・・。
 
 ここにあるのは「美」というよりも、「力」とか「遊び」とか「過剰」といった言葉がよりふさわしいエネルギーの爆発である。それこそが「因襲の殻を破る」。

 空前の縄文土器ブームでもあると聞く。
 日本人はいま、かつてないほど閉塞感を抱いているのかもしれない。

 鑑賞後は、かつて精養軒のあったビル内のカフェで、友人とおしゃべり。
 そういえば、彼女も奇想画家であった。