2015年集英社
2018年文庫化

 異色の風俗ルポ『さいごの色街 飛田』の著者による、親の介護&見送り体験記。臨場感あふれる筆致と周到な観察は、さすがプロのライターである。
 
 ことは、著者の母親が台所仕事中に大火傷してしまったところから始まる。すぐ病院に行って手当を受ける。数日の入院は必要だが、命に別状はなかった。ホッと安心して胸をなでおろした翌々日、母親の容態は急変する。
 エコノミー症候群――。長時間ベッド上で同じ姿勢でいたことで足か手に血の塊ができ、それがトイレに行くため急に体を動かしたタイミングで、肺に飛んだのであった。
 集中治療室に入れられ、あっという間に意識不明、延命治療状態となる。
 変わり果てた母親の姿にショックを受けるも、親戚一同を呼び集め、医師の説明を聞く。生命維持装置をはずすかどうかの決断を迫られる。
 はじめて経験する身内の通夜と葬儀の手配。金の算段。関係者への連絡。次から次へとやることが出てくる。
 すべてをどうにか済ませ、ひと段落したかと思えば、今度は父親の番。
 認知が強くなり一人暮らしは到底無理。家族交替で見守りを行いながら、入所施設探しに奔走する。その間に自分の仕事をこなす。
 母親の死から4か月、老人ホームに入った父親は肺炎で亡くなった。
 
 著者は、元気で健康だった両親を、わずか半年のうちに相次いで亡くしたのである。
 心の準備も覚悟もなく、いきなり降って来た一大事。落ち着いて考える暇もなく、次々とやって来る事案に決断や選択を迫られる著者の戸惑いや混乱、親戚一同を巻き込んだ怒涛の日々の様子が、まざまざと伝わってくる。
 家族を見送るのは、心理面は措いといても、物理的側面だけでも大変なのだと実感させられた。
 
 それにしても、先立つものはお金である。
 介護保険料、施設入所にかかる費用、タクシー代、病院の入院治療費、葬儀会社への支払い、お寺への支払い、参列者への記念品代、空になった住居の片づけにかかる費用・・・。人ひとり送るのにかかる費用のハンパないこと。
 削れるものはなるべく削りたいのが心情。とくに、お寺関係は戒名やら追善法要やら、「これ必要?」というものが多い。あらかじめ親と相談し、どうしたいか聞いておくのが無難かもしれない。
 
 著者の場合、父母と仲の良かった義理の姉が近くに住んでいて、ずいぶんと助けられている。テキパキと有能な彼女と二人三脚で最初から最後まで対処している。そのほか、自分の娘や息子、いとこ、叔父や叔母、甥や姪、元夫なども協力的である。家族関係、親戚関係、それに友人関係が良いことは、こういう場合、ものを言うなあと思った。檀家寺のある人なら、普段からお寺と懇意にしておくことも役立つだろう。
 
 考えようによっては、悲しみにくれている暇を許さない葬送のバタバタは、かえって有益なのかもしれない。大切な身内が亡くなった後の一番大変な、一番しんどい瞬間を、大勢の人と一緒にいられること(いざるをえないこと)は、当人の落ち込みを緩和する働きがあるのではなかろうか。

  
ふと鏡を見る。私の顔は、五十二歳の顔だ。皺もシミもほうれい線もある。生え際に白髪も混ざっている。五十二歳は、間違いなく十分に大人――人生の後半を歩いている、いい大人だ。後悔ばかりしている五十二歳。情けないなあ。もっと若く親を亡くした人だって、もっと悲惨な形で親を亡くした人だって、世の中にはごまんといるのに。七十九歳と八十四歳の親が亡くなったことが、そんなにも悲しいのか、と自問する。悲しいのである。


 世の中には準備できることと、準備できないことがあるよな。
 読後、親に安否確認のメールを送った。



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評価: ★★★

★★★★★
 もう最高! 読まなきゃ損、観なきゃ損、聴かなきゃ損
★★★★  面白い! お見事! 一食抜いても
★★★   読んでよかった、観てよかった、聴いてよかった
★★    いい退屈しのぎになった
★     読み損、観て損、聴き損