2017年アメリカ
111分

 原題 The Endless どおりの内容のSFスリラー。

 人里離れた山中の小さな宗教コミュニティで幼少時代を過ごした兄弟は、離脱し脱洗脳受けるも、現実社会に馴染むことができず、数年ぶりにコミュニティを再訪する。久しぶりに出会った人々は、若々しく美しく、穏やかで親切。裏切った兄弟を許し、仲間として受け入れてくれる。そこはまさにアルカディア(理想郷)のよう。
 が、不可思議な現象が続いて起こり、兄弟は疑念と恐怖にかられていく。
 そこは、得体の知れない存在の力によって、ループする時間に閉じ込められた人々が住むエリアだったのである。
 
 「ループする時間に閉じ込められた人々」という仕掛けは、イサーク・エスパン監督『パラドクス』(2014年メキシコ)に似ている。つまり、輪廻転生の比喩とも読める。

ループする

 
 興味深いのは、このエリアでループしている人々はみな自殺している点である。宗教コミュニティの成員もまた、「神」の声を聴き、3つの満月の夜に集団自決し、瞬時にループして数年前に戻る――を繰り返している。彼らが若々しいのはある年齢以上に歳をとらないからなのである。
 心霊業界ではよく、「自分が死んだことを理解できない自殺者が地縛霊となって、何度も自殺を繰り返す。その際、その場にいた波動の近い生者を道連れにすることがある」といった話が聞かれる。自殺はなにものも解決しないのである。
 
 兄弟は「神」の存在を知り、このエリアの秘密を知るのだが、すぐさま脱出しようとする兄に対し、弟はためらいを隠さない。
 コミュニティの中にいれば、平和で安全で豊かな生活、周囲の人々に愛される暮らしが得られる。恋人もできるかもしれない。一方、現実社会においては、元オカルト教団信者の潜在的反社会分子に対する世間の目は冷たく、まともな仕事に就けず、恋人もできない。加えて、支配的な兄の下での窮屈な生活が待っている。
「どうせ帰ってもクソみたいな人生しかない」と弟は言う。
 それでも最終的には弟もまた脱出を選び、兄弟はエリア脱出に無事成功し、現実社会に帰還するラストが待っている。
 永遠にループする幸福より、先の分からぬクソみたいな人生を選んだのである。(仏教的に言えば、この「クソみたいな人生」も輪廻転生によってループする)

 一点よくわからないのは、この先もループし続けるコミュニティの物語の中で、2人の兄弟はどのような形で登場するのだろう?――という点である。たとえば、次回のコミュニティのループの中に兄弟が登場するときに、すでに還俗している現実社会の兄弟は同時に存在していることになるのだろうか?
 こうした物語にパラドクスは欠かせない。



評価: ★★

★★★★★ もう最高! 読まなきゃ損、観なきゃ損、聴かなきゃ損
★★★★  面白い! お見事! 一食抜いても
★★★   読んでよかった、観てよかった、聴いてよかった
★★    いい退屈しのぎになった
     読み損、観て損、聴き損