2006年角川学芸出版
『庶民たちの平安京』に続き、繁田信一の平安王朝ワールドに浸る。
この著者の書くものは、これまで人があまり扱っていない王朝時代の題材を取り上げ、ユニークな切り口と斬新な視点で描き出すところに魅力がある。今回も、王朝最盛期の天皇たちに焦点を当て、華やかで輝かしい玉座の裏にある天皇たちの苦渋と孤独と不如意のさまを描き出している。
取り上げられるのは、次の6名。
- 一条天皇 ・・・『枕草子』では妻(定子中宮)と相思相愛の幸福な帝として登場するが、晩年は藤原道長・頼通の圧政の下、孤独と不如意をかこつ
- 円融法王 ・・・一条帝の父親。一人息子の行く末を心配するも、藤原兼家の横暴に太刀打ちできず、息子と切り離される
- 東三条院藤原詮子 ・・・一条天皇の母親。藤原兼家の娘にして道長の姉。皇女でもないのに上皇に准じる扱いを受けるという栄華の極みに達するも、当の息子からは疎まれる。
- 花山法皇 ・・・一条天皇の前帝。藤原兼家の奸計により19歳で出家させられ玉座を退く。仏道修行に励もうと意気込むも、一条帝より横槍が入る。
- 上東門院藤原彰子 ・・・一条天皇の后にして、藤原道長の娘。国母として女性最高の栄誉に浴す。11歳にして8つ歳上の一条天皇に鳴り物入りで嫁がされるも、当の主人は別の女(定子)に夢中で、孤独な十代を過ごす。
- 三条天皇 ・・・一条天皇の後帝。強力な後ろ盾を持たず、一条帝から後一条帝につながる道長・頼通政権の下、つなぎ駒のごとないがしろにされる
6名は一条天皇とゆかりの深い人たち、つまり、王朝時代の最盛期を担った藤原兼家――道隆・道長――頼通の三代にわたる摂関政治完成期を生きた天皇たちである。
その意味で、この本はタイトル通り「天皇たちの孤独」に焦点を当てながらも、実際には、目的のためには手段を選ばない藤原北家一族の横暴のさまを、裏(玉座)から描いたものと言うことができる。
親子、兄弟、姉妹、夫婦、叔父、叔母、甥、姪・・・血縁と婚姻によって成り立つ家族の絆というものが、権力闘争の渦中にあってはなんら安らぎと信頼をもたらすものにはなりえない、ということをつくづく感じる。(大塚家具の一件も想起)
そうした一家族の家庭内紛争が政権の居所を左右し、天皇・貴族をはじめとする天下が振り回されたのが、この時代だったのである。(ある意味、宇宙レベルの家族喧嘩である『スター・ウォーズ』のハタ迷惑を思わせる)
覇権こそが世の最大の幸福と信じ、家族の一員を自らの野望達成の駒とみなすのを当たり前とする一族の振る舞いに、生まれながらに巻き込まれ、最大最強の駒として使い尽くされた挙句、用がなくなれば捨てられる「玉座の主」に対して、お気の毒としか言いようがない。
日本で一番孤独なのは、天皇陛下だと思う。
昔も今も――。
★★★★★ もう最高! 読まなきゃ損、観なきゃ損、聴かなきゃ損
★★★★ 面白い! お見事! 一食抜いても
★★★ 読んでよかった、観てよかった、聴いてよかった
★★ いい退屈しのぎになった
★ 読み損、観て損、聴き損