1966年大映
86分
原作 谷崎潤一郎「刺青」「お艶殺し」
脚本 新藤兼人
撮影 宮川一夫

 変態チックな谷崎の原作を、変態モードの増村の演出で十全に描き切った異色の傑作。
 60年代日本映画はここまで自由で、ここまで斬新で、ここまで淫靡であったか!

 むろん、天才宮川一夫のキャメラは退廃美を色鮮やかに映して、「お見事!」の一言に尽きる。
 けれど、やっぱり、圧倒的な讃辞はヒロインお艶をつとめた若尾文子にこそ捧げられよう。

 とにかく、凄い!
 とにかく、あだっぽい!
 とにかく、美しい!
 とにかく、上手い!

 若尾は、その美しさや色っぽさにどうしても目が行くので、なかなかそうと気づかれないのだが、ずば抜けた演技力の持ち主である。
 お艶は、男を肥やしにして強くしたたかに生きる元大店(おおだな)のお嬢様。驕慢でわがままなお嬢様が、背中に女郎蜘蛛の刺青を背負ったことで、ケツまくった毒婦に変貌していく。
 とんでもなく難しい役である。そんじょそこらのアイドル女優が演じられる役ではない。

ジョロウグモ


 若尾は怖いほど役にはまっていて、「素の若尾文子はこれなのか?」と思うほどの域に達している。正直、観ながら杉村春子の演技が連想された。
 吉永小百合や原節子はもちろん、京マチ子にも岩下志麻にも岸恵子にも草笛光子にも浅丘ルリ子にも高峰秀子にも藤純子にも田中裕子にも大竹しのぶにも、この役をこれほど見事には演じられまい。(あえて云うなら、山田五十鈴ならできるかも・・・)

 『妻は告白する』でも魅せた「増村×若尾」コンビの凄まじい破壊力にただただ圧倒される。



評価:★★★★

★★★★★ もう最高! 読まなきゃ損、観なきゃ損、聴かなきゃ損
★★★★  面白い! お見事! 一食抜いても
★★★   読んでよかった、観てよかった、聴いてよかった
★★    いい退屈しのぎになった
     読み損、観て損、聴き損