2017年
96分

 国の内外で大層評判になったインディーズ(自主制作)映画。

 予告編から新手のゾンビ映画かと思っていたら、質の高いメイキングフィルム・ドラマ、すなわち一本の映画の「生みの苦しみ」をコミカルかつに感動的に描いた作品であった。
 これは評判通り、いや評判以上の傑作である。

 マトリョーシカのごとき入れ子構造が面白い。

「イケメンゾンビ男子に襲われる美女」
――というシーンを、いわくある廃墟で撮っている最中に本物のゾンビが現れ、血みどろの殺戮ゲームが始まる
――というテレビ映画を、無謀にも生中継しかも手持ちカメラによるワンカットで撮影することを強いられたスタッフや俳優のドタバタを描く
――という映画である。

入れ子構造

 
 重層構造になっている。
 ゆえに、役者も監督も一人で重層的役割がもとめられる。
 たとえば、イケメンゾンビ男子役の俳優(長屋和彰)なら、「美女を襲うイケメンゾンビ」と、「本物のゾンビに襲われながらも共演女優を助けようとする“伊達男”」と、「“伊達男”を演じる、こだわりが強くて扱いが難しい人気男優」という3つの役を演じなければならない。かなり高度な演技力が必要だ。
 同じく、この映画の監督兼脚本を担当した上田慎一郎は、「本物のゾンビに撮影現場を襲われながらも、チャンスとばかりにカメラを手放さず、リアルなゾンビ映画を撮ろうとするマッド監督」と、「マッド監督を演じる、家庭持ちの売れない映像監督」という2つの役を演じながら、その上に、この映画全体を監督している。こりゃあ相当の才能である。
 
 一見複雑な入れ子構造であるが、脚本が優れているので、非常に面白い効果を生んでいる。
 映画撮影の舞台裏がさらけ出されるにつれて、俳優やスタッフたちの裏の顔が暴かれていき、そのまた奥にある別の顔が最後には浮かび上がる。それがこの映画のテーマともいえる「映画作りの喜びと情熱」につながっていく。見事な構成に舌を巻いた。
 
 また一人、ユニークな才能をもつ映画監督が日本に誕生したのは間違いない。
 日本映画もなかなか死なない。

 
評価:★★★★

★★★★★
 もう最高! 読まなきゃ損、観なきゃ損、聴かなきゃ損
★★★★  面白い! お見事! 一食抜いても
★★★   読んでよかった、観てよかった、聴いてよかった
★★    いい退屈しのぎになった
     読み損、観て損、聴き損