1967年東宝
128分
原作 滝口康彦
脚本 橋本忍
音楽 武満徹

 日本が世界に誇る名匠・小林正樹監督の『人間の条件』(1959)、『切腹』(1962)、『怪談』(1965)に並ぶ代表作。第28回ヴェネツィア国際映画祭の国際映画評論家連盟賞、および昭和42年キネマ旬第1位を獲っている。

 スタイリッシュで美しい映像は言わん方なし。城郭の様々な意匠を背景にした出だしのクレジットから、すでに極上の小林美学が横溢している。モノクロ撮影がすこぶる映える。

 出演陣も最高。
 三船敏郎の渋さ、司葉子の凛とした美しさ、加藤剛の清潔感、仲代達矢のニヒルな存在感、神山繁の迫力ある悪党ぶり、大塚道子の憎々しい姑姿、市原悦子の庶民臭さ。そのうえに、脚本が橋本忍、音楽が武満徹と来ている。これだけの役者・スタッフを揃えられる小林監督の偉大さ、当時の東宝の勢力、かつての日本映画の輝きを前に、「映画芸術はすでに過去の遺物」という感が拭い得ない。


城郭

 
 上意討ちとは、主君の命(上意)を受けて罪人を討つことの意。
 だが、本作の場合、主君の命(上意)を討つこと、つまり上意に逆らって歯向かうの意と取れよう。
 拝領妻とは、「主君から賜った妻」のこと。主君の要らなくなった側室が家臣に下賜される慣習は、女が「物」として扱われるところでは洋の東西問わず、よくあったことらしい。
 
 主君から愛想尽かされた側室(=司葉子)を命によって否応もなく拝領した家臣(=加藤剛)。数年連れ添い、馴染み、子までなした。今では強い愛情で結ばれている二人。ところが、主君のお家事情から、再びこれを大奥に返せと命じられる。
 道理もへったくれもない非道な藩主の言いつけに、堪忍袋の緒が切れて、極刑やお家取りつぶしの脅しもものかは、尊厳かけて立ち上がる藩士一家の話である。その点で、『切腹』のテーマと重なるところ大きい。「権力機構の理不尽 V.S. 個人の尊厳」というのが小林監督の追求し続けたテーマなのだろう。
 その場合、権力機構の中には、将軍や藩主や上官あるいは官僚機構や警察などの制度上の権力だけでなく、個人の自由意志や信条を阻んでやまない家制度や、親類縁者や近隣住民(五人組のような)にも咎を負わせる連帯責任の仕組み、そこに同調して個人の“わがまま”を裁く世間なども含まれよう。

 どこぞの国のお姫様の婚約騒ぎを思わせる。



評価:★★★★

★★★★★ もう最高! 読まなきゃ損、観なきゃ損、聴かなきゃ損
★★★★  面白い! お見事! 一食抜いても
★★★   読んでよかった、観てよかった、聴いてよかった
★★    いい退屈しのぎになった
     読み損、観て損、聴き損